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嗚呼

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「どう?これで貴女の気は済んだ?」

マリーが呼びかけたのは、ヘルマンを庇い命を失った彼の侍女の魂。彼女は、亡くなってからずっと彼の側を離れなかった。ヘルマンは侯爵令息だが、育った環境は寂しいものだった。婚約者を蔑ろにして、誰にもそれを咎められなかったのは、彼が侯爵家では誰の関心をも得られない存在だったからに他ならない。

ララという名の侍女は、命を落としても尚、ヘルマンの行末が不安で見守るのを辞められずにいた。

マリーの正体を知る者でもあった彼女は、ヘルマンに復讐するためにも、必要不可欠な存在ではあったが、ヘルマンのためを思うならマリーの役に立つのは悪手だった。

「ええ、ええ。彼の方が将来的に救われることがない、と理解して下さるなら、貴女に協力した甲斐がありました。」

「実は彼のことをあまり好きではなかった、とか?」

「いいえ、彼の方は好きとか嫌いでは言い表せない方です。私にとっては唯一の主であり、大切にしなければならない存在ですから。」

マリーにはララの言いたいことがわからない。絶対に大切な存在なら、彼が苦労するのがわかってて、非情になれない気もするが。

「私は、ヘルマン様の家族であり、使用人であり、教師なのです。時には甘やかすばかりではなく、叱って正さなくてはなりません。」

ララは、その「叱る」と「正す」がうまくできていないことを嘆いていた。

「彼の方はきっと、今後貴女の意思を知り、絶望感に襲われることになるでしょう。その過程で私の裏切りを知って落ち込むことになるかもしれない。今までの彼の方なら、ここでただひたすら悲劇の渦中にいるように被害者ぶっていたでしょう。」

ララがヘルマンに辛辣なのは、いつものこと。

「その時、私のような存在がそこにはいない。そうなって初めて私の有り難みに気づくんじゃないかしら、と。」

「貴女、やっぱり彼のことあまり好きではないのね?」

好きだとしたら随分と拗れているような言葉にマリーはヘルマンが少しだけ気の毒になった。

「マリー嬢は、家族に恨めしい、とか嫌だとか思ったことはございませんか?好きだけど、認めたくない、とかそう言った相反する気持ちは、持ったことはないですか?

彼の方は今まで恵まれていたのに、それを全て無碍にしていたのです。私はどうしても彼の方に許せないことがありました。それを、どうにか消してしまいたいのです。」

ララはそのきっかけとなることについて、マリーには教えてくれなかった。彼の性格や言葉選びを考えたら不用意に発言したことで、彼女を傷つけてしまったのだろう。

ララは少ししたら、自分も旅立つことを約束してくれた。

彼を追っていくのかと思いきや、そうではないという。よっぽど嫌われたのだと思うと、やるせなくはなるが、正直これ以上は彼らのゴタゴタに付き合う気もない。

マリーは、のんびりと自室で彼女の旅立ちを見送った。これで今度こそ終わりだと感じながら。
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