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嘘から出た嘘

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「ねえ、あのアンジェリカ様にいじめられている、なんて冗談でも言わない方が良いわ。もしお耳に入ったらどうするつもりなの?」

クロエは、見ず知らずの女に声をかけられたが、いつも通り無視をした。確か同じ男爵家の……ブス。クロエは自分以上に可愛い女の子を見たことがない。女は顔が全てだと思っているから、見た目の悪い女の言うことなんて、聞く気はない。唯一美人だと認識したのはアンジェリカ・ハリエ。

彼女を初めて見た時、クロエはあまりの不公平さに震えた。産まれた家が公爵家で金持ちであの美貌。才能もあって、優しい両親に美男美女の使用人。何でもやりたい放題でも褒められる存在。

ズルくない?

クロエは勝手な老婆心から、何でもできる気になっているアンジェリカ嬢に世間の厳しさを教えてあげなければ、と思ったのだ。

有名人なのだから、こんな小さな嫌がらせぐらい耐えなくてはダメよね。

ラッキーなことに、侯爵家の男の恋人になったら、彼の婚約者があのアンジェリカだと言うから、彼女から男を奪うことにした。

あのアンジェリカから婚約者を奪うという行為は大きな自信になった。

その割にアンジェリカ嬢に会う機会は全くなかったのだけど。彼の良さは、よくわからなかった。確かに顔は良かったけれど、ただそれだけだ。どうせ政略結婚だろうから、仕方がないのかもしれないと思ったし、あの女の好きなタイプなのかもしれない、と深く考えなかった。

「アンジェとの婚約は、まだ公にしてはいけないようだ。」と、彼は言っていたが、うっかりと、クロエはその情報を色々なところで小出しにした。

あのアンジェリカ嬢にいじめられている、と話せば、皆そのことを詳しく聞きたがった。クロエは嘘をついている意識はなかったが、さっきの女のように、彼方此方から「嘘はやめなさい。」と叱られた。

「嘘じゃない。」クロエの話を聞いてくれる人はいた。皆がアンジェリカについて悪口を話すときは、気持ちがこれ以上ないほどにスッキリした。

クロエは男爵家の庶子であることで、周りからいつも遠巻きにされていた。アンジェリカの話をし始めてからは、皆クロエの話を聞いてくれる。話しているうちにアンジェリカはたくさんクロエをいじめてきて、クロエは辛い目にあった。

「いくら公爵令嬢でも、そんな非道な行いは許せないな。」

クロエにはそう言って守ってくれようとする男達が寄って来た。アンジェリカの婚約者という理由で興味を持ったジョシュアは、最終的にはクロエを選ばないのではないか、と思っていたことから、クロエは言い寄ってきた男達を、キープすることにした。

皆が私を好きだというんだから、一人だけなんて選べない。

クロエは、アンジェリカの話をするだけで彼女を知り尽くしたような気になっていた。アンジェリカと、クロエはその時、まだ会ってもいないのだが、そんなことはクロエには関係がなかった。
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