お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios

文字の大きさ
上 下
9 / 11

きっとそれも

しおりを挟む
ミアは伯爵夫人になった。夫人とは言っても名ばかりの、囲われているだけのペットのようなもの。

伯爵家に使用人は少なかった。ミアの立場が特殊だった為に、安易に使用人を雇う訳にも行かず、若い男性がミアに近づくのを夫が嫌がるので、必然的に若い女性か、年寄りしか見当たらない。

囲われているだけの生活はとても退屈で話し相手もいない。ふと、愛妾時代に、ミアに付いていた若い侍女達がどうなったのか気になった。

前の侍女はともかく、まだ若いあの子達には悪いことをしたと思う。もう会えないかもしれないけれど、会えるのであれば、今までありがとう、と感謝だけは述べたい、と思っていた。


だが、その彼女達の行方は意外なところでわかるようになる。

その日、夫はとても沈んだ様子で帰って来た。彼は、ミアを引き取るにあたり、彼女への罰を陛下に確かめに行って来たのだが。

「どうしたの?やっぱり極刑だとか言われた?」

「いや、……妻を娶れと……正式な妻を娶って、ではないと、君を処す、と。」

ミアはその話を聞いて、納得してしまった。陛下に認められた男爵家の男が子爵をすっ飛ばして伯爵にまで上り詰めた。見た目は悪くないし、騎士としてもまだまだ働ける。そうなると、女を一人囲っているとしても、政略結婚の相手としては優良だ。

「私はここに置いてもらえるの?出て行った方が良い?」

「君を監視することは約束されているから大丈夫。それは政略結婚の相手も知っている。」

そうだ。彼は伯爵家でミアを監視するから、と牢から出してくれたのだ。逆に、彼と結婚相手の仲を見せ付けられて、逃げたいと願っても、ミアには自由はない。

「それで、相手は?どんな人?私のことを嫌わないかしら。」

「……それは多分大丈夫。ローズという侍女を覚えている?彼女、子爵家のご令嬢で実は昔から俺のことは知っていたらしいんだ。」

ミアは、ローズとマリーという侍女の自己紹介時に、確かそんなことを話していた様な気がする、と薄らと思い出していた。

マリーは男爵令嬢、ローズは子爵令嬢。ミアは男爵令嬢なのに、ローズは何も言わず、ちゃんと侍女としての役目を果たしてくれていた。

でも……ミアはほんの少し、嫌な予感がした。

彼女達に会いたいと思っていた筈なのに、ほんの少しだけ、全身に悪寒が走ったのである。

そして、やはり嫌な予感は的中した。


政略結婚であてがわれただけの妻ローズは明らかに彼に惚れ込んでいた。彼女が侍女だった時にはあんなに尽くしてくれたのに、今はミアに嫌味しか言ってこない。

「身体しか誇れることがないなんて、恥ずかしくありませんの?」

子爵家から何人かの侍女を連れて来た彼女は日中彼が仕事に行っている間、侍女を連れてミアに嫌がらせを行うことが楽しくて仕方ないみたいだった。

「そういう貴女は、女としての魅力がなくて残念ね。私が彼を慰めるから、いつまで経っても女になれなくて、可哀想だわ。」

彼女はいつもムキになって怒って、夫に泣きつくが、彼は私にしか興味がないのだから、無駄だっての。

結婚はしても、彼は彼女を抱くことはない。彼はいつもミアを、ミアの身体を愛している。ミアは日中、嫌味を言ってくる女を悪役として、夫に愛を伝える。

「ミア、俺はミアしか愛さない。結婚してもそれは変わらないよ。」

彼の愛し方は、陛下とよく似ていた。そしてようやく気づいた。彼の首の後ろに並んだ特徴的な二つの黒子に。最初からずっとミアを愛していたのはこの男。ああ、そういうこと。

「私も、貴方しかいらない。愛してるわ。」

ほどなくして、ミアは子を授かった。夫人は反対していたが、子は庶子として伯爵家に引き取られることになった。意外なことにそれを認めたのは王妃様だったらしい。

何故あの女が、とミアは口に出しそうになったが、一旦見逃されたとはいえ、流石に命は惜しい、と思い直した。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします

希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。 国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。 隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。 「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

【片思いの5年間】婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。

五月ふう
恋愛
「君を愛するつもりも婚約者として扱うつもりもないーー。」 婚約者であるアレックス王子が婚約初日に私にいった言葉だ。 愛されず、婚約者として扱われない。つまり自由ってことですかーー? それって最高じゃないですか。 ずっとそう思っていた私が、王子様に溺愛されるまでの物語。 この作品は 「婚約破棄した元婚約者の王子様は愛人を囲っていました。しかもその人は王子様がずっと愛していた幼馴染でした。」のスピンオフ作品となっています。 どちらの作品から読んでも楽しめるようになっています。気になる方は是非上記の作品も手にとってみてください。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

結婚なんてしなければよかった。

haruno
恋愛
夫が選んだのは私ではない女性。 蔑ろにされたことを抗議するも、夫から返ってきたのは冷たい言葉。 結婚なんてしなければよかった。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

処理中です...