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ヒロインは捕らえられる
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その日は、いつもと変わらない日だった。ただ一点を除いては。
父である男爵は冴えないし、料理は美味しくない。カトリーヌの侍女は、暴力に必要以上に怯えて、陰気。つまらないわ。
いつも通り、家を出ると、そこには御伽噺に出てくるような可愛らしい馬車が止まっていた。
可愛い。こう言う馬車に乗りたい人生だったわ、とカトリーヌはため息を吐く。
幼い頃から、周りの人に貴族の落胤だと言われていた。平民には珍しい髪色と瞳の色に、いつかどこかの貴族が迎えにきてくれると、信じていた。それが、迎えにきてくれた男爵は、貴族だけど、末端だし、何より平民の方がまだマシだと思わせるほど、質素な生活を送っていた。
私が焦がれていたドレスや、アクセサリーは?宝石は?お金は?どこなの?
お金はなくとも、幸せには生きられる、だの、借金はないから困らない、だのと言われても、納得は出来なかった。
なら、貴族の男性から援助を貰えば良いのだわ、と誘惑をしてみても、皆同じようにお金をくれる人はいない。
甲斐性無しばかりだ。
ある日、私のファンだと言う伯爵令嬢が私にお金を貸してくれた。
私は感激した。引き立て役としても地味すぎて何の役にも立たないから、どうしようかと思ってたけれど、利用価値あるじゃない。彼女に少しの間、優しくしたのは、彼女の婚約者が綺麗な顔をしていたから。
子爵家の男で、大した援助は期待できないけれど、彼女と結婚したら伯爵になると言う。今のところ、声を掛けた男の中では一番の高位だから、キープするつもりで、関係を持った。
冴えない彼女とは案の定、清い関係だったみたいで、簡単に私に堕ちた。体の相性は良かったから、楽しんでいたわ。
彼女に対して彼が冷たく当たる度にフォローしてあげると、優越感が増した。
「可哀想だから優しくしてあげて。」
そう言うと、彼も彼女への罪悪感で、燃え上がる。
その辺りから、カトリーヌはすっかりサラのことを見下していた。
ダニエルは、お金はくれなかったけど、金目のものはくれた。彼女と婚約した時に伯爵家の代々伝わる家宝を貰ったと言っていた。それは冴えない指輪だった。古いだけの地味な指輪。まさに、サラみたいだと思った。
それでも伯爵家の家宝と言うぐらいだから、売ったらまあまあの金額になるだろうと、すぐに売り飛ばした。なのに、たいしたお金にはならなかった。伯爵家の家宝と言ってもあんなに古いと価値なんかないわよね。ないよりマシだから、ちゃんと売ったわよ。
売り飛ばしたお金は、新しいドレスの支払いに当てた。
サラはだんだんお金を貸してくれなくなった。そればかりか、いつ返してくれるのか、催促までし始めた。借用書なんていつ書いたかわからないけれど、どんどん金額は増えていった。
友人と言う言葉を出しても怒りは収まらないらしい。つまらない女なのに、側に置いてやった恩も忘れて、お金を返せなんて、恥ずかしくないのかしら。
私は周りの男にお願いしてみた。けれど、ダニエル以外は怖気付いていた。なぜなら、私たちの中で一番高位だったのが、サラだから。
子爵家や、男爵家の後継でもない子息は、高位貴族からの叱責を怖がるのは仕方のないことだ。
私は男爵令嬢であるが、伯爵令嬢に負けることなどあり得なかった。家柄以外誇るところが何もない女を怖がる必要もない。
可愛いと眺めていた馬車から、御者が降りてきた。
「カトリーヌ嬢でございますでしょうか?」
御者の顔をよく見るとキラキラした美形だ。私は見覚えがないけれど、どこかの富豪が私を見染めて呼んでるのかしら、と思った。
「はい。カトリーヌ・ダレルと申します。」
そう答えると、御者は嬉しそうに笑い、馬車の中に案内する。
手を、彼の手に乗せると、優雅にエスコートされ、馬車に乗せられる。
馬車の扉を閉められ、内装をゆっくり確認した時、カトリーヌは違和感を覚えて、真後ろを振り返った。
そういえば行き先を聞いたかしら。馬車は、内側からは開けられない造りになっている。
カトリーヌの乗った馬車には、鉄格子がはめられていた。ふと、芳しい香りが馬車に充満しているのに、気づくも、抵抗虚しく寝入ってしまった。
目覚めた時には遅かった。どこかの屋敷に、鉄格子ごと運び込まれていた。
見知らぬ男に見つめられている。
「はじめまして。カトリーヌ嬢。君の新しい飼い主だよ。宜しくね。」
カトリーヌは再度、意識を失いたかったが、それは許されなかった。
父である男爵は冴えないし、料理は美味しくない。カトリーヌの侍女は、暴力に必要以上に怯えて、陰気。つまらないわ。
いつも通り、家を出ると、そこには御伽噺に出てくるような可愛らしい馬車が止まっていた。
可愛い。こう言う馬車に乗りたい人生だったわ、とカトリーヌはため息を吐く。
幼い頃から、周りの人に貴族の落胤だと言われていた。平民には珍しい髪色と瞳の色に、いつかどこかの貴族が迎えにきてくれると、信じていた。それが、迎えにきてくれた男爵は、貴族だけど、末端だし、何より平民の方がまだマシだと思わせるほど、質素な生活を送っていた。
私が焦がれていたドレスや、アクセサリーは?宝石は?お金は?どこなの?
