上 下
10 / 16

何も変わらない

しおりを挟む
アンジェリカは、自室でのんびり過ごしていた。今日は何もない日で、昼からは親友ヴィクトリアが訪ねてくる。彼女には前に教えてもらった「私を勝手に当て馬にした人達」のことについて報告せねばならない。

折角情報を教えて貰ったにも関わらず、アンジェリカは何もしていないことが、面白くもあるが。

その辺の話は、きっとヴィクトリアの方が詳しかったりするのだろう。

アンジェリカの予想通り、ヴィクトリアの口から聞いた話は公爵家の知っている話の上を行っていた。

「というわけで、我が変態の兄は、男爵という地位を手に入れたわ。一代限りで取り壊す予定だけどね。好きになった平民の少女が男爵の庶子だったから、ということになったわ。」

ジョシュアの恋人だったはずの、少女はいつのまにかジョシュアではなくて、元第一王子の妻になっていた。

公爵家の書類に不備があって、ジョシュアと彼女の婚姻届は受理されなかったらしい。

「そうよ。もう夫人ったら、うっかりさんね。平民同士の婚姻届なのに、貴族用を用意してしまうなんて。

……とまあ、そういうことになったのよ。で、ジョシュアの方はね、アンジェの婚約者だと嘘ついて不当な利益を得ていたらしくて、どこかの商会から訴えられたみたい。お金はあったみたいで良かったわね。」

「侯爵様は甘いわね。これは離縁待ったなしかしら。」

「男性の方が何かと子供には甘くなるようね。何となくそれはわかるような気がするわ。」


「ねえ、でもジョシュアを訴えた相手って……」

「そうだわ。あいつらも何とか尻尾を掴むことができたのよね。ジョシュアのことは同類とでも思ったんでしょう。窃盗の罪も含めて、何なら貴女の侍女への暴行も込みでジョシュアごと捕まえても良かったんだけどね。」

「レアの傷はもう治っているから、証拠にならないのが悔しいわ。」 

「どのみち、裁判になったら全てが明るみになるわ。貴女への結婚祝いでいいんじゃない?」

「流石に貰ってばかりは悪いわよ。」
「何言ってるの。あの変態の生きる場所を与えてくれたのだから、感謝してもしきれないわよ。」

今回ジョシュアに近づいて甘い汁を吸いつくそうとしていた人物は、昔からアンジェリカとヴィクトリアの頭痛の種だった。

昔から美少女だったアンジェリカとヴィクトリア。二人とも公爵家と王家に守られて近づきたくとも安易に近づくことはできない。だからか、彼女の使ったものを勝手に取っていっては、高値で売りつけたりする厄介な変態どもが彼女らを狙うことが多々あった。

正常な人間には全くわからない趣味を持った人達は、アンジェリカが食べた菓子の包み紙やら、ヴィクトリアが落とした髪の毛一本やらを拾っては持って帰るという気持ち悪い行為を何度も繰り返していた。

元第一王子は幼いアンジェリカの可愛さに我を失い、彼女ごと持って帰ろうとしたのだから、彼らとはきっと趣味嗜好が合うに違いない。

勿論気持ち悪い奴らは一握りなのだが、何人も出てくる気持ち悪さに国を捨てたくなったことはあった。

ヴィクトリアは王女だから、逃げることはできない。だけど、だからこそアンジェリカには逃げ切って欲しかった。

隣国の第二王子は、アンジェリカの美しさに骨抜きにはなっていた。それは近くで見てわかるほど。だけど、彼はそれだけに留まらず彼女の能力や心をちゃんと見て、尊重していた。

同じ王族から見ても、ああいう男は稀だ。ヴィクトリアには合わなくてもアンジェリカにはどうにか縁を繋いであげたかった。

アンジェリカと全く縁のない貴族達が彼女の名前を出したくなる気持ちはわかる。だってあんな素敵な人に認められたなら、大きな自信になったろう。

絡みのない男に勝手に婚約者ヅラされるよりは、いじめられたという方が、憧れからの拗らせと言う解釈で納得はできる。

それでも、彼女を当て馬にしたいなら、自分がそれ以上に素晴らしい存在にならないと、ただの狂言にしかならない。

彼女は、平民になってジョシュアの借金を背負うか、元第一王子を男爵家の婿にするかで、後者を選んだ。

変態の兄に子種はないけどね。アンジェリカのいないこの国をヴィクトリアは守っていかなければならない。この程度の、余興は許されるだろう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢が天使すぎるとか、マジ勘弁ッ!!

灰路 ゆうひ
恋愛
それは、よくある断罪シーン。 名門貴族学校の卒業パーティーを舞台に、王太子アーヴィンが涙ながらに訴える男爵令嬢メリアを腕に抱き着かせながら、婚約者である侯爵令嬢クララマリアを卑劣ないじめの嫌疑で追及しようとしていた。 ただ、ひとつ違うところがあるとすれば。 一見悪役令嬢と思われる立ち位置の侯爵令嬢、クララマリアが、天使すぎたということである。 ※別の投稿サイト様でも、同時公開させていただいております。

コウモリ令嬢は婚約者に会えない

毛蟹葵葉
恋愛
ヘスティアは、ある日突然前世の記憶が蘇った。 乙女ゲームの世界にヘスティアは絶妙な立ち位置のモブ令嬢に転生してしまっていたのだ。 ここままいくと不幸な結婚生活が待っている。だから、婚約者と程よい関係を築こうとしたができなかった。 「地味な婚約者がいるなんて嫌だ!婚姻はしてやるから公式の場で婚約者だからとすり寄ってくるのだけはやめてくれ」 婚約者のネイトから初対面で暴言を吐かれたヘスティアは怒りに身を任せて誓約書を書いた。 婚姻する日まで、会う事はありません。と。 主人公が軽くぶっ飛んでます

婚約破棄された公爵令嬢は監禁されました

oro
恋愛
「リリー・アークライト。すまないが私には他に愛する人が出来た。だから婚約破棄してくれ。」 本日、学園の会場で行われていたパーティを静止させた私の婚約者、ディオン国第2王子シーザー・コリンの言葉に、私は意識が遠のくのを感じたー。 婚約破棄された公爵令嬢が幼馴染に監禁されて溺愛されるお話です。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

婚約破棄が嬉しかったのでおもわず笑ってしまったら、それを見た元婚約者様が怯え始めたようです

柚木ゆず
恋愛
 自分勝手で我が儘で、女癖が悪い婚約者オラース。娘は自分達が幸せになるための道具と考えていて、問題の多い侯爵家の嫡男と無理やり婚約をさせた両親。  そんな人間に囲まれ将来を不安視していた子爵令嬢ノエルは、2年前から家を出て新たな人生を歩む準備を進めていました。  そしてそれが可能となる最後の条件が、『オラースが興味を失くすこと』。けれどオラースはノエルに夢中で達成は困難だと思われていましたが、ある日そんなオラースは心変わり。現在の最愛の人・男爵令嬢ロゼッタと円滑に結婚できるよう、ロゼッタへの嫌がらせなどを捏造された上で婚約破棄を宣言されてしまったのでした。 「オラース様。私は全てを認め、罰として貴族籍を手放し『家』を去ります」  その罪を認めれば様々な問題が発生してしまいますが、今あるものを全部捨てるつもりだったノエルにはノーダメージなもの。むしろ最後の条件を満たしてくれたため嬉しい出来事で、それによってノエルはつい「ふふふふふ」と笑みを零しながら、その場を去ったのでした。  そうして婚約者や家族と縁を切り新たな人生を歩み始めたノエルは、まだ知りません。  その笑みによってオラースは様々な勘違いを行い、次々と自滅してゆくことになることを――。  自身にはやがて、とある出会いが待っていることを――。

妹が連れてきた婚約者は私の男でした。譲った私は美形眼鏡に襲われます(完)

みかん畑
恋愛
愛想の良い妹に婚約者を奪われた姉が、その弟の眼鏡に求められる話です。R15程度の性描写ありです。ご注意を。 沢山の方に読んでいただいて感謝。要望のあった父母視点も追加しました。 アルト視点書いてなかったので追加してます。短編にまとめました。

お姉様は嘘つきです! ~信じてくれない毒親に期待するのをやめて、私は新しい場所で生きていく! と思ったら、黒の王太子様がお呼びです?

朱音ゆうひ
恋愛
男爵家の令嬢アリシアは、姉ルーミアに「悪魔憑き」のレッテルをはられて家を追い出されようとしていた。 何を言っても信じてくれない毒親には、もう期待しない。私は家族のいない新しい場所で生きていく!   と思ったら、黒の王太子様からの招待状が届いたのだけど? 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0606ip/)

まったく心当たりのない理由で婚約破棄されるのはいいのですが、私は『精霊のいとし子』ですよ……?

空月
恋愛
精霊信仰の盛んなクレセント王国。 その王立学園の一大イベント・舞踏会の場で、アリシアは突然婚約破棄を言い渡された。 まったく心当たりのない理由をつらつらと言い連ねられる中、アリシアはとある理由で激しく動揺するが、そこに現れたのは──。

処理中です...