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懺悔

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王族に生まれて、罪を犯した者の末路は幽閉やら、処刑やら様々だが、どれも悲惨だ。中には、彼の様に、幽閉中に精神を病んでしまう者も少なくない。王族の幽閉施設は、王都から離れた田舎にあって、人どころか、獣すらいない土地だ。

食事は一日二回程で、贅沢などはできないが、問題はない。食欲などはとうの昔になくなったままだ。彼が逃げない様に一応の護衛はいるものの、かつての王太子には逃げる意欲も手段も既にない。

愛していた女性に唆され、国に被害をもたらしそうになったことは反省している。自分は悪くないと言うつもりはない。確かに何の根拠もない彼女の言葉を一方的に信じ、勝手な言い分で、人を陥れようとした。王太子にあるまじき姿だ。

元王太子である彼が、精神を病んだのは、実はそれが原因ではない。彼女が妊娠したからだ。彼には、子種がなかった。だから、子供は生まれるはずがない。それなのに、彼女は貴方の子だ、と言った。

その時、確かに彼は嬉しかった。認めたくない現実だったからだ。結局は王太子でもなくなって、後継も必要ではなくなった我が身だが、彼女の子が本当に自分の子であるなら、それだけで良い。一生、一緒に暮らすことができたら、そう思っていた。

だが、娘は隣国へ行ってしまった。自分に少しでも似ている部分はあるのだろうか。いつか会うことはできるのだろうか。廃嫡されたとはいえ、前陛下は自分に甘い。弟も、ちゃんと兄を見捨てずにいてくれている。

何度か、隣国に問い合わせをしてくれていた。隣国の返事はいつも冷たいものだった。死ぬまで会えないかもしれない絶望と、あの時あんなことをしていなければ家族三人で暮らせたかと思うと、辛くて辛くて、それが最終的には一番精神を蝕んでいった。

そんな日々が漸く終わる。彼は待ち遠しく思って朝からソワソワしていた。着くのは早くて夕方なのに、楽しみで仕方がなかった。







カトリーヌはその頃、馬車の中にいて、父親との再会に思いを馳せていた。元々はサラの父親だと言うのに、既に頭の中では、本当の自分の父親だと思い込んでいる。

再度、侯爵夫人はカトリーヌにちゃんと説明した方が良いか、迷っていた。

カトリーヌの父親は、廃嫡された元王太子で、公爵ではないこと。彼は精神を病んでいて不安定だと言うこと。一生幽閉されて暮らすことなどを。

侯爵は、夫人から、カトリーヌが自分に都合の良い部分しか耳に入れなかったことを聞いてその上で、もう一度、今度は趣向を変えて伝えることにした。

カトリーヌの側で、ヒソヒソと、侍女達に噂話をさせる。娘も人の話は全く聞かないのに、根拠のない噂話は大好きだった。

無駄かと思った作戦は功を奏した。真っ青な顔でカトリーヌは信じられないことを口にしたからだ。

「私は本当は孫じゃないの。貴方達の孫はまだ国にいるわ。私が連れてきてあげるから私を元の国に帰して。」

侯爵夫妻は、顔を見合わせて、尋ねた。

「孫のことを知っているの?」

カトリーヌは自分を守るのに必死でサラのことを残さず口にした。

「彼女はサラよ、サラ・クレール伯爵令嬢よ。地味で、真面目だけが取り柄の堅い子で、贅沢をしないから、華やかさは全くなくて。婚約者がいたけど、私が奪ったから、今はフリーの筈よ。ねえ、その子を連れてきて会わせてあげるわ。だから、私を帰してくれない?」

「本当に、孫は生きてるのね。真面目な子なのね?」

「ええ、目元が貴女に似ているわ。」

「ありがとう。貴女のおかげだわ、本当に。」

カトリーヌは自分が助かったと思った。


馬車が行き先を変えたからだ。

地味女のとばっちりで一生幽閉なんてごめんだった。

だけど、馬車を降りてみれば、そこは当初の予定通りの幽閉施設だった。

鬼の形相で振り返ったカトリーヌに、侯爵夫妻は満面の笑みを浮かべて感謝を口にした。

「私達の愛する孫が、真っ当な人生を送っていると教えてくれてありがとう。貴女のこと、忘れないわ。孫のために身代わりになってくれてありがとう。貴女が今更何を言っても誰も聞きやしないわ。既に相当の謝礼が王家の間で支払われているのよ。貴女は、私達の孫として認められたのよ。」

カトリーヌが絶句している間に、侯爵夫妻はさっさと帰っていく。先ほどまでの暗く重々しい雰囲気はなく、ホッとしたように、明るい雰囲気を漂わせて。

侯爵夫妻はカトリーヌが思っている以上に、孫を愛していた。孫の命を守るためなら、何だってする。孫のために、出来ることがまだある、と言うのが、心底嬉しかった。
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