お金はなくとも、幸せには生きられる、だの、借金はないから困らない、だのと言われても、納得は出来なかった。
なら、貴族の男性から援助を貰えば良いのだわ、と誘惑をしてみても、皆同じようにお金をくれる人はいない。
甲斐性無しばかりだ。
ある日、私のファンだと言う伯爵令嬢が私にお金を貸してくれた。
私は感激した。引き立て役としても地味すぎて何の役にも立たないから、どうしようかと思ってたけれど、利用価値あるじゃない。彼女に少しの間、優しくしたのは、彼女の婚約者が綺麗な顔をしていたから。
子爵家の男で、大した援助は期待できないけれど、彼女と結婚したら伯爵になると言う。今のところ、声を掛けた男の中では一番の高位だから、キープするつもりで、関係を持った。
冴えない彼女とは案の定、清い関係だったみたいで、簡単に私に堕ちた。体の相性は良かったから、楽しんでいたわ。
彼女に対して彼が冷たく当たる度にフォローしてあげると、優越感が増した。
「可哀想だから優しくしてあげて。」
そう言うと、彼も彼女への罪悪感で、燃え上がる。
その辺りから、カトリーヌはすっかりサラのことを見下していた。
ダニエルは、お金はくれなかったけど、金目のものはくれた。彼女と婚約した時に伯爵家の代々伝わる家宝を貰ったと言っていた。それは冴えない指輪だった。古いだけの地味な指輪。まさに、サラみたいだと思った。
それでも伯爵家の家宝と言うぐらいだから、売ったらまあまあの金額になるだろうと、すぐに売り飛ばした。なのに、たいしたお金にはならなかった。伯爵家の家宝と言ってもあんなに古いと価値なんかないわよね。ないよりマシだから、ちゃんと売ったわよ。
売り飛ばしたお金は、新しいドレスの支払いに当てた。
サラはだんだんお金を貸してくれなくなった。そればかりか、いつ返してくれるのか、催促までし始めた。借用書なんていつ書いたかわからないけれど、どんどん金額は増えていった。
友人と言う言葉を出しても怒りは収まらないらしい。つまらない女なのに、側に置いてやった恩も忘れて、お金を返せなんて、恥ずかしくないのかしら。
私は周りの男にお願いしてみた。けれど、ダニエル以外は怖気付いていた。なぜなら、私たちの中で一番高位だったのが、サラだから。
子爵家や、男爵家の後継でもない子息は、高位貴族からの叱責を怖がるのは仕方のないことだ。
私は男爵令嬢であるが、伯爵令嬢に負けることなどあり得なかった。家柄以外誇るところが何もない女を怖がる必要もない。
可愛いと眺めていた馬車から、御者が降りてきた。
「カトリーヌ嬢でございますでしょうか?」
御者の顔をよく見るとキラキラした美形だ。私は見覚えがないけれど、どこかの富豪が私を見染めて呼んでるのかしら、と思った。
「はい。カトリーヌ・ダレルと申します。」
そう答えると、御者は嬉しそうに笑い、馬車の中に案内する。
手を、彼の手に乗せると、優雅にエスコートされ、馬車に乗せられる。
馬車の扉を閉められ、内装をゆっくり確認した時、カトリーヌは違和感を覚えて、真後ろを振り返った。
そういえば行き先を聞いたかしら。馬車は、内側からは開けられない造りになっている。
カトリーヌの乗った馬車には、鉄格子がはめられていた。ふと、芳しい香りが馬車に充満しているのに、気づくも、抵抗虚しく寝入ってしまった。
目覚めた時には遅かった。どこかの屋敷に、鉄格子ごと運び込まれていた。
見知らぬ男に見つめられている。
「はじめまして。カトリーヌ嬢。君の新しい飼い主だよ。宜しくね。」
カトリーヌは再度、意識を失いたかったが、それは許されなかった。
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