異世界で嫁に捨てられそう

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俺を囮にする嫁とエサ役の俺

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「じゃ、これお願いね?」
手渡されたのは、先ほど見た見てはいけないものをおびき寄せるための物。

ブルブル震える俺を見ながら、嫁は笑いを堪えきれてない。
「全力で走れば助かるから。」

全力疾走って、最近やってないから、しんどいだろうけど、死ぬよりマシだ。
死にたくない。嫁に必要だって思われたい。多分無理だろうけど。俺が生きるにはお前が必要だ。

なんでこんな簡単なことわからなかったんだ?少しずつ信頼を取り戻して、捨てられないようにするしかない。

だから、いまから、全力疾走します!
任せろ、かなこ!


ヒイィィィィィィィ

俺の想像では、足にジェットがついて、飛び立つみたいな、めちゃくちゃ速く走ったつもりだけど、あっさり攫われて、ああ、俺喰われるんだ。と観念した。

ああ、短い人生だった…

下にいる、かなこを見ると、真剣な顔で、飛び立つ魔物を倒そうとしている。多分その攻撃はコイツを倒せると思うけど、結構な高さだよ、今。これ、落ちたら俺生きてないと思うよ?

そんなことを考えていると、かなこの掌から魔法が放たれる。綺麗な光の魔法。
やっぱり想像通り、この魔物を一撃で仕留めたようだけど、これ、詰んでない?

地面が、どんどん迫ってくる。ぶつかると思って目を瞑ると、体がふんわりと包まれて、衝突することなく、地面に横たわった。

俺はこの日ほど、嫁に感謝したことはない。愛してる、と叫んだことはない。嫁は、無表情だったけど。

嫁は、設定画面を確認する。
「貴方のレベルが4まで上がったわ。とりあえず貴方がレベル20になるまでは一緒にいてあげるわ。でもそれ以降は、誰か他の人に寄生してね?」

レベル20が、どのあたりかわからないが、今は言う通りにしよう。
レベル20になるまでに、嫁の心を取り戻せば良い。

「では、はい次の仕掛けよ。」
次は空は飛ばないけれど、肉食獣みたいな、動きが早そうな何か。

「大丈夫、少し齧られたとしても、治してあげるから。」

また震えがさっきより酷くなる。かなこは容赦がなかった。まあ、俺に対する恨みをここで発散してくれたら、許して貰えるんじゃないか、と本気で思っていたのだ。

生きながら齧られるとか、どんな拷問だよ。そうやって幾度となく命をかけて、嫁が倒して、を繰り返して、ヘトヘトになったころ、俺のレベルは9になっていた。1日で上がるレベルには限界があるらしい。俺はレベル9の村人で、「死物狂い」と言う役に立つのかわからないがスキルを手に入れていた。何だこれ。

嫁は腹を抱えて笑っていて、笑われていると言うのに久しぶりの嫁の笑顔に、テンションが上がっていた。

いつも家に帰ると、嫁の辛気臭い顔が無性に腹が立っていた。でもそれは、俺がさせていた顔であって、嫁に罪はなかった。俺がいつも、嫌な態度で、嫌なことを言ったりしたりしていたから。

そりゃ、嫌になるわ。こんなめちゃくちゃ稼いでくるでもなく、金を持ってるでも、イケメンでも、何かの役に立つでもない夫なんて。しかも、未だに村人だし。まだレベル10も超えてないし。

自己嫌悪に陥りながら、遅くならないうちに家に帰る。

帰ってから、ごはんになるまでひたすら待っていると、かなこが自分の分だけさっさと作って食べ始めた。

ああ、そうか。これ、俺自分で作らなきゃいけないやつ。何がどこにあるかわからず、いろんな物を壊しながら、火傷しながら、とりあえず作る。

遥か昔に、自炊してた時のことを思い出して、懐かしい味に苦笑した。

不味い…。
味付け苦手なんだよなぁ。

ビールを飲もうとして、ここが異世界だと気づく。ああ、もう飲めないのか。
せっかく小遣いで第三ではないビールを買ったのに…。

かなこは、すぐに片付けて、部屋に入ってしまった。あれだけかなこが、話してくれて、笑ってくれたからもう許してくれたと錯覚していた。あれから、まだ1日なんだ。許せる筈ないだろう。

嫁の寝室に入ろうとしたら鍵がかかっていた。考えることは、お見通しか。

散々日中体力を使ったから、眠くて死にそう。汗臭いのを洗いたいけれど、シャワーがなかった。

お湯の溜め方が、よくわからない。
冷たいけれど、水を浴びて、汗を流す。
風邪ひきそう。

とりあえず、体を拭いて、部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。

朝起きて、動き易い格好に着替えると、村人っぽさが増した。かなこが出かけるようなので、撒かれないようについていくと冒険者の登録に向かうようだ。

昨日囮として何体かのモンスターを狩ったので、その報酬で、登録を済ませる。厳密には、登録してからクエストが出て報酬の順になるのだが、嫁のおかげで、融通を聞いてもらえた。「精霊王の娘」は、滅多にお目にかかれないレアキャラだ。次に、俺が登録する。精霊王の娘の連れなので、好奇の目に晒されたが、単なる従者と認識されたようで、意外と友好的なムードだった。ただし、嫁以外は。
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