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核心には触れられない マリア視点

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ベアトリスになる前は、女騎士だったわ。名前は何だったかしら。あの気の毒な伯爵令嬢の護衛として、雇われていたの。あの時は、子爵家の子息を誑かす役を貰ったわね。そう、だから、今回彼の真似をして、子爵令嬢の地位を手に入れることができたのよ!

そうだった、そうだった。何事も経験よね。

彼は子爵家では放蕩息子だと言われていた。だけど、本当に放蕩息子だったのは彼じゃない。兄の方よ。借金で首が回らなくなったのも兄の方。兄は鉱山に連れてこられてからすぐに死んだ。代わりに売られてきた弟は、王子の罠に嵌り殺された。

そして、私は彼の娘を演じた。

彼は子爵家には珍しく優しい男だった。不遇な目に遭っていても他人ばかりを気遣って。彼の高潔な精神が大嫌いだった。

女騎士の人生は短かった。多分カート第二王子に始末されたのだろう。

伯爵令嬢に雇われながら、主人を裏切ったのだから、当然の報いだとしても、酷いわよね?

伯爵令嬢はあの後、自害したのではないかしら。あの頃の彼女には最愛の婚約者がいて、傷物になった自分に絶望して、毒を飲んだ気がする。

私は責任を取れと責められて……いや、違うわ。カート王子に殺された記憶がある。だけど、責められたのは、確か……駄目だわ。記憶が曖昧なのは、自分が覚えていられるのは前回の人生までみたい。二つ前の人生なんて、覚えてられないわ。

でも確実にわかるのはあの前後に自分は死んだということ。なら神様はあの日死んだ誰かを助けたいと思ったことになる。

やり直しが神の采配なら、神の考えを理解しなければ。また同じことが起きてしまう。

女騎士の人生?あまり、覚えていないけど、凄く貧しかった気がする。騎士としてまあまあ腕は立ったけれど、女だから信用して貰えないの。

あとはしょうもない虐めね。騎士を狙っている女達から嫌味を言われたり、嫌がらせをされたりした。

死の間際をあまり思い出せなくても、どうでもいいことは覚えてる。だから前のベアトリスの時には、虐めがどういうものかを他の人で試すことができた。

自分が虐められるのは辛いけど虐める方はとても楽しいの。不思議よね。

でも、やり返すより効果的なことはあるの。彼女達の婚約者や意中の人に近づいて、惨状を訴えると、正義感の塊の騎士達は、皆面白いように味方になってくれた。

「虐めは良くない。」は理解しても「不貞は良くない。」が浸透しなかったのは、良かったわ。だって彼らが「これは保護で、不貞ではない。」と本気で信じてるんだもの。部屋で二人きり。添い寝までしておいて、その理屈は通らないわよ。

あの時は自分の身体で男が良いように転がるのが楽しかった。令嬢に迂闊に手を出せない男を振り向かせるのは楽しかった。

でも、あの時一人だけ、何をしても靡かない男がいたのよね。思い出せないってことは、多分そういうこと。やり直しの核心にいる人ってことよね。

多分私は主人公ではないから、知らされないのだ。このやり直しに何の意味があるか、脇役にはまだ教えてくれない。
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