41 / 53
ケイト・モリス⑧
しおりを挟む
シルバの話した幾つかの物語は、実話だ。シルバは非常に珍しいのだが、何度か人生を体験している。貴族家の庭師だった最初の人生から始まり、漁師、警察官、学生等、様々な経験をしている。彼は今は男性だが、中には女性としての人生を体験したこともあったという。
箱の話は、本当は最後に、一番自分が欲しいものが届くという、結末だった。実際その時に一番欲しかった物は、小さな箱には入りきらなかったらしいがちゃんと届いたという。
大部分の記憶の中の人達はそこまで主張はしないのだが、森島エミリという人生はシルバにとっては、黒歴史と言えるほどの汚点だった。
エミリは、妻子持ちの男と恋仲になり、彼の死後、逆恨みで彼に助けられた女性を殺してしまう。
「彼女は、どうやら僕のことを自分ではなく、啓斗という男だと思っているんだ。そして、自分はケイトの侍女だと思い込んでいる。多分彼女は君の旦那さんに懸想しているようなんだ。旦那さんはモテるタイプだけど、それだけが原因じゃなく、彼女自身が人の男を欲しがるような人なんだと思う。」
シルバの中に、エミリという名前の女性が生きていて、シルバの自我を無視して好き放題していることには、リディとの関係が急に悪くなったことや、マリアの話でわかっていた。
「彼女は、前の人生でも躊躇いなく人を殺してる。今回は君の命を狙ってくると思うんだ。僕が自分の自我を保っていられるうちは大丈夫だけれど、彼女が無理矢理出てきたら、僕一人じゃ、多分制御できない。君達にお願いなんだが、その時は一芝居打って欲しいんだ。彼女を騙す為に。」
御伽話のようなその話は、やっぱり実話で彼女がシルバの中から出てきた時は本当に驚いた。アレが演技なら賞を取れるほどだと思う。
シルバの姿をした彼女は、歪んだ笑顔を浮かべ、品のない態度で横柄に返事をする。こんな態度でケイトの侍女でいる気なんて、馬鹿にされているとしか思えない。
彼女を好きになる人がいること自体が到底信じられずに、ケイトはただ呆然としていたが、それが相手にはケイトを侮っても良いと認識されることとなった。
エミリにとって、男を奪いたいと思う女性の基準は、自分より下だと思える女だ。自分より下の癖に自分より幸せそうな女が許せない、所謂逆恨み。
「奪ったら奪ったで、啓斗に対して来世こそ、という気概もないのだから、特に啓斗を好きだったわけでもないのかもしれない。」
シルバの言う通り、もし彼女が啓斗に固執していたなら、啓斗の記憶持ちのところに真っ先に行くはずだ。何せ王弟の護衛が真っ先に手を挙げた状態なのだから。彼は彼でアントンの都合で前世とは言えなくなっているものの、前世啓斗だったのは彼で間違いない。だってあんなに似ていて他人の空似には無理がある。
「あの時はさっと帰って来てくれてありがとう。」
今のシルバにはシルバしか存在していない。森島エミリという魂は、ナイフの中にケイトの遺体と共に置いて来た。
「いや、それでも上手くいってよかったよ。」
久しぶりのシルバの元気な声に、安堵の溜息を一つ吐くと、伯爵家の様子を思い浮かべた。
「あちらは侍従さんに任せましょ?」
エミリアがケイトの腕を取る。空を見上げると、太陽が真上にあった。
「私がおばあちゃんになる前に来てくれたら良いけど。」
ケイトは自分のお腹に手を当て、体温を感じると、これからの生活をのんびりと考えた。
箱の話は、本当は最後に、一番自分が欲しいものが届くという、結末だった。実際その時に一番欲しかった物は、小さな箱には入りきらなかったらしいがちゃんと届いたという。
大部分の記憶の中の人達はそこまで主張はしないのだが、森島エミリという人生はシルバにとっては、黒歴史と言えるほどの汚点だった。
エミリは、妻子持ちの男と恋仲になり、彼の死後、逆恨みで彼に助けられた女性を殺してしまう。
「彼女は、どうやら僕のことを自分ではなく、啓斗という男だと思っているんだ。そして、自分はケイトの侍女だと思い込んでいる。多分彼女は君の旦那さんに懸想しているようなんだ。旦那さんはモテるタイプだけど、それだけが原因じゃなく、彼女自身が人の男を欲しがるような人なんだと思う。」
シルバの中に、エミリという名前の女性が生きていて、シルバの自我を無視して好き放題していることには、リディとの関係が急に悪くなったことや、マリアの話でわかっていた。
「彼女は、前の人生でも躊躇いなく人を殺してる。今回は君の命を狙ってくると思うんだ。僕が自分の自我を保っていられるうちは大丈夫だけれど、彼女が無理矢理出てきたら、僕一人じゃ、多分制御できない。君達にお願いなんだが、その時は一芝居打って欲しいんだ。彼女を騙す為に。」
御伽話のようなその話は、やっぱり実話で彼女がシルバの中から出てきた時は本当に驚いた。アレが演技なら賞を取れるほどだと思う。
シルバの姿をした彼女は、歪んだ笑顔を浮かべ、品のない態度で横柄に返事をする。こんな態度でケイトの侍女でいる気なんて、馬鹿にされているとしか思えない。
彼女を好きになる人がいること自体が到底信じられずに、ケイトはただ呆然としていたが、それが相手にはケイトを侮っても良いと認識されることとなった。
エミリにとって、男を奪いたいと思う女性の基準は、自分より下だと思える女だ。自分より下の癖に自分より幸せそうな女が許せない、所謂逆恨み。
「奪ったら奪ったで、啓斗に対して来世こそ、という気概もないのだから、特に啓斗を好きだったわけでもないのかもしれない。」
シルバの言う通り、もし彼女が啓斗に固執していたなら、啓斗の記憶持ちのところに真っ先に行くはずだ。何せ王弟の護衛が真っ先に手を挙げた状態なのだから。彼は彼でアントンの都合で前世とは言えなくなっているものの、前世啓斗だったのは彼で間違いない。だってあんなに似ていて他人の空似には無理がある。
「あの時はさっと帰って来てくれてありがとう。」
今のシルバにはシルバしか存在していない。森島エミリという魂は、ナイフの中にケイトの遺体と共に置いて来た。
「いや、それでも上手くいってよかったよ。」
久しぶりのシルバの元気な声に、安堵の溜息を一つ吐くと、伯爵家の様子を思い浮かべた。
「あちらは侍従さんに任せましょ?」
エミリアがケイトの腕を取る。空を見上げると、太陽が真上にあった。
「私がおばあちゃんになる前に来てくれたら良いけど。」
ケイトは自分のお腹に手を当て、体温を感じると、これからの生活をのんびりと考えた。
0
お気に入りに追加
78
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。


