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何も変わらない
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アンジェリカは、自室でのんびり過ごしていた。今日は何もない日で、昼からは親友ヴィクトリアが訪ねてくる。彼女には前に教えてもらった「私を勝手に当て馬にした人達」のことについて報告せねばならない。
折角情報を教えて貰ったにも関わらず、アンジェリカは何もしていないことが、面白くもあるが。
その辺の話は、きっとヴィクトリアの方が詳しかったりするのだろう。
アンジェリカの予想通り、ヴィクトリアの口から聞いた話は公爵家の知っている話の上を行っていた。
「というわけで、我が変態の兄は、男爵という地位を手に入れたわ。一代限りで取り壊す予定だけどね。好きになった平民の少女が男爵の庶子だったから、ということになったわ。」
ジョシュアの恋人だったはずの、少女はいつのまにかジョシュアではなくて、元第一王子の妻になっていた。
公爵家の書類に不備があって、ジョシュアと彼女の婚姻届は受理されなかったらしい。
「そうよ。もう夫人ったら、うっかりさんね。平民同士の婚姻届なのに、貴族用を用意してしまうなんて。
……とまあ、そういうことになったのよ。で、ジョシュアの方はね、アンジェの婚約者だと嘘ついて不当な利益を得ていたらしくて、どこかの商会から訴えられたみたい。お金はあったみたいで良かったわね。」
「侯爵様は甘いわね。これは離縁待ったなしかしら。」
「男性の方が何かと子供には甘くなるようね。何となくそれはわかるような気がするわ。」
「ねえ、でもジョシュアを訴えた相手って……」
「そうだわ。あいつらも何とか尻尾を掴むことができたのよね。ジョシュアのことは同類とでも思ったんでしょう。窃盗の罪も含めて、何なら貴女の侍女への暴行も込みでジョシュアごと捕まえても良かったんだけどね。」
「レアの傷はもう治っているから、証拠にならないのが悔しいわ。」
「どのみち、裁判になったら全てが明るみになるわ。貴女への結婚祝いでいいんじゃない?」
「流石に貰ってばかりは悪いわよ。」
「何言ってるの。あの変態の生きる場所を与えてくれたのだから、感謝してもしきれないわよ。」
今回ジョシュアに近づいて甘い汁を吸いつくそうとしていた人物は、昔からアンジェリカとヴィクトリアの頭痛の種だった。
昔から美少女だったアンジェリカとヴィクトリア。二人とも公爵家と王家に守られて近づきたくとも安易に近づくことはできない。だからか、彼女の使ったものを勝手に取っていっては、高値で売りつけたりする厄介な変態どもが彼女らを狙うことが多々あった。
正常な人間には全くわからない趣味を持った人達は、アンジェリカが食べた菓子の包み紙やら、ヴィクトリアが落とした髪の毛一本やらを拾っては持って帰るという気持ち悪い行為を何度も繰り返していた。
元第一王子は幼いアンジェリカの可愛さに我を失い、彼女ごと持って帰ろうとしたのだから、彼らとはきっと趣味嗜好が合うに違いない。
勿論気持ち悪い奴らは一握りなのだが、何人も出てくる気持ち悪さに国を捨てたくなったことはあった。
ヴィクトリアは王女だから、逃げることはできない。だけど、だからこそアンジェリカには逃げ切って欲しかった。
隣国の第二王子は、アンジェリカの美しさに骨抜きにはなっていた。それは近くで見てわかるほど。だけど、彼はそれだけに留まらず彼女の能力や心をちゃんと見て、尊重していた。
同じ王族から見ても、ああいう男は稀だ。ヴィクトリアには合わなくてもアンジェリカにはどうにか縁を繋いであげたかった。
アンジェリカと全く縁のない貴族達が彼女の名前を出したくなる気持ちはわかる。だってあんな素敵な人に認められたなら、大きな自信になったろう。
絡みのない男に勝手に婚約者ヅラされるよりは、いじめられたという方が、憧れからの拗らせと言う解釈で納得はできる。
それでも、彼女を当て馬にしたいなら、自分がそれ以上に素晴らしい存在にならないと、ただの狂言にしかならない。
彼女は、平民になってジョシュアの借金を背負うか、元第一王子を男爵家の婿にするかで、後者を選んだ。
