2 / 9
俺を囮にする嫁とエサ役の俺
しおりを挟む
「じゃ、これお願いね?」
手渡されたのは、先ほど見た見てはいけないものをおびき寄せるための物。
ブルブル震える俺を見ながら、嫁は笑いを堪えきれてない。
「全力で走れば助かるから。」
全力疾走って、最近やってないから、しんどいだろうけど、死ぬよりマシだ。
死にたくない。嫁に必要だって思われたい。多分無理だろうけど。俺が生きるにはお前が必要だ。
なんでこんな簡単なことわからなかったんだ?少しずつ信頼を取り戻して、捨てられないようにするしかない。
だから、いまから、全力疾走します!
任せろ、かなこ!
ヒイィィィィィィィ
俺の想像では、足にジェットがついて、飛び立つみたいな、めちゃくちゃ速く走ったつもりだけど、あっさり攫われて、ああ、俺喰われるんだ。と観念した。
ああ、短い人生だった…
下にいる、かなこを見ると、真剣な顔で、飛び立つ魔物を倒そうとしている。多分その攻撃はコイツを倒せると思うけど、結構な高さだよ、今。これ、落ちたら俺生きてないと思うよ?
そんなことを考えていると、かなこの掌から魔法が放たれる。綺麗な光の魔法。
やっぱり想像通り、この魔物を一撃で仕留めたようだけど、これ、詰んでない?
地面が、どんどん迫ってくる。ぶつかると思って目を瞑ると、体がふんわりと包まれて、衝突することなく、地面に横たわった。
俺はこの日ほど、嫁に感謝したことはない。愛してる、と叫んだことはない。嫁は、無表情だったけど。
嫁は、設定画面を確認する。
「貴方のレベルが4まで上がったわ。とりあえず貴方がレベル20になるまでは一緒にいてあげるわ。でもそれ以降は、誰か他の人に寄生してね?」
レベル20が、どのあたりかわからないが、今は言う通りにしよう。
レベル20になるまでに、嫁の心を取り戻せば良い。
「では、はい次の仕掛けよ。」
次は空は飛ばないけれど、肉食獣みたいな、動きが早そうな何か。
「大丈夫、少し齧られたとしても、治してあげるから。」
また震えがさっきより酷くなる。かなこは容赦がなかった。まあ、俺に対する恨みをここで発散してくれたら、許して貰えるんじゃないか、と本気で思っていたのだ。
生きながら齧られるとか、どんな拷問だよ。そうやって幾度となく命をかけて、嫁が倒して、を繰り返して、ヘトヘトになったころ、俺のレベルは9になっていた。1日で上がるレベルには限界があるらしい。俺はレベル9の村人で、「死物狂い」と言う役に立つのかわからないがスキルを手に入れていた。何だこれ。
嫁は腹を抱えて笑っていて、笑われていると言うのに久しぶりの嫁の笑顔に、テンションが上がっていた。
いつも家に帰ると、嫁の辛気臭い顔が無性に腹が立っていた。でもそれは、俺がさせていた顔であって、嫁に罪はなかった。俺がいつも、嫌な態度で、嫌なことを言ったりしたりしていたから。
そりゃ、嫌になるわ。こんなめちゃくちゃ稼いでくるでもなく、金を持ってるでも、イケメンでも、何かの役に立つでもない夫なんて。しかも、未だに村人だし。まだレベル10も超えてないし。
自己嫌悪に陥りながら、遅くならないうちに家に帰る。
帰ってから、ごはんになるまでひたすら待っていると、かなこが自分の分だけさっさと作って食べ始めた。
ああ、そうか。これ、俺自分で作らなきゃいけないやつ。何がどこにあるかわからず、いろんな物を壊しながら、火傷しながら、とりあえず作る。
遥か昔に、自炊してた時のことを思い出して、懐かしい味に苦笑した。
不味い…。
味付け苦手なんだよなぁ。
ビールを飲もうとして、ここが異世界だと気づく。ああ、もう飲めないのか。
せっかく小遣いで第三ではないビールを買ったのに…。
かなこは、すぐに片付けて、部屋に入ってしまった。あれだけかなこが、話してくれて、笑ってくれたからもう許してくれたと錯覚していた。あれから、まだ1日なんだ。許せる筈ないだろう。
嫁の寝室に入ろうとしたら鍵がかかっていた。考えることは、お見通しか。
散々日中体力を使ったから、眠くて死にそう。汗臭いのを洗いたいけれど、シャワーがなかった。
お湯の溜め方が、よくわからない。
冷たいけれど、水を浴びて、汗を流す。
風邪ひきそう。
とりあえず、体を拭いて、部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。
朝起きて、動き易い格好に着替えると、村人っぽさが増した。かなこが出かけるようなので、撒かれないようについていくと冒険者の登録に向かうようだ。
昨日囮として何体かのモンスターを狩ったので、その報酬で、登録を済ませる。厳密には、登録してからクエストが出て報酬の順になるのだが、嫁のおかげで、融通を聞いてもらえた。「精霊王の娘」は、滅多にお目にかかれないレアキャラだ。次に、俺が登録する。精霊王の娘の連れなので、好奇の目に晒されたが、単なる従者と認識されたようで、意外と友好的なムードだった。ただし、嫁以外は。
手渡されたのは、先ほど見た見てはいけないものをおびき寄せるための物。
ブルブル震える俺を見ながら、嫁は笑いを堪えきれてない。
「全力で走れば助かるから。」
全力疾走って、最近やってないから、しんどいだろうけど、死ぬよりマシだ。
死にたくない。嫁に必要だって思われたい。多分無理だろうけど。俺が生きるにはお前が必要だ。
なんでこんな簡単なことわからなかったんだ?少しずつ信頼を取り戻して、捨てられないようにするしかない。
だから、いまから、全力疾走します!