【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。

ひめさまはおうちにかえりたい
あかね
ファンタジー
政略結婚と言えど、これはない。帰ろう。とヴァージニアは決めた。故郷の兄に気に入らなかったら潰して帰ってこいと言われ嫁いだお姫様が、王冠を手にするまでのお話。(おうちにかえりたい編)

【完】瓶底メガネの聖女様
らんか
恋愛
伯爵家の娘なのに、実母亡き後、後妻とその娘がやってきてから虐げられて育ったオリビア。
傷つけられ、生死の淵に立ったその時に、前世の記憶が蘇り、それと同時に魔力が発現した。
実家から事実上追い出された形で、家を出たオリビアは、偶然出会った人達の助けを借りて、今まで奪われ続けた、自分の大切なもの取り戻そうと奮闘する。
そんな自分にいつも寄り添ってくれるのは……。

魔力無しの黒色持ちの私だけど、(色んな意味で)きっちりお返しさせていただきます。
みん
恋愛
魔力無しの上に不吉な黒色を持って生まれたアンバーは、記憶を失った状態で倒れていたところを伯爵に拾われたが、そこでは虐げられる日々を過ごしていた。そんな日々を送るある日、危ないところを助けてくれた人達と出会ってから、アンバーの日常は変わっていく事になる。
アンバーの失った記憶とは…?
記憶を取り戻した後のアンバーは…?
❋他視点の話もあります
❋独自設定あり
❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。気付き次第訂正します。すみません
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる