僕はお人形を愛でる

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魔法使い

弟 ☆

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私は今日この宮から逃げ出す。今の王妃から生まれた私は王家の血を継いでいない。理由は王妃の不貞ではない。元々、別の男と婚姻をしていた王妃を王が見染めて、奪ったからだ。だから、私は王子ではない。王子ではないから、第一王子の責を果たさなくてよかった。

そう言う目線で見ると、次に生まれた王子も、王の血を継いではいない。王弟と側妃の不義の子であったからだ。側妃は、そのことを理由に、息子を取られまいと抵抗したが、王弟であれ、王族だと言い切られ、抵抗むなしく、取り上げられてしまった。

ついでに、第二王女の殺害を押し付けられ、側妃の不義の子が、第一王子として、塔に幽閉されたのだ。こうなると、王妃である母の相手が王族だったなら、自分がその責を負わされていたのだと冷や汗が噴き出る。

王の血を引いていないからなのか、他に理由があるのかはわからないが、彼には魔力が、そんなにはないようだった。いや、あるにはあるのだが、魔力を貯めておくことができない体のようで、意識しなくても体からどんどん魔力が消費されてしまう。

これは長くはもたない、と誰もが思っただろう。だから、私はそれを利用することにした。魔力を使いすぎて死んだことにして、彼を塔から出す。それが、自分が責を果たさず逃げて彼に全てを押し付けた罪滅ぼしのつもりだった。

彼に人形遊びを教えたのは、魔力を使いすぎて疲れることがないようにとの配慮だった。だが、彼は人形遊びを大いに喜び、驚きの速さで習得した。魔力を人形に流すと、人形は勝手に動きだす。その動きを楽しそうにじっと見ていた。

彼は確かに王子の器であった。聡明で、決して心の内を見せない、いつも朗らかで、得体がしれない、そんな存在だった。

彼は私よりも正確に私の意図を理解していた。自分が助かる為には、他者には慈悲は不要だと。そしてその他者には、勿論私も含まれることを。

彼は自由になることを喜んだ。最初のお人形を連れて行きたい、と言ったので、それを持ってくることを約束した。

人形の置いてある場所には心当たりがあった。人に見つかるわけには行かなかった。なのに見つかってしまった。仕方がないから連れてきてしまった。

彼は、ニッコリ笑って、「大丈夫、お兄様。埋めたら良いのです。」と言った。

これは人間に見えますか?いいえ、お人形です。もう、自力で動くことすらできないのですから。

僕がここを離れるための、人柱にすれば良いのです。その恩恵を受けてきた人間です。この国の為に、身を投げ出す覚悟なんて、とうにできているでしょう。

そう言って笑う彼を見て、私は心の底から安心した。

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