上 下
4 / 18

また鉱山

しおりを挟む
気がつけばそこは鉱山だった。いや、違う。今は鉱山で働く方ではない。サワラン公爵家が所有する鉱山を見せてもらっているのだ。

ここは、ヘルマンのいた場所ではない。申し訳程度の簡易の宿泊施設ではなく、立派な豪邸が、作業員の疲れを癒してくれる。鉱山の作業員には、罪人はおらず、ここで働くことはある種のステータスになる。皆作業は辛くても、余りあるほどの福利厚生と、給金に希望者が絶えない程の人気ぶりなのだ。

「第二王子がこの鉱山を狙っている、ということもあるのだよ。」

マリーだけでなく、この鉱山も、第二王子、もしくは側妃の狙いらしい。

「側妃様の家にも鉱山はありましたよね?」

前回の時もそのおかげで、王宮でやりたい放題をしていても、側妃様は咎められることはなかった。

「ああ、あったが、あそこはもう鉱石が取れない。落盤事故があったからね。だから、うちの鉱山が欲しいんだろう。」

確か安全性を無視して掘り続けた結果、何人かの作業員が生き埋めになり、大きな問題になったのだったか。


生き埋めになった作業員の中に、子爵家の次男坊がいたとかで話題になっていた。

「あの子爵家の次男坊、って実家はまだあるんでしたっけ?」

「いいや、彼の娘だと名乗る少女が起こした事件の余波で取り潰しになっている。確かローマン子爵家だったか。

あの娘も、実際には本当に彼の娘かはわからないと言う話だったが、気の毒なことだ。似ているのは瞳の色だけ、ということだったからな。ただ子爵家の当主夫妻が認めてしまったからには受け入れられてしまったが。」

「何が決め手だったのでしょう。」

「ふとした仕草が似ている、と言われたそうだ。息子の考える時の仕草や、笑顔なんかがそっくりだと。」

身内の欲目、とはまた違うのだろうが、どうしても彼らが騙されていたのではないかと言う思いが拭えない。それはサワラン公爵も同じだったようだ。

「私はあの娘は本当は子爵家の血は流れていないように思えるんだ。だから、あの娘を保護しているカート王子にも不審感が残る。君も調べたのだろう。あの元メイドは、ローマン子爵家に乗り込み、自らを亡くなった次男の娘だと言い張った。そして、子爵家を没落に追い込んだ張本人だ。」

「ローマン子爵家とは仲が良かったのですか。」

「ああ、当主の兄とは学園時代に友人だったんだ。身分差からあまり大っぴらに仲良くはできなかったのだがね。」

公爵の友人である人は、体が弱く、学園を卒業後すぐに病に倒れ、還らぬ人となっていた。

「彼には子爵家のことを頼むと、言われていたからな。すまないことをした。」

ベアトリス嬢によく似た娘は、とんだ極悪人らしい。

公爵から貰えた情報を無駄にせず、またもやヘルマンは鉱山に関わることになった。そもそも落盤事故と娘の因果関係がわからない。偶々起きた事故を利用したのならまだ良いが、彼女が乗り込む為に事故を起こしたのなら、話が違ってくる。

やり直しの人生、幸せになるまでにはたくさんの壁があるようだ。ヘルマンは、マリーの笑顔を思い浮かべて奮起した。

折角やり直せたのなら、今度こそマリーには幸せになって貰わなければ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

皇帝陛下は身ごもった寵姫を再愛する

真木
恋愛
燐砂宮が雪景色に覆われる頃、佳南は紫貴帝の御子を身ごもった。子の未来に不安を抱く佳南だったが、皇帝の溺愛は日に日に増して……。※「燐砂宮の秘めごと」のエピローグですが、単体でも読めます。

女官になるはずだった妃

夜空 筒
恋愛
女官になる。 そう聞いていたはずなのに。 あれよあれよという間に、着飾られた私は自国の皇帝の妃の一人になっていた。 しかし、皇帝のお迎えもなく 「忙しいから、もう後宮に入っていいよ」 そんなノリの言葉を彼の側近から賜って後宮入りした私。 秘書省監のならびに本の虫である父を持つ、そんな私も無類の読書好き。 朝議が始まる早朝に、私は父が働く文徳楼に通っている。 そこで好きな著者の本を借りては、殿舎に籠る毎日。 皇帝のお渡りもないし、既に皇后に一番近い妃もいる。 縁付くには程遠い私が、ある日を境に平穏だった日常を壊される羽目になる。 誰とも褥を共にしない皇帝と、女官になるつもりで入ってきた本の虫妃の話。 更新はまばらですが、完結させたいとは思っています。 多分…

異世界の花嫁?お断りします。

momo6
恋愛
三十路を過ぎたOL 椿(つばき)は帰宅後、地震に見舞われる。気付いたら異世界にいた。 そこで出逢った王子に求婚を申し込まれましたけど、 知らない人と結婚なんてお断りです。 貞操の危機を感じ、逃げ出した先に居たのは妖精王ですって? 甘ったるい愛を囁いてもダメです。 異世界に来たなら、この世界を楽しむのが先です!! 恋愛よりも衣食住。これが大事です! お金が無くては生活出来ません!働いて稼いで、美味しい物を食べるんです(๑>◡<๑) ・・・えっ?全部ある? 働かなくてもいい? ーーー惑わされません!甘い誘惑には罠が付き物です! ***** 目に止めていただき、ありがとうございます(〃ω〃) 未熟な所もありますが 楽しんで頂けたから幸いです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

処理中です...