13 / 25
無知は罪(隔世遺伝)
しおりを挟む
父は絶句した。ロザリアの言っている意味がわからない訳ではないのだが、何の話をしているか理解が追いつかないでいた。アレクシスの顔を見るに、息子も今聞いたのだろう。苦々しい表情でさっきまでロザリアを可愛いと思っていたことすら忘れたような顔をしている。
「ロザリアはアラン君が好きなんじゃなかったのかな?」
絞り出せたのはそれだけ。
「ええ。私もクリス様にお会いするまでそう思ってました。だけど違ったのです。第一王子クリス様にお会いして、私は愛を知ることができたのですわ。アラン様に感じていたのは義兄としてのシボですわ。」
「シボ?ああ、思慕ね……」
ロザリアの口から聞きなれない言葉は、全てシスティーナの言葉を繰り返したものだと、最近知った。彼女は頭の良さそうな話し方をシスティーナを参考に真似しているらしいのだが、うまくはいっていない。
話していて気づいた。これまで自分はロザリアが自分に似ていると思い込んでいたのだ。妻に似てしっかり者のシスティーナと違い、要領が悪く努力してもできないロザリアは、自分が守ってやらなくては、と変に意識していた。子を守るという意味ではシスティーナだって同じであったと言うのに。
だがロザリアは自分に似ているのではない。妻の母に似ているのだ。反面教師で子供が皆しっかりしたというあの義母に。
義母との出会いは強烈だった。人のものが欲しいという悪癖があった彼女は、社交界で随分と嫌われていた。政略結婚で侯爵夫人となった後も男女間のトラブルは多かったと聞く。だからこそ自分が婿入りできたのだ。義母の食指が向かない相手こそが、婿の最低限の条件だったからだ。
自分ではなく義母に似ているのだと思うと、急にロザリアが可愛く見えなくなって、寧ろ家を傾ける恐怖の存在に見えてきた。
アレクシスも漸く頭が回り始めたのか、どうにか被害を最小限にしようと考えている。
興奮したロザリアが話すには、第一王子クリストファーと婚約を考えていて、既に二人はそういった関係だと周りには知られているらしい。
「ロザリアは知っているんだよな?知った上で第一王子との縁を望むんだな?」
「勿論です。私は何があってもクリス様と添い遂げますわ。」
そう言い切られてしまうと、残念ながら何を知っているのか、多分勘違いではないのかと、問い詰めたくともできない。今になってシスティーナの言っていた意味がわかった。
「ロザリア、君がそれほどまでに第一王子を愛しているならば私達はそれを否定することはできない。だが侯爵家当主として、彼だけは認めるわけにはいかない。家と彼、どちらを選ぶか、考えなさい。」
「お父様?如何してそんな事を仰るの?」
ロザリアはアレクシスに助けを求めたが、名前だけでも当主だった父には逆らわなかった。彼にはわかっていたのだ。ここでロザリアの味方にでもなれば、自分までも簡単に放り出されてしまうだろうことに。助けがないと理解したロザリアはそれでも恋に夢中になっていたのだろう。
「そんな、酷いわ。二人ならわかってくれると思っていたのに。もしかして、またお姉様なの?私には応援するなんて言っておいて、こんな形で裏切るなんて酷いわ!」
システィーナに文句を言う為か飛び出して行ったロザリアを見ながらほぼ同時に二人のため息が重なった。
「システィーナの言った通りだ。」
「私達は間違えたのですね。」
とはいえ、今更システィーナに擦り寄る真似は許されないだろう。ロザリアを切り捨てたとして、この家に二人の居場所はまだあるだろうか。今になって契約書の内容に思いを馳せるアレクシスと、二人して仲良く途方に暮れた。
「ロザリアはアラン君が好きなんじゃなかったのかな?」
絞り出せたのはそれだけ。
「ええ。私もクリス様にお会いするまでそう思ってました。だけど違ったのです。第一王子クリス様にお会いして、私は愛を知ることができたのですわ。アラン様に感じていたのは義兄としてのシボですわ。」
「シボ?ああ、思慕ね……」
ロザリアの口から聞きなれない言葉は、全てシスティーナの言葉を繰り返したものだと、最近知った。彼女は頭の良さそうな話し方をシスティーナを参考に真似しているらしいのだが、うまくはいっていない。
話していて気づいた。これまで自分はロザリアが自分に似ていると思い込んでいたのだ。妻に似てしっかり者のシスティーナと違い、要領が悪く努力してもできないロザリアは、自分が守ってやらなくては、と変に意識していた。子を守るという意味ではシスティーナだって同じであったと言うのに。
だがロザリアは自分に似ているのではない。妻の母に似ているのだ。反面教師で子供が皆しっかりしたというあの義母に。
義母との出会いは強烈だった。人のものが欲しいという悪癖があった彼女は、社交界で随分と嫌われていた。政略結婚で侯爵夫人となった後も男女間のトラブルは多かったと聞く。だからこそ自分が婿入りできたのだ。義母の食指が向かない相手こそが、婿の最低限の条件だったからだ。
自分ではなく義母に似ているのだと思うと、急にロザリアが可愛く見えなくなって、寧ろ家を傾ける恐怖の存在に見えてきた。
アレクシスも漸く頭が回り始めたのか、どうにか被害を最小限にしようと考えている。
興奮したロザリアが話すには、第一王子クリストファーと婚約を考えていて、既に二人はそういった関係だと周りには知られているらしい。
「ロザリアは知っているんだよな?知った上で第一王子との縁を望むんだな?」
「勿論です。私は何があってもクリス様と添い遂げますわ。」
そう言い切られてしまうと、残念ながら何を知っているのか、多分勘違いではないのかと、問い詰めたくともできない。今になってシスティーナの言っていた意味がわかった。
「ロザリア、君がそれほどまでに第一王子を愛しているならば私達はそれを否定することはできない。だが侯爵家当主として、彼だけは認めるわけにはいかない。家と彼、どちらを選ぶか、考えなさい。」
「お父様?如何してそんな事を仰るの?」
ロザリアはアレクシスに助けを求めたが、名前だけでも当主だった父には逆らわなかった。彼にはわかっていたのだ。ここでロザリアの味方にでもなれば、自分までも簡単に放り出されてしまうだろうことに。助けがないと理解したロザリアはそれでも恋に夢中になっていたのだろう。
「そんな、酷いわ。二人ならわかってくれると思っていたのに。もしかして、またお姉様なの?私には応援するなんて言っておいて、こんな形で裏切るなんて酷いわ!」
システィーナに文句を言う為か飛び出して行ったロザリアを見ながらほぼ同時に二人のため息が重なった。
「システィーナの言った通りだ。」
「私達は間違えたのですね。」
とはいえ、今更システィーナに擦り寄る真似は許されないだろう。ロザリアを切り捨てたとして、この家に二人の居場所はまだあるだろうか。今になって契約書の内容に思いを馳せるアレクシスと、二人して仲良く途方に暮れた。
70
お気に入りに追加
339
あなたにおすすめの小説

