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愚息は貴族に向かない

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屋敷に帰った侯爵夫妻は愚息を呼びつけた。夫妻が噂の真犯人に辿り着けなかったのは、最初から愚息を除外した状態で調べていたからだ。

また侯爵家の使用人達は、一人息子のジョシュアに弱く、甘やかしていた為、彼の愚かな行動も、恋人に唆された結果だと思っていた。

だから、ジョシュアが本気でアンジェリカの婚約者だと思い込んでいるとは誰も気が付かなかったのである。

至急、と言われて夫妻の前に来た愚息は、不満そうな顔をしていた。

その顔を見て夫妻に息子に対して強烈な殺意が湧いたのも、仕方がないと言える。

「こんの、馬鹿息子が!!」

非常に穏やかな侯爵が、ジョシュアを張り倒すのを周りは驚いた目で見ていた。ただ使用人の多くは、青い顔をして、公爵家に赴いた夫妻が、青を通り越して真っ白な顔で帰宅した様子から、何か不穏な物を感じ取っていたために、その一言で、ジョシュアが何かをやらかした、と悟っていた。


「お前はいつからハリエ公爵令嬢の婚約者になった。ハリエ公爵家が我が侯爵家から得る物は何だ?お前は何がしたくて、そんな嘘をついた。アンジェリカ嬢を慕うのは勝手だが、噂を広めてはあちらに訴えられると思わなかったのか。」

ジョシュアは侯爵の言葉に、不思議そうな顔をしている。

「え、だって王宮で言っていたじゃないですか。アンジェリカ嬢の婚約が整った、って。だから、その場にいたのは我が家だけでしたし。そうなのかと。」

ジョシュアの言っている話はその昔、まだ幼い頃に、ハリエ公爵家を何とか囲い込もうと画策した王家が、勝手に設けた見合いの席でのことだ。

あの時、その場にいたのは、確かにルーシェン家だけだったが、それは私達がその場に参加を認められていなかったからだ。

彼女を囲い込むことを悟られたくない王家が偶々居合わせたジョシュアをダシに使っただけのこと。

その後、ハリエ公爵にそれらのことがバレて王家は公爵からお説教を受けた。陛下は昔から公爵に頭があがらないのだと話していた。

「残念ながら、そんな事実はない。アンジェリカ嬢は隣国の第二王子との婚約を近く発表されることになっている。金輪際、自分が婚約者だと、虚言を吐くのは許さぬ。公爵家に睨まれたらこの家なんてすぐに潰されると思え。」

父の話を半分も理解していなさそうな息子に母も声をかける。


「ジョシュア、貴方、恋人がいるんですって。一度屋敷にも連れてきなさい。」


息子は母にそう言われたことがよっぽど嬉しかったのか、見る間に機嫌が良くなっていった。

夫人はそんな息子を見て、この息子には貴族として生きるのは無理かも、と呆れていた。恋人も同じようなタイプだと言うし、後継者は養子を取るのも良いかもしれない。夫妻は言葉を交わさなくとも同じことを考えていた。
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