望んだことをしてあげただけなのに、妹が烈火のごとく怒り出したのですが

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弟と、兄

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次男マイルズは、兄の髪の毛の生え際をじっと眺めていた。兄は猫毛のマイルズとは違いしっかりした毛根の太めの髪質をしていて、将来的に薄くなることはあっても、禿げたりはしなさそうな髪質をしていた。

汗をかいても、ぺたりとしたりしない髪。兄をあまり好きではないのは、こういうところも関係しているかもしれない。

マイルズはシスティーナが作った契約書を眺めて、その穴に、全く気がついていない兄に疑いの目を向けた。

兄は安易に契約書にサインしてしまったことに今更ながら後悔しているが、そもそもこの契約書は、有効なのか。マイルズは確証が持てなかった。

兄姉達の仲は、システィーナがいるからこそ成り立っていることは幼いマイルズにもわかっている。マイルズとは違い歳の近い三人の間には自分が入り得ない何かがあることもちゃんと理解している。

それでも、あの完璧なシスティーナお姉様が作った契約書に穴があるなんてあり得ないと本当に信じていたとしても、この仕掛けに気づかないなんてことがあるのだろうか。

単純な話、もしそうなら勉強をもう一度やり直しした方がいい。文字が読めないのなら、初等教育からのやり直しになるが。

姉システィーナは厳しい人だ。自分にも他人にも厳しいと思われているが、身内には少し甘くなる。今まで間違ったことだと感じながらロザリアの為に諸々のフォローをし続けていた辺り、その甘さが兄にも理解できているだろうに。

だから、本来ならこんな契約書に穴があるなんて、あり得ないことなのだ。それはシスティーナからの温情にすぎない。口では厳しいことを言っていても、兄と妹にどうにか自立をしてほしいという一心で。

「契約書をよく読みなさいと、何度も私は言いましたよ。貴方、ちっとも反省していないのね。残念だわ。」

マイルズには優しい母も、兄には甘い顔を見せない。わざわざ甘やかさなくても勝手に甘えてくるような性格の兄なのだ。マイルズが兄にヒントを出そうとするのを止めたのも母だ。

「自分の行動は、自分しか挽回できないのよ。誰かに頼って解決して貰って、一生そうやって生きていくつもり?悪い人間に騙されて財産を全て奪われるかもしれない。知らない内に悪事に関与させられたなら、どれだけ無関係を口にしても連座は免れないわ。

誰にも頼らずにちゃんと考えなさい。ちゃんとシスティーナに向き合いなさい。」

母のヒントにも未だに気付いた様子はない。

「契約書をよく読みなさい」をスルーしているあたりで言わずもがなだけど。兄には期待しないでいたけれど、このままだと、自分にも火の粉が降りかかりそうでマイルズは早めに退散した。

あのプライドの高い兄がマイルズに助けを求めてくることはないとしても、間違った方向に向かってくることはあるかもしれない。家令に声をかけて用心しておく。家令は特に驚いている様子はなかったから、そういう可能性はあったと判断していたのだろう。

マイルズには新しい護衛がついた。
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