任せろ、かなこ!
ヒイィィィィィィィ
俺の想像では、足にジェットがついて、飛び立つみたいな、めちゃくちゃ速く走ったつもりだけど、あっさり攫われて、ああ、俺喰われるんだ。と観念した。
ああ、短い人生だった…
下にいる、かなこを見ると、真剣な顔で、飛び立つ魔物を倒そうとしている。多分その攻撃はコイツを倒せると思うけど、結構な高さだよ、今。これ、落ちたら俺生きてないと思うよ?
そんなことを考えていると、かなこの掌から魔法が放たれる。綺麗な光の魔法。
やっぱり想像通り、この魔物を一撃で仕留めたようだけど、これ、詰んでない?
地面が、どんどん迫ってくる。ぶつかると思って目を瞑ると、体がふんわりと包まれて、衝突することなく、地面に横たわった。
俺はこの日ほど、嫁に感謝したことはない。愛してる、と叫んだことはない。嫁は、無表情だったけど。
嫁は、設定画面を確認する。
「貴方のレベルが4まで上がったわ。とりあえず貴方がレベル20になるまでは一緒にいてあげるわ。でもそれ以降は、誰か他の人に寄生してね?」
レベル20が、どのあたりかわからないが、今は言う通りにしよう。
レベル20になるまでに、嫁の心を取り戻せば良い。
「では、はい次の仕掛けよ。」
次は空は飛ばないけれど、肉食獣みたいな、動きが早そうな何か。
「大丈夫、少し齧られたとしても、治してあげるから。」
また震えがさっきより酷くなる。かなこは容赦がなかった。まあ、俺に対する恨みをここで発散してくれたら、許して貰えるんじゃないか、と本気で思っていたのだ。
生きながら齧られるとか、どんな拷問だよ。そうやって幾度となく命をかけて、嫁が倒して、を繰り返して、ヘトヘトになったころ、俺のレベルは9になっていた。1日で上がるレベルには限界があるらしい。俺はレベル9の村人で、「死物狂い」と言う役に立つのかわからないがスキルを手に入れていた。何だこれ。
嫁は腹を抱えて笑っていて、笑われていると言うのに久しぶりの嫁の笑顔に、テンションが上がっていた。
いつも家に帰ると、嫁の辛気臭い顔が無性に腹が立っていた。でもそれは、俺がさせていた顔であって、嫁に罪はなかった。俺がいつも、嫌な態度で、嫌なことを言ったりしたりしていたから。
そりゃ、嫌になるわ。こんなめちゃくちゃ稼いでくるでもなく、金を持ってるでも、イケメンでも、何かの役に立つでもない夫なんて。しかも、未だに村人だし。まだレベル10も超えてないし。
自己嫌悪に陥りながら、遅くならないうちに家に帰る。
帰ってから、ごはんになるまでひたすら待っていると、かなこが自分の分だけさっさと作って食べ始めた。
ああ、そうか。これ、俺自分で作らなきゃいけないやつ。何がどこにあるかわからず、いろんな物を壊しながら、火傷しながら、とりあえず作る。
遥か昔に、自炊してた時のことを思い出して、懐かしい味に苦笑した。
不味い…。
味付け苦手なんだよなぁ。
ビールを飲もうとして、ここが異世界だと気づく。ああ、もう飲めないのか。
せっかく小遣いで第三ではないビールを買ったのに…。
かなこは、すぐに片付けて、部屋に入ってしまった。あれだけかなこが、話してくれて、笑ってくれたからもう許してくれたと錯覚していた。あれから、まだ1日なんだ。許せる筈ないだろう。
嫁の寝室に入ろうとしたら鍵がかかっていた。考えることは、お見通しか。
散々日中体力を使ったから、眠くて死にそう。汗臭いのを洗いたいけれど、シャワーがなかった。
お湯の溜め方が、よくわからない。
冷たいけれど、水を浴びて、汗を流す。
風邪ひきそう。
とりあえず、体を拭いて、部屋に戻ると、そのまま眠ってしまった。
朝起きて、動き易い格好に着替えると、村人っぽさが増した。かなこが出かけるようなので、撒かれないようについていくと冒険者の登録に向かうようだ。
昨日囮として何体かのモンスターを狩ったので、その報酬で、登録を済ませる。厳密には、登録してからクエストが出て報酬の順になるのだが、嫁のおかげで、融通を聞いてもらえた。「精霊王の娘」は、滅多にお目にかかれないレアキャラだ。次に、俺が登録する。精霊王の娘の連れなので、好奇の目に晒されたが、単なる従者と認識されたようで、意外と友好的なムードだった。ただし、嫁以外は。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる