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侯爵夫妻

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カトリーヌが冷や汗をかいたのは王子に指輪について聞かれた一度だけ。その後、隣国へ入り、祖父母である侯爵夫妻と出会うまでは何事もなく、順調だった。国からずっと一緒だった使者を見送ると、上手くいって良かったと安堵したようで、力が抜けた。

本人である証拠の指輪を見せると、祖父母は言葉を失った。祖父は、胸がいっぱいで話せないのか、元からそうなのかはわからないが、一言も話そうとせず、祖母の方は隣国での暮らしについて、色々聞いてくる。

カトリーヌは礼儀作法も忘れ、沢山のことを話した。その度に祖母は喜んでくれた。

侯爵夫人は、自分の祖父母世代なのに、美しかった。目元がサラに少し似ていた。

疲れているかと聞かれて、まあ国を超えてきたのだから、頷くと、部屋に連れて行ってくれる。

さすが侯爵家。全てが男爵家とは異なっていた。客室でこんなに広いなんて、夢みたいだ。今日はここで泊まって、そのあと何日か滞在したら、両親の所へ行く。

カトリーヌはウキウキしていた。一時期サラに感じた恨みつらみを全て無しにしてあげても良いと思えるぐらいに。

お風呂は広く、いい匂いで、自分で洗う必要もない。頼むと何でも出てくる。カトリーヌは、自分が思い描いていた貴族令嬢の暮らしを隣国で手に入れた。

ふかふかのベッドに沈み込む。寝てしまうのが勿体無い。とはいえ、移動距離が長く疲れていたのもあって、すぐに、夢の中に吸い込まれていった。

カトリーヌが寝てしまうと、夫妻の部屋では、話し声が遅くまでしていた。

「どうしてかしら。念願の孫なのに、感動できないのは。驚くほどあの子に似ていたわね。顔立ちと言うよりは、あの立ち居振る舞いといい、私達を見つめる瞳といい。」

「ゾッとしたな。」

「ええ、貴方離れていたわね。」

乾いた笑いを発して、そのまま黙り込んでしまう。

「せっかく騎士様が逃してくれたのに、ちゃんとした教育は受けさせて貰えなかったのかしら。それとも、娘と同じで嫌がったのかしら。」

指輪を触りながら、呟く。

「全てが無駄になってしまったのね。私の人生は何だったのかしら。」


二人とも不思議と眠くはならなかった。

孫だけは、娘と同じ人生を送ってほしくはなくて、それだけを願って生きてきたのに、結局は、全てが無駄になってしまった。

「カトリーヌを送り届けたら、爵位を返上して、田舎に移り住もう。」

侯爵は夫人を抱き寄せた。

そうしているうちに、夜が明けた。


ぐっすり眠って快適に過ごしたカトリーヌは、上機嫌だったが、自分以外の人の顔色が悉く悪いことには気が付いていなかった。






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