伯爵夫人を殺したのは誰だ

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伯爵家のシミ

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伯爵家に限らず何処の家も何かしらの問題がある。特に貴族令嬢の中には生まれてから死ぬまでの間に自分の思う通りに何かを決めたことなど一度もないような人もいて、若い頃は両親に、兄姉に、結婚してからは夫に、義両親にと、ほぼ盲目的に従わなくてはならない。伯爵家に嫁いでからは、それらにプラスして、親切なご友人やら、夫の愛人を狙う女達から、自分の権利を奪われないように戦ってきた。

あまりにも自分を殺しすぎて、母の名前すら知らない息子と、ただ鈍感なだけの夫に辟易していたある日、ケイトはやってきた。

ケイトは息子デイビスには出来た嫁だった。こちらの我儘をすべて引き受けてくれて、伯爵家を守る為に働いてくれていた。勘違いや見栄から立場を弁えられずにいる使用人達の目を掻い潜り、友人達の力を借り、本来の目的を果たした。

デイビスも、夫の鈍感さを受け継いでおり、いまだ真相に辿り着いていない。

急に現れた王弟と、その護衛、ケイトの知り合いのシルバという男。未だ逃げ続けている平民の娘。

知らなかった妻の友人達の出現に頭が回らなくなっている。

妻を取り巻く家族の問題や、伯爵家に巣食うシミの存在にも気づかない。

女の敵は女だとは、昔から良く聞く言葉だが、まさしく今の状況はそんな感じ。






「伯爵夫人とやらに、どれだけの魅力を感じているのか、彼女達の頭の中を覗いたらわかるのでしょうか。」

ケイトはニコリともせずに言い放ったけれど、愛想笑いを浮かべる面々は「そんなこともわからないからお前はダメなんだ」とでも言いたげだ。

「いらないならくれ」とでも厚顔無恥に擦り寄ってくる者もいるが、彼女達にはその資格など最初からない。





「これが一番この中で値が張りそうなのに、無事だったのですね。」

彼女が胸に抱くその時計は先々代の伯爵夫人が一度も見ることが出来なかったものである。それには珍しい仕掛けがあって、伯爵夫人になる素質のある者にしか見えない物だった。

伯爵夫人になる為に、元の婚約者を罠に嵌めてその座に収まった先々代の伯爵夫人は、この時計には選ばれなかった。

夫は、彼女の子ではなく、前の婚約者との間に生まれた子のため、彼自身は時計を見ることができる。

使用人達がこの時計に目をつけたなら、一番に売り払っていただろう。なら何故目をつけられなかったのか。

単純に見えなかったからだ。きっと、見る目を持たなかったから、見えなかった。見えるのは伯爵家の人間として認められた人だけ。言ってしまえば、そこに本人達の意思など存在せずに、ただ一つの道具が見えるか否かで結婚が決まってしまう。

今更言っても仕方がないが、自分にだって夫以外に好きな人はいた。だけど、初めてあの時計を見た日から、自分の人生は決まっていた。



皆が勘違いする伯爵夫人という肩書には特別なものは何一つない。あるとするなら、心を殺して、家に尽くせるか、それだけだ。





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