20 / 25
味方ならば後始末を
しおりを挟む
ロザリアが拘束されたことを知り、グレータがまず最初にしたことは、離縁届の作成である。ついでに長男と夫の分も作成したい気にもなったが、今はロザリアだけで良い。
「これを作ることになるなんてね。」
部屋の外では何かを落としたような音が聞こえる。「あの人でも慌てることなんてあるのね。」グレータの呟きを聞いている女官は、笑いを噛み殺したような顔をした。笑っていいかわからなかったのだろう。
侯爵家で何があっても、ニコニコして、動じなかった夫。昔はあの姿が頼もしく見えたものだが、真実は単に他人事だっただけだ。
「ついでに夫の分も作ろうかしら。」
「宜しいと思いますよ。」
女官や侍女に止められもしない。寧ろどこか嬉しそうな彼女達に苦笑して、冗談のつもりが少しは本気で作ろうかと思ってしまった。
システィーナから来た連絡によると、ロザリアは貴族牢で泣き喚いていたと思ったら、人がいなくなればケロッとしているらしいから、反省なんてこれっぽっちもしていない。
「そんな様子ならもう少しそのままにしても良いわね。」
ロザリアはグレータの母に似ている。少しは血が薄まったから、まだマシではあるが、人の話を聞かずに動くくせに、何でも人のせいにする。世界の中心には自分がいて、他の人は自分に傅くのが当たり前だと思っている。
システィーナのフォローがなくなって、ロザリアがやらかす度に侯爵家に来る苦情は格段に増えた。それでも、ただ抗議として手紙を送ってくる家は少なく、これまでの自分やシスティーナの行いに同情してくれる人達も一定数いるのが、まだ救われていると言える。
次男のマイルズには心配されてしまった。
「貴方に引き継ぐ時には全て解決するから安心して。」
「いえ、でもあまりご無理はなさらないようにしてください。当主の代わりはいても母様の代わりはいませんので。」
マイルズの優しさの十分の一でも、アレクシスに備わっていれば、そこまで心配はしなかった。彼が損得感情抜きに他人と接することが出来なくとも、甘い言葉に弱すぎてすぐに騙されてしまっても、それが息子の優しさからくるものならば、何とかしてやりたい、と思うのだが。
彼はロザリアには面倒だから、と甘やかしてもう一人の妹システィーナに厳しい役をやらせ、本人はその役を押し付けた妹を悪として笑う。
アレクシスは、本人は認めたくないだろうが、夫にそっくりだ。彼が致命的に悪いところは、夫とは異なり、自分に価値があると思い込んでいるところ。
母として出来ることの、これが最後になってもいい。ロザリアの行いの後始末をシスティーナではなく、アレクシスにさせる為、彼を執務室に呼び出した。
「これを作ることになるなんてね。」
部屋の外では何かを落としたような音が聞こえる。「あの人でも慌てることなんてあるのね。」グレータの呟きを聞いている女官は、笑いを噛み殺したような顔をした。笑っていいかわからなかったのだろう。
侯爵家で何があっても、ニコニコして、動じなかった夫。昔はあの姿が頼もしく見えたものだが、真実は単に他人事だっただけだ。
「ついでに夫の分も作ろうかしら。」
「宜しいと思いますよ。」
女官や侍女に止められもしない。寧ろどこか嬉しそうな彼女達に苦笑して、冗談のつもりが少しは本気で作ろうかと思ってしまった。
システィーナから来た連絡によると、ロザリアは貴族牢で泣き喚いていたと思ったら、人がいなくなればケロッとしているらしいから、反省なんてこれっぽっちもしていない。
「そんな様子ならもう少しそのままにしても良いわね。」
ロザリアはグレータの母に似ている。少しは血が薄まったから、まだマシではあるが、人の話を聞かずに動くくせに、何でも人のせいにする。世界の中心には自分がいて、他の人は自分に傅くのが当たり前だと思っている。
システィーナのフォローがなくなって、ロザリアがやらかす度に侯爵家に来る苦情は格段に増えた。それでも、ただ抗議として手紙を送ってくる家は少なく、これまでの自分やシスティーナの行いに同情してくれる人達も一定数いるのが、まだ救われていると言える。
次男のマイルズには心配されてしまった。
「貴方に引き継ぐ時には全て解決するから安心して。」
「いえ、でもあまりご無理はなさらないようにしてください。当主の代わりはいても母様の代わりはいませんので。」
マイルズの優しさの十分の一でも、アレクシスに備わっていれば、そこまで心配はしなかった。彼が損得感情抜きに他人と接することが出来なくとも、甘い言葉に弱すぎてすぐに騙されてしまっても、それが息子の優しさからくるものならば、何とかしてやりたい、と思うのだが。
彼はロザリアには面倒だから、と甘やかしてもう一人の妹システィーナに厳しい役をやらせ、本人はその役を押し付けた妹を悪として笑う。
アレクシスは、本人は認めたくないだろうが、夫にそっくりだ。彼が致命的に悪いところは、夫とは異なり、自分に価値があると思い込んでいるところ。
母として出来ることの、これが最後になってもいい。ロザリアの行いの後始末をシスティーナではなく、アレクシスにさせる為、彼を執務室に呼び出した。
65
お気に入りに追加
335
あなたにおすすめの小説
ざまぁ?………………いや、そんなつもりなかったんですけど…(あれ?おかしいな)
きんのたまご
恋愛
婚約破棄されました!
でも真実の愛で結ばれたおふたりを応援しておりますので気持ちはとても清々しいです。
……でも私がおふたりの事をよく思っていないと誤解されているようなのでおふたりがどれだけ愛し合っているかを私が皆様に教えて差し上げますわ!
そして私がどれだけ喜んでいるのかを。
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。
なにひとつ、まちがっていない。
いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。
それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。
――なにもかもを間違えた。
そう後悔する自分の将来の姿が。
Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの?
A 作者もそこまで考えていません。
どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。
【完結】返してください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。
私が愛されていない事は感じていた。
だけど、信じたくなかった。
いつかは私を見てくれると思っていた。
妹は私から全てを奪って行った。
なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、
母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。
もういい。
もう諦めた。
貴方達は私の家族じゃない。
私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。
だから、、、、
私に全てを、、、
返してください。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
罪なき令嬢 (11話作成済み)
京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。
5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。
5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、
見る者の心を奪う美女だった。
※完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる