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婚約は解消
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その頃、ヒロイン陣営は窮地に陥っていた。金蔓が居なくなったばかりか反旗を翻したのだから当然だ。だが、残念なことに、今がピンチであることに気づいた者はいなかった。
「サラも困ったものだ。あんなに我儘だと結婚したあとも大変だ。まあ、僕は見捨てたりはしないけど。」
ダニエルが無駄に綺麗な顔を歪めて大袈裟にため息をつく。
「あら、お優しいのね。次期伯爵様。お二人が結婚されると寂しくなるわ。」
ダニエルのネクタイに手をかけ、解きながら上目遣いにしなだれかかる。
ダニエルは婚約者がありながら、欲望を瞳に浮かべたまま、カトリーヌの腰を引き寄せると、熱い口づけを交わす。
「サラとは恋愛感情はないよ。僕のお姫様。僕が愛するのは、カトリーヌ、君だけだ。」
「嬉しいわ。ダニエル様。ずっと側にいて下さいね。」
「勿論だ。君を愛してる。」
「私もダニエル様を愛しています。」
その後はいつものパターン。お互いに着ているものを脱ぎ散らかし欲望のまま、情事にふける。ところどころに入る嬌声が、映像は無くとも、何をしているかは、すぐに分かった。
クレール伯爵の手元にある一見して高そうな魔道具から流れる音声を聞いて顔面蒼白なダニエルがいる。目の前には、サラの父であるクレール伯爵とダニエルの父であるカート子爵。
「これを聞いて何か反論があるかね?」
普段は優しいクレール伯爵の憤怒の表情に、居合わせた者たちの背筋が凍る。
「何故この魔道具があるか、不思議と言ったところか。君の家には魔道具を買うお金すらないからね。これは以前来た時に、うっかり忘れていったものでね。まさかこんな証拠を記録してくれたとは。びっくりだろう?」
「こ、これは、陰謀です。何かの間違いです。僕はサラを愛しています。」
どの口で言うのか。クレール伯爵は呆れている。
「そうか。陰謀か。誰か犯人に心当たりがあるのかい?」
伯爵の嘲笑うような響きを含んだ声色に使用人達は気がついた。本当なら、真っ先に気づくべき人物が声をあげる。
「これは、サラが、サラ嬢が僕達を妬んで、でっち上げたものです。」
「ほう、まだ私の娘を侮辱するのか。」
クレール伯爵は怒りを抑える気を無くした。使用人達は、カート子爵家が終わったことを悟る。
「では、婚約解消は決まりでいいな。正直君のような穀潰しはうちには不要なのだよ。慰謝料もたっぷりと頂くし、君達を許す気もないから、覚悟しておけ。あと、婚約の際渡した物もお金も全て返して貰うから、そのつもりで。あ、そうそう、相手の女狐にも、同じだけの慰謝料は払って貰わなくてはなぁ。」
「待ってください。彼女はお金がないのです。とても可哀想な子なのです。」
「じゃあ、君が代わりに払ってくれるのか。ああ、愛していると言っていたものなぁ。結構な金額になるぞ?」
ダニエルは黙っている。クレール伯爵は尚もつづける。
「今後、娘に近づいたら殺す。わかったな。」
普段怒らないから、優しいと思われがちの伯爵だが、優しいのは夫人とサラが相手の時だけだ。
ダニエルは血の気を全く無くして呆然としているがそれはダニエルの父も同じだった。
カート子爵は、ダニエルがサラ嬢をちゃんと誑し込めているとずっと思い込んでいたのである。まさか自身の息子がこんなに馬鹿だとは思っていなかった。元々は、二人が結婚したらチャラになるはずの、借金ですら近いうちに返さなくてはならない。借用書だって、仮に保管していたにすぎない。なのに、どうしてこうなった。
たかが男爵令嬢に溺れた息子も勿論憎いが、女狐も許せない。
「お前は謹慎だ。反省しろ。」
息子にはそう告げて、子爵は動き出した。女狐に損失をカバーさせるのだ。見た目は良さそうだから、最悪金払いの良い相手に売りつけて、借金を回収しよう。
何、少し脅してやればいい。暴れて拒否するようなら攫えばいい。痛い目に合わせれば言うことを聞くだろう。子爵家も貴族の端くれ。格上の伯爵令嬢に傷をつけたのだ。社交界に居られなくなる前に手を打つべきである。
「サラも困ったものだ。あんなに我儘だと結婚したあとも大変だ。まあ、僕は見捨てたりはしないけど。」
ダニエルが無駄に綺麗な顔を歪めて大袈裟にため息をつく。
「あら、お優しいのね。次期伯爵様。お二人が結婚されると寂しくなるわ。」
ダニエルのネクタイに手をかけ、解きながら上目遣いにしなだれかかる。
ダニエルは婚約者がありながら、欲望を瞳に浮かべたまま、カトリーヌの腰を引き寄せると、熱い口づけを交わす。
「サラとは恋愛感情はないよ。僕のお姫様。僕が愛するのは、カトリーヌ、君だけだ。」
「嬉しいわ。ダニエル様。ずっと側にいて下さいね。」
「勿論だ。君を愛してる。」
「私もダニエル様を愛しています。」
その後はいつものパターン。お互いに着ているものを脱ぎ散らかし欲望のまま、情事にふける。ところどころに入る嬌声が、映像は無くとも、何をしているかは、すぐに分かった。
クレール伯爵の手元にある一見して高そうな魔道具から流れる音声を聞いて顔面蒼白なダニエルがいる。目の前には、サラの父であるクレール伯爵とダニエルの父であるカート子爵。
「これを聞いて何か反論があるかね?」
普段は優しいクレール伯爵の憤怒の表情に、居合わせた者たちの背筋が凍る。
「何故この魔道具があるか、不思議と言ったところか。君の家には魔道具を買うお金すらないからね。これは以前来た時に、うっかり忘れていったものでね。まさかこんな証拠を記録してくれたとは。びっくりだろう?」
「こ、これは、陰謀です。何かの間違いです。僕はサラを愛しています。」
どの口で言うのか。クレール伯爵は呆れている。
「そうか。陰謀か。誰か犯人に心当たりがあるのかい?」
伯爵の嘲笑うような響きを含んだ声色に使用人達は気がついた。本当なら、真っ先に気づくべき人物が声をあげる。
「これは、サラが、サラ嬢が僕達を妬んで、でっち上げたものです。」
「ほう、まだ私の娘を侮辱するのか。」
クレール伯爵は怒りを抑える気を無くした。使用人達は、カート子爵家が終わったことを悟る。
「では、婚約解消は決まりでいいな。正直君のような穀潰しはうちには不要なのだよ。慰謝料もたっぷりと頂くし、君達を許す気もないから、覚悟しておけ。あと、婚約の際渡した物もお金も全て返して貰うから、そのつもりで。あ、そうそう、相手の女狐にも、同じだけの慰謝料は払って貰わなくてはなぁ。」
「待ってください。彼女はお金がないのです。とても可哀想な子なのです。」
「じゃあ、君が代わりに払ってくれるのか。ああ、愛していると言っていたものなぁ。結構な金額になるぞ?」
ダニエルは黙っている。クレール伯爵は尚もつづける。
「今後、娘に近づいたら殺す。わかったな。」
普段怒らないから、優しいと思われがちの伯爵だが、優しいのは夫人とサラが相手の時だけだ。
ダニエルは血の気を全く無くして呆然としているがそれはダニエルの父も同じだった。
カート子爵は、ダニエルがサラ嬢をちゃんと誑し込めているとずっと思い込んでいたのである。まさか自身の息子がこんなに馬鹿だとは思っていなかった。元々は、二人が結婚したらチャラになるはずの、借金ですら近いうちに返さなくてはならない。借用書だって、仮に保管していたにすぎない。なのに、どうしてこうなった。
たかが男爵令嬢に溺れた息子も勿論憎いが、女狐も許せない。
「お前は謹慎だ。反省しろ。」
息子にはそう告げて、子爵は動き出した。女狐に損失をカバーさせるのだ。見た目は良さそうだから、最悪金払いの良い相手に売りつけて、借金を回収しよう。
何、少し脅してやればいい。暴れて拒否するようなら攫えばいい。痛い目に合わせれば言うことを聞くだろう。子爵家も貴族の端くれ。格上の伯爵令嬢に傷をつけたのだ。社交界に居られなくなる前に手を打つべきである。
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