上 下
10 / 18

彼のやりたいこと マリー視点

しおりを挟む
一度死んだ者が人生をやり直して、未練を残さずに天に昇る。その話は御伽噺として、この国に昔からある。幼い頃に聞いたその話を、マリーは何の思いも抱かずにただ聞いていた。

サワラン公爵家の一人娘として生を受け、すくすくと育っていたある日、不思議な夢を見た。

自分の身分が今とは違い、ある伯爵家の令嬢なのだ。彼女は婚約者に嫌われて、虐げられていた。彼女の人生を通してマリーは、彼女がすでに亡くなっていて、これが未練なのだと気がついた。

彼女の気が晴れるかはわからないが、彼女を裏切った婚約者と、先導した相手の女性を彼女の代わりにやり返してみると、気がついたころには自分に戻っていた。

この現象を父に相談したら調べて、専門家に聞いてくれた。

神殿から顔を白くさせた偉い人が飛んできたのは驚いたけれど。

「このような体質の方はこれまで何人かいらっしゃいました。非常に貴重な能力です。ぜひ神殿でお話を聞かせていただきたい。」

「話をすることは構いませんが、娘は公爵家の跡取りですので、神殿には渡しませんよ。」

父と神殿の人がバチバチと熱いバトルを交わしている。父の言うようにどんなに特殊でも家族と別れるのは嫌だとマリーは余計な口を挟まないことにした。

神殿の人が言うには、これまで発見されているマリーと同じような能力を持つ人達は、死者の声を聞けるだけだった。

追体験をして、しかも未練の中身を変えることができるなんてのは、マリーだけの能力らしい。

未練がそのままだと、魂は天に上れなくて永久にその場に留まることになる。それでも特に悪いことが起きたりはしないのだが、あまりに未練が強いと悪霊に転じてしまい、国が荒れることもあるのだと言う。


マリーが自分の能力に目覚めたのが偶々だったように、彼に出会ったのも偶々だった。彼はとても強い未練を持っていた為に天に上れないでいたが、それをどうこうする術をマリーは持たなかった。

マリーは悩みに悩んである人物に手伝いを頼んだ。彼は二つ返事で引き受けてくれた。

そして、始まりに戻るのである。



ここで言う始まりとは、あの、鉱山の落盤事故の日のことを示す。あの事故には第二王子が関わっていることは誰の目にも明らかだった。生き埋めになった人間は何も子爵家次男だけにとどまらない。第二王子の政敵や目の上の瘤、カートからすれば味方であるとは到底言えない殆どの人間が、あの事故の犠牲になった。


その中には、マリーの知る人物も含まれていた。マリーが自分の能力を知るきっかけとなった伯爵令嬢の元婚約者でマリー自身が鉱山に送った相手。

ヘルマン・ディーズ元侯爵令息。彼は落盤事故に巻き込まれ、亡くなった。彼の未練は元婚約者が幸せに暮らすこと。既に亡くなっている彼女、マリー・ブルーリは、その願いを叶えることはできない。だってもう未練もなく一足先に天に上ってしまった。

ヘルマンはマリーを見ると嬉しそうに笑う。マリーは、彼の婚約者ではないのに、名前が同じなだけなのに、とても嬉しそうなのだ。

「貴方はもう死んでるの。」
「私は貴方のマリーではないの。」
「マリーは先に天に行ってしまったわ。だから、貴方も行かなくちゃ。」

マリーの言葉に、明確な拒否はない。だからといって、ちゃんと彼に届いているかはわからない。

「マリー、僕にはまだやらなきゃ行けないことがあるんだ。」

思い詰めた顔で、ヘルマンはそう言って、その瞬間、彼は消えてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

学院内でいきなり婚約破棄されました

マルローネ
恋愛
王立貴族学院に通っていた伯爵令嬢のメアリは婚約者であり侯爵令息、さらに生徒会長のオルスタに婚約破棄を言い渡されてしまう。しかも学院内のクラスの中で……。 慰謝料も支払わず、さらに共同で事業を行っていたのだがその利益も不当に奪われる結果に。 メアリは婚約破棄はともかく、それ以外のことには納得行かず幼馴染の伯爵令息レヴィンと共に反論することに。 急速に二人の仲も進展していくが……?

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

別に要りませんけど?

ユウキ
恋愛
「お前を愛することは無い!」 そう言ったのは、今日結婚して私の夫となったネイサンだ。夫婦の寝室、これから初夜をという時に投げつけられた言葉に、私は素直に返事をした。 「……別に要りませんけど?」 ※Rに触れる様な部分は有りませんが、情事を指す言葉が出ますので念のため。 ※なろうでも掲載中

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

【取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

攻略対象の王子様は放置されました

白生荼汰
恋愛
……前回と違う。 お茶会で公爵令嬢の不在に、前回と前世を思い出した王子様。 今回の公爵令嬢は、どうも婚約を避けたい様子だ。 小説家になろうにも投稿してます。

【完結】元妃は多くを望まない

つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。 このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。 花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。 その足で実家に出戻ったシャーロット。 実はこの下賜、王命でのものだった。 それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。 断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。 シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。 私は、あなたたちに「誠意」を求めます。 誠意ある対応。 彼女が求めるのは微々たるもの。 果たしてその結果は如何に!?

処理中です...