上 下
18 / 25

兄とつまらないプライド

しおりを挟む
アレクシス・ローレンは、契約書を読むことが苦手だ。契約書をよく読まなくては自分が不利な契約を結ばされることがある。それは過去に思い知ったことだ。

アレクシスは、今まで侯爵家の長男としてうまくやっていると思っていた。いくら母が弟の方が後継に相応しいと主張していても、当主の意見が通ると思っていたし、何もしなければ結局は母も折れて自分を後継者として認めてくれると思っていたのだ。

何もしなければ、とは言え自分が侯爵家をよくするために交わした初めての契約は、妹システィーナによってなかったことになった。


功を焦った訳ではないが、友人からの儲け話を聞く限り、詐欺だと気がつかなかったのは自分の落度だ。これまで色々な場面で助けてくれた友人を信じてしまったのが仇となった。

「人を信じることは素晴らしいことですが、背景を少し調べてからでも遅くはなかったのでは?」

「何をいう。それならチャンスを逃していたかもしれないんだ。今なら間に合うと言われて……」

飛びついた結果、詐欺に遭ったのだから、妹の言う通りそうするべきではなかったのだ。

システィーナの言うことはいつも正しい。だけど、素直にそれを認めたくない気持ちがある。妹はバカにするが兄としてなけなしのプライドが、自分にだってある。

システィーナに取り次いでほしくて母を訪ねると、その場にはマイルズがいた。弟は、何か言いたいことでもあるのかチラチラと、こちらを窺っていたが、母に止められていた。

このままでは、侯爵家の次期当主の座は弟のものになってしまう。

母から言い渡された課題は、システィーナと向き合うこと。その際、誰の力も借りてはいけない。

マイルズは可愛い弟だが、母の信頼を得ているところが気に入らない。ロザリアやアレクシスよりもシスティーナの話をよく聞くし、使用人達の態度もどこかアレクシスやロザリアとはまた違う。

まるで、マイルズには敵わないのだと暗に言われているようで気分は悪かった。

ロザリアは昔からずっと家のことには無頓着だった。チヤホヤされたいだけの妹で少し褒めたり、声をかけてやると、機嫌が良くなる。金遣いの荒さだけは少し忌々しくは思ったが、適当な家に嫁に出し、兄の為に動いてくれれば良い、とただ甘やかした。

システィーナはいつの間にか公爵家の子息と婚約していたが、それについては特に不満はなかった。

システィーナを高位貴族に嫁がせたなら、ロザリアが自由恋愛からの平民との結婚をしたところで、特に自分は困らない。ロザリアは昔から勉強が嫌いで基本的なマナーすら出来ていなかった為に、貴族に嫁ぎたいと思っていることすら知らなかった。

ならば何故あの場で姉の婚約者を勧めたのか?完全にシスティーナへの嫌がらせの為だけだ。アレクシスだって、ロザリアを別の貴族家との橋渡しに使う気などなかった。

あの子には無理だと、自分もシスティーナと同じように考えた。

よくできた妹に醜くも嫉妬した結果、の話。許されなくても、システィーナに平謝りするしか手立ては残されておらず、アレクシスには絶望感でいっぱいになった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ざまぁ?………………いや、そんなつもりなかったんですけど…(あれ?おかしいな)

きんのたまご
恋愛
婚約破棄されました! でも真実の愛で結ばれたおふたりを応援しておりますので気持ちはとても清々しいです。 ……でも私がおふたりの事をよく思っていないと誤解されているようなのでおふたりがどれだけ愛し合っているかを私が皆様に教えて差し上げますわ! そして私がどれだけ喜んでいるのかを。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

なにひとつ、まちがっていない。

いぬい たすく
恋愛
若くして王となるレジナルドは従妹でもある公爵令嬢エレノーラとの婚約を解消した。 それにかわる恋人との結婚に胸を躍らせる彼には見えなかった。 ――なにもかもを間違えた。 そう後悔する自分の将来の姿が。 Q この世界の、この国の技術レベルってどのくらい?政治体制はどんな感じなの? A 作者もそこまで考えていません。  どうぞ頭のネジを二三本緩めてからお読みください。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

罪なき令嬢 (11話作成済み)

京月
恋愛
無実の罪で塔に幽閉されてしまったレレイナ公爵令嬢。 5年間、誰も来ない塔での生活は死刑宣告。 5年の月日が経ち、その塔へと足を運んだ衛兵が見たのは、 見る者の心を奪う美女だった。 ※完結済みです。

【完結】返してください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと我慢をしてきた。 私が愛されていない事は感じていた。 だけど、信じたくなかった。 いつかは私を見てくれると思っていた。 妹は私から全てを奪って行った。 なにもかも、、、、信じていたあの人まで、、、 母から信じられない事実を告げられ、遂に私は家から追い出された。 もういい。 もう諦めた。 貴方達は私の家族じゃない。 私が相応しくないとしても、大事な物を取り返したい。 だから、、、、 私に全てを、、、 返してください。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

最後に笑うのは

りのりん
恋愛
『だって、姉妹でしょ お姉様〰︎』 ずるい 私の方が可愛いでしょ 性格も良いし 高貴だし お姉様に負ける所なんて ありませんわ 『妹?私に妹なんていませんよ』

処理中です...