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第一王子は無関係
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第一王子は今回のことに無関係だ。ヘルマンは霊体だから、スルッと国も超えて何度か様子を見に行ったが、第二王子を巡る不穏な世界に彼だけは全く関係がなかった。
隣国の王女とは、仲は良いようだが、王子自身には、件の伯爵令嬢と特に何の関係もなく、シェリーの言うような思い思われの情もない。
第一王子アーノルドは顔は怖いがただそれだけで、能力的にはカートは足元にも及ばない。カートには特別期待していなかった周囲が隣国の王女からの縁談にアーノルドを薦めたのは謂わば、当然のことだった。
シェリーはずっとこの世界のことを理解している気であるが、ヘルマンからすれば随分と都合の良い見方をしていると思う。
シェリーの思考から読み解けるのは、彼女が独りよがりな人物で、自分の意思とはズレた人の話は聞かないということ。
だから、こんな大変なことを引き起こしたというのにどこか他人事で、フワフワしているのだ。
彼女の信じる「物語」がどうあれ、彼女がどういう理屈でそれを現実にする為に苦心するか、さっぱりわからない。
それでも彼女がしたいようにしてやろうとは思っている。それこそがヘルマンのやり直しであり、マリーへの弔いでもあるからだ。
ヘルマンはシェリー曰く、本編にはさほど登場しないばかりか、文章にして、二、三行で書かれるただのモブらしい。
モブって何だろう、と思うも、多分良い意味ではない。それだけは彼女の表情ですぐにわかった。
「モブだから、私のために動いて当然。」「モブだから、うまく利用しても良い。」「モブだから、私の言うことを聞くのは楽しいはず。」
「貴方は私が好きなんでしょう?」
ヘルマンがもし、彼女を好きなら、多分こんな風にはしない。助けると言いながら死地に連れて行こうとはしない。
彼女は生かしておいてはいけない人間だ。彼女が第二王子カートの名前を使ってたくさんの人間を始末してきたことを知っている。彼女は、自分ではないと言い張っているが、目撃者はいくらでもいる。きっと彼女は自分以外の誰もを信じていない。誰もが自分と同じように生きているということすら知らないのではないかとさえ思うこともある。
ヘルマンはシェリーの望み通り、彼女を地獄へ連れていく。彼女の性格ならばきっと喜んでくれるに違いない。永遠の幸せと一瞬の苦痛。彼女ならきっとおすすめの方を選んでくれるだろう。
「シェリー、君には永遠の若さと、美しさを捧げるよ。それに君に相応しい人もね。生憎、その役目は僕ではないよ。君が大好きな彼の方だよ。わかるだろ?」
彼女は醜悪な顔で笑うと、ヘルマンの示す方へ走り出す。最後の懸念はあったものの、扉は開いた。ヘルマンは安堵して後ろから勢い付けて彼女の背を押した。
「シェリー、さようなら。お幸せに。」扉は音もなく閉じられた。
隣国の王女とは、仲は良いようだが、王子自身には、件の伯爵令嬢と特に何の関係もなく、シェリーの言うような思い思われの情もない。
第一王子アーノルドは顔は怖いがただそれだけで、能力的にはカートは足元にも及ばない。カートには特別期待していなかった周囲が隣国の王女からの縁談にアーノルドを薦めたのは謂わば、当然のことだった。
シェリーはずっとこの世界のことを理解している気であるが、ヘルマンからすれば随分と都合の良い見方をしていると思う。
シェリーの思考から読み解けるのは、彼女が独りよがりな人物で、自分の意思とはズレた人の話は聞かないということ。
だから、こんな大変なことを引き起こしたというのにどこか他人事で、フワフワしているのだ。
彼女の信じる「物語」がどうあれ、彼女がどういう理屈でそれを現実にする為に苦心するか、さっぱりわからない。
それでも彼女がしたいようにしてやろうとは思っている。それこそがヘルマンのやり直しであり、マリーへの弔いでもあるからだ。
ヘルマンはシェリー曰く、本編にはさほど登場しないばかりか、文章にして、二、三行で書かれるただのモブらしい。
モブって何だろう、と思うも、多分良い意味ではない。それだけは彼女の表情ですぐにわかった。
「モブだから、私のために動いて当然。」「モブだから、うまく利用しても良い。」「モブだから、私の言うことを聞くのは楽しいはず。」
「貴方は私が好きなんでしょう?」
ヘルマンがもし、彼女を好きなら、多分こんな風にはしない。助けると言いながら死地に連れて行こうとはしない。
彼女は生かしておいてはいけない人間だ。彼女が第二王子カートの名前を使ってたくさんの人間を始末してきたことを知っている。彼女は、自分ではないと言い張っているが、目撃者はいくらでもいる。きっと彼女は自分以外の誰もを信じていない。誰もが自分と同じように生きているということすら知らないのではないかとさえ思うこともある。
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「シェリー、君には永遠の若さと、美しさを捧げるよ。それに君に相応しい人もね。生憎、その役目は僕ではないよ。君が大好きな彼の方だよ。わかるだろ?」
彼女は醜悪な顔で笑うと、ヘルマンの示す方へ走り出す。最後の懸念はあったものの、扉は開いた。ヘルマンは安堵して後ろから勢い付けて彼女の背を押した。
「シェリー、さようなら。お幸せに。」扉は音もなく閉じられた。
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