お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

彼女の立場

「あれは随分と変わっているな。」
陛下は先程初めて会った男爵令嬢に疲れていた。
「それにしても、淑女教育をしていないだけで、あのようになるか？まだ幼児の方が分別はあるだろう。」

学園で起きたある女生徒を巡る一連のスキャンダルは、内容が内容だけに、兼ねてから問題になっている隣国から送り込まれるスパイによる迷惑行為なのではないか、と議論され、首謀者というか、当事者というか、望まれた男爵令嬢を王宮で保護し、黒幕を炙り出す、という結論に至った。

結局その後の調査から、隣国の関与はない、という結論に達し、男爵令嬢は家に帰されることになった。

だが、今度は学園で男爵令嬢に言い寄って振られた男達が彼女に危害を加えようとした為に、もう一度今回は陛下の仮の愛妾として、召し上げられることになった。

とはいえ、陛下には新しく正妃として迎える婚約者がおり、男爵令嬢はあくまでも仮の立場でしかないのだが、そのことをいくら説明しても、全く理解しないで、自分は陛下に見そめられている、と思い込んでいる。





陛下に嫁入り予定のご令嬢は、はじめ、彼女のことを本当の愛妾なのだと思っており、こんな女性が好きなんて陛下は趣味が悪い、と引いていた。

ところが二人の姿を見かける時には、彼女の隣には陛下によく似た別人がいるし、本物の陛下を見ても興味はないらしく、いよいよこれはおかしいとなって、陛下に尋ねると、仮の愛妾であることが告げられた。また陛下によく似た別人は、陛下の影であり、時には身代わりとして命を取られたりする危険な役目を与えられている人だった。

彼は男爵家のご令息で、愛妾様とは学園時代からの恋人であるらしい。彼が陛下の変装をすると、傍目には瞳の奥の色が反射の仕方によっては異なった見え方をするぐらいしか、似ていないところがない。

彼は学園卒業時には男爵令息であったものの、陛下の影となったことで、伯爵位を手に入れていた。

「愛する女性の為に、危険な仕事を引き受けて出世するなんて、素敵ね。」

クラウディアは半分本気で羨ましいと思っていたが、残り半分は、あの男爵令嬢にはどれほど伝わっているのか疑問に感じていた。

「彼の方、ご自身が毎日お会いしている男が恋人だと気づいていないのでしょう？陛下だと思っているから、私に威嚇してきたのだし。」

クラウディアに付いている侍女達は、愛妾様に付いている侍女達から話を聞いており、クラウディアの予想に、根拠を与えてくれる。

「愛妾様は、陛下に選ばれたのだから、恋人とは別れた気でいらっしゃいます。愛妾を選ばれた時に、子供の立場などの説明を聞かれて署名をなされていましたが、お忘れでいらっしゃるようでした。」

クラウディアは陛下の血筋でないのなら、焦る必要はないが、絡まれたら面倒だな、とは思っていた。