ざまぁ?………………いや、そんなつもりなかったんですけど…(あれ?おかしいな)
きんのたまご
恋愛
婚約破棄されました!
でも真実の愛で結ばれたおふたりを応援しておりますので気持ちはとても清々しいです。
……でも私がおふたりの事をよく思っていないと誤解されているようなのでおふたりがどれだけ愛し合っているかを私が皆様に教えて差し上げますわ!
そして私がどれだけ喜んでいるのかを。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

もう我慢する気はないので出て行きます〜陰から私が国を支えていた事実を彼らは知らない〜
おしゃれスナイプ
恋愛
公爵令嬢として生を受けたセフィリア・アインベルクは己の前世の記憶を持った稀有な存在であった。
それは『精霊姫』と呼ばれた前世の記憶。
精霊と意思疎通の出来る唯一の存在であったが故に、かつての私は精霊の力を借りて国を加護する役目を負っていた。
だからこそ、人知れず私は精霊の力を借りて今生も『精霊姫』としての役目を果たしていたのだが————

誰も残らなかった物語
悠十
恋愛
アリシアはこの国の王太子の婚約者である。
しかし、彼との間には愛は無く、将来この国を共に治める同士であった。
そんなある日、王太子は愛する人を見付けた。
アリシアはそれを支援するために奔走するが、上手くいかず、とうとう冤罪を掛けられた。
「嗚呼、可哀そうに……」
彼女の最後の呟きは、誰に向けてのものだったのか。
その呟きは、誰に聞かれる事も無く、断頭台の露へと消えた。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?

わたしを追い出した人達が、今更何の御用ですか?
柚木ゆず
恋愛
ランファーズ子爵令嬢、エミリー。彼女は我が儘な妹マリオンとマリオンを溺愛する両親の理不尽な怒りを買い、お屋敷から追い出されてしまいました。
自分の思い通りになってマリオンは喜び、両親はそんなマリオンを見て嬉しそうにしていましたが――。
マリオン達は、まだ知りません。
それから僅か1か月後に、エミリーの追放を激しく後悔する羽目になることを。お屋敷に戻って来て欲しいと、エミリーに懇願しないといけなくなってしまうことを――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる