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これ以上は闇
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鉱山に置かれる前の自分は控えめに言っても最低だった。間に立っていた公爵を侮り、マリーを虐めて、ベアトリス嬢に気に入られようとした。
ベアトリス嬢はあの頃から違和感を持っていたが、マリーを心配していると言いながら、周りに虐げられている彼女を助けようともしなかった。寧ろ彼女を虐めるように煽動していた疑惑が生まれる。それは婚約者のカート王子がマリーを気にしていたこと以外にも理由があるのかもしれない。
マリーとヘルマンの婚約に横槍を入れたのは第二王子だけではない。ブルーリ伯爵家のマイケルまでもが参戦してきたのである。
マイケルと言えば、前の人生ではマリーの味方としてヘルマンを鉱山に追いやったきっかけを作った男だ。
意外なことに、マリーはカート王子と同じようにマイケルにも苦手意識があるらしかった。
「何だか話しにくいのよね。少しの弱音も吐けないのよ。こんな顔をして怒り出すの。そんなことじゃ、やっていけない、とか言って。」
こーんな、といって目を吊り上げるようなジェスチャーで笑うマリーには、前の記憶があるようには思えない。そのことに少しホッとしつつ、ならやっぱり記憶があるのは一体誰なのかが気になった。
マリーとの仲は茶会を通じて話すようになったとは言え、友人の域を出ない。それでも前の関係と比べると大きな前進である。
前は交流をしないと決めていたのに、マリーは自分のことを好きなのだと思い込んでいた。
いつも不機嫌で文句ばかり言い、自分を悪者にする男なんて、単に面倒だと思っていただろう。今の自分のように別の人物が彼女の話を聞いてくれていたとしたら、良かったのだが、どうなのだろう。
「それにブルーリ伯爵令息には、他に大切な人がいるみたいなの。」
「え?」マイケルよ、お前もか。
第二王子カートと言い、マイケル・ブルーリと言い、今回はどうなっているんだ?
登場人物は同じなのに、全く違う劇の演目を見ているかのようにヘルマンは感じてしまう。
これも誰かのやり直しの結果なのか?
マイケル・ブルーリ伯爵令息の大切な人は前から確実にマリーであった。
「マリー嬢に打診しておいて、他に誰かがいる?間違いではなくて?」
「いいえ。私、見たのよ。彼がある女性と親しげに歩いていたのを。あれはただの友人なんかではないわ。調べてびっくりしたの。彼女、あのローマン子爵家のご令嬢だったの。」
「は?マリア・ローマンは、カート王子の……」
「だからね、私、父にお願いしたの。マリア嬢がどういう経緯で彼らと出会ったのか調べてもらおうと思って。そうしたら不思議なことに辿り着いたわ。
マリア嬢とカート王子、ブルーリ伯爵令息とも鉱山で出会ったらしいの。側妃様の生家が昔所有していた鉱山で。
でも不思議なことに、子爵家の次男坊は鉱山で働いていた記録はないのよ。最初は不名誉なことを隠したのでは?と言われていたけれど。」
「隠したのは、本当のことのように見せる為……」
「おかしなことはまだあるわ。マリア嬢の出自が見えないの。側妃様が関与しているとしても、鉱山の事件も揉み消せなかったあの人がそんな芸当ができるかしら?」
見えているものが、真実ではない。見えないものは見えないだけで、そこにあることは確かなのだ。
「これ以上は、つついてはいけない気がするよ。」
マリーは、それには応えずにニッコリと貼り付けたような笑みを浮かべた。
ベアトリス嬢はあの頃から違和感を持っていたが、マリーを心配していると言いながら、周りに虐げられている彼女を助けようともしなかった。寧ろ彼女を虐めるように煽動していた疑惑が生まれる。それは婚約者のカート王子がマリーを気にしていたこと以外にも理由があるのかもしれない。
マリーとヘルマンの婚約に横槍を入れたのは第二王子だけではない。ブルーリ伯爵家のマイケルまでもが参戦してきたのである。
マイケルと言えば、前の人生ではマリーの味方としてヘルマンを鉱山に追いやったきっかけを作った男だ。
意外なことに、マリーはカート王子と同じようにマイケルにも苦手意識があるらしかった。
「何だか話しにくいのよね。少しの弱音も吐けないのよ。こんな顔をして怒り出すの。そんなことじゃ、やっていけない、とか言って。」
こーんな、といって目を吊り上げるようなジェスチャーで笑うマリーには、前の記憶があるようには思えない。そのことに少しホッとしつつ、ならやっぱり記憶があるのは一体誰なのかが気になった。
マリーとの仲は茶会を通じて話すようになったとは言え、友人の域を出ない。それでも前の関係と比べると大きな前進である。
前は交流をしないと決めていたのに、マリーは自分のことを好きなのだと思い込んでいた。
いつも不機嫌で文句ばかり言い、自分を悪者にする男なんて、単に面倒だと思っていただろう。今の自分のように別の人物が彼女の話を聞いてくれていたとしたら、良かったのだが、どうなのだろう。
「それにブルーリ伯爵令息には、他に大切な人がいるみたいなの。」
「え?」マイケルよ、お前もか。
第二王子カートと言い、マイケル・ブルーリと言い、今回はどうなっているんだ?
登場人物は同じなのに、全く違う劇の演目を見ているかのようにヘルマンは感じてしまう。
これも誰かのやり直しの結果なのか?
マイケル・ブルーリ伯爵令息の大切な人は前から確実にマリーであった。
「マリー嬢に打診しておいて、他に誰かがいる?間違いではなくて?」
「いいえ。私、見たのよ。彼がある女性と親しげに歩いていたのを。あれはただの友人なんかではないわ。調べてびっくりしたの。彼女、あのローマン子爵家のご令嬢だったの。」
「は?マリア・ローマンは、カート王子の……」
「だからね、私、父にお願いしたの。マリア嬢がどういう経緯で彼らと出会ったのか調べてもらおうと思って。そうしたら不思議なことに辿り着いたわ。
マリア嬢とカート王子、ブルーリ伯爵令息とも鉱山で出会ったらしいの。側妃様の生家が昔所有していた鉱山で。
でも不思議なことに、子爵家の次男坊は鉱山で働いていた記録はないのよ。最初は不名誉なことを隠したのでは?と言われていたけれど。」
「隠したのは、本当のことのように見せる為……」
「おかしなことはまだあるわ。マリア嬢の出自が見えないの。側妃様が関与しているとしても、鉱山の事件も揉み消せなかったあの人がそんな芸当ができるかしら?」
見えているものが、真実ではない。見えないものは見えないだけで、そこにあることは確かなのだ。
「これ以上は、つついてはいけない気がするよ。」
マリーは、それには応えずにニッコリと貼り付けたような笑みを浮かべた。
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