変態の兄に子種はないけどね。アンジェリカのいないこの国をヴィクトリアは守っていかなければならない。この程度の、余興は許されるだろう。
折角情報を教えて貰ったにも関わらず、アンジェリカは何もしていないことが、面白くもあるが。
その辺の話は、きっとヴィクトリアの方が詳しかったりするのだろう。
アンジェリカの予想通り、ヴィクトリアの口から聞いた話は公爵家の知っている話の上を行っていた。
「というわけで、我が変態の兄は、男爵という地位を手に入れたわ。一代限りで取り壊す予定だけどね。好きになった平民の少女が男爵の庶子だったから、ということになったわ。」
ジョシュアの恋人だったはずの、少女はいつのまにかジョシュアではなくて、元第一王子の妻になっていた。
公爵家の書類に不備があって、ジョシュアと彼女の婚姻届は受理されなかったらしい。
「そうよ。もう夫人ったら、うっかりさんね。平民同士の婚姻届なのに、貴族用を用意してしまうなんて。
……とまあ、そういうことになったのよ。で、ジョシュアの方はね、アンジェの婚約者だと嘘ついて不当な利益を得ていたらしくて、どこかの商会から訴えられたみたい。お金はあったみたいで良かったわね。」
「侯爵様は甘いわね。これは離縁待ったなしかしら。」
「男性の方が何かと子供には甘くなるようね。何となくそれはわかるような気がするわ。」
「ねえ、でもジョシュアを訴えた相手って……」
「そうだわ。あいつらも何とか尻尾を掴むことができたのよね。ジョシュアのことは同類とでも思ったんでしょう。窃盗の罪も含めて、何なら貴女の侍女への暴行も込みでジョシュアごと捕まえても良かったんだけどね。」
「レアの傷はもう治っているから、証拠にならないのが悔しいわ。」
「どのみち、裁判になったら全てが明るみになるわ。貴女への結婚祝いでいいんじゃない?」
「流石に貰ってばかりは悪いわよ。」
「何言ってるの。あの変態の生きる場所を与えてくれたのだから、感謝してもしきれないわよ。」
今回ジョシュアに近づいて甘い汁を吸いつくそうとしていた人物は、昔からアンジェリカとヴィクトリアの頭痛の種だった。
昔から美少女だったアンジェリカとヴィクトリア。二人とも公爵家と王家に守られて近づきたくとも安易に近づくことはできない。だからか、彼女の使ったものを勝手に取っていっては、高値で売りつけたりする厄介な変態どもが彼女らを狙うことが多々あった。
正常な人間には全くわからない趣味を持った人達は、アンジェリカが食べた菓子の包み紙やら、ヴィクトリアが落とした髪の毛一本やらを拾っては持って帰るという気持ち悪い行為を何度も繰り返していた。
元第一王子は幼いアンジェリカの可愛さに我を失い、彼女ごと持って帰ろうとしたのだから、彼らとはきっと趣味嗜好が合うに違いない。
勿論気持ち悪い奴らは一握りなのだが、何人も出てくる気持ち悪さに国を捨てたくなったことはあった。
ヴィクトリアは王女だから、逃げることはできない。だけど、だからこそアンジェリカには逃げ切って欲しかった。
隣国の第二王子は、アンジェリカの美しさに骨抜きにはなっていた。それは近くで見てわかるほど。だけど、彼はそれだけに留まらず彼女の能力や心をちゃんと見て、尊重していた。
同じ王族から見ても、ああいう男は稀だ。ヴィクトリアには合わなくてもアンジェリカにはどうにか縁を繋いであげたかった。
アンジェリカと全く縁のない貴族達が彼女の名前を出したくなる気持ちはわかる。だってあんな素敵な人に認められたなら、大きな自信になったろう。
絡みのない男に勝手に婚約者ヅラされるよりは、いじめられたという方が、憧れからの拗らせと言う解釈で納得はできる。
それでも、彼女を当て馬にしたいなら、自分がそれ以上に素晴らしい存在にならないと、ただの狂言にしかならない。
彼女は、平民になってジョシュアの借金を背負うか、元第一王子を男爵家の婿にするかで、後者を選んだ。
変態の兄に子種はないけどね。アンジェリカのいないこの国をヴィクトリアは守っていかなければならない。この程度の、余興は許されるだろう。
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