僕はお人形を愛でる

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魔法使い

処刑 ☆

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第一王子の処刑は皆が見たいものではない。多くは気がついている。これは国の闇の部分であると。高貴な血を無駄にし、尊い命を奪う行為であると。悪しき伝統として語り継がれているものの、実際には何かの恩恵を受けている筈だと。

今更やめる、は罷り通らない。だから、前の第一王子を偲ぶためにも引き継がれていく悪しき慣習だと。

処刑とは言っても、殺すわけではない。力を奪うだけだ。魔力を自力では使えずに、国を守る結界に組み込まれてしまうのだ。もはや、人間としての生活はできない。魔力を繋げるだけの装置の一部になる。

私の弟は、すでに塔を出ている。あるのは、昔から王子の代わりとなり役に立ってくれた人形達だけだ。

人形は、弟が居なくなった塔で、国を守るための人柱になる。そして、その人形にため込んだ魔力がなくなれば、結界はなくなる。

結界がなくなったところで、何が起きるかは定かではない。案外何も起こらないのかもしれない。

人形達を置いていくのを、躊躇うかと思えば、「あれは僕の愛する者達の形をしていないから大丈夫です。」と言う。

その中には、私を見つけた目撃者も含まれている。私を殺そうとした暗殺者もいる。弟を怒鳴り散らした侍女もいる。確かに弟の言う通り。この中には、私が愛する者は誰一人いない。

私は逃げる時、実の父を頼ろうとした。王に身重の妻を取られた実の父を。私とは会ったことはなくとも、喜んでくれるのではないか。母の昔話から、家の検討はつけていた。

結果は、会えなかった。王宮に抗議しに行く途中で、夜盗に殺されたらしい。おそらく夜盗は、王宮の誰かの手のものだろう。わかりきっていることだった。最初から仕組まれていたのかもしれない。母を王妃にと望んだのは、陛下ともう一人。


陛下と王弟は、母が違う。もし同じ母から生まれていたら、弟は助かったかもしれない。私を助ける代わりに弟を幽閉し、弟を逃す代わりに、別の人柱を捕まえる。それがあの方から、突き出された条件だ。

それができたなら、私達を放っておいてくださると、言われた。今は、という注釈がつきそうだな。

本当かどうかはまだわからない。だってすでに母に嘘をついている。母は知らないのだ。私の実の父が、母を奪われたあの日に亡くなっていることを。母は今でも父に申し訳なく思っていて、いつか謝りたいと言っている。でも、もう、今世では会えない。

それを知りながら未だに言えないでいる私も同罪かもしれない。

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