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本編
舞台裏② ルーカス視点
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「ルーカス様。いつまで寝てるんです?」
ルーカスは第二王子だった。彼の知っている未来では王太子だったのに、今はしがない第二王子。中身が違う影響かと思ったら知らなかっただけで、元の道筋を歩んでいるのだという。
ルーカスの体に入っている男は、前の人生と比べて勝ち組だと喜んでいたが、これから王太子を此方に移す為に血みどろな闘いが始まるのだろうと予想して嫌な気分になった。
セシリアと恋に落ち、彼女の為に彼女の元家族に復讐をする王太子ルーカス。今更セシリアに欲情することはないとして、彼は出来ればセシリアよりも公爵令嬢とやらに相手をお願いしたいとまで思っていた。
その公爵令嬢は、公爵子息と婚約中だったが、突然子息側の不貞が発覚し、修道院に入ることになったという。
驚くことには、修道院に向かう前に彼女から手紙が一通届いたことだ。出会ったこともない公爵令嬢から、裏切りのお誘いが届いた時、男はその手に縋った。
「ルーカス様を王太子にして差し上げる代わりに、セシリアではなく、私と結婚しませんか。」
ルーカスの名前を知っていることは勿論、セシリアの名前が出た時に、男は彼女が何もかも自分と同じ立場の人間だと気がついた。
頭の中に、ある女の顔が思い浮かぶ。
自分の身の破滅は元はと言えばその女が原因だ。だが、ルーカスはついている。この身体とこの地位なら、前のような悲惨な結末にはなるまい。
一度は愛し合った仲なのだから、きっと今度こそうまく行くはずだと、ルーカスはほくそ笑んだ。
ルーカスが第一王子を蹴散らしたのは、ケイティのおかげではない。単に向こうが勝手に失脚し、勝手に行方不明になったからだ。
騎士の言うことには、「たった一人で生き延びているなんてことはないでしょう」と、悲壮感溢れた表情で落ち込んでいる。
第一王子、第二王子と呼ばれていながら、彼はルーカスの兄ではなかった。
そのあたりはルーカスにはよくわからない。どちらが尊い血かと言われると、圧倒的に向こうでも、ルーカスの方が味方は多かった。
ルーカスは、ケイティが敢えて自ら国外追放になった経緯を知っている。そうしないと、セシリアには一生会えないからだ。だと言うのに、セシリアは話の内容を勝手に変えた。
ケイティは、セシリアの中身がもしかして変わっているのかもしれない、と言っていたが、それもそのはず。ルーカスの中身も、何ならケイティの中身も別人なのだから、あり得る話だ。
だけど直接話した感じ、セシリアはちゃんとセシリアだったと、ケイティは言っていた。ルーカスはそれに違和感を覚える。
セシリアはセシリアではない。ルーカスがわかったのは、偶然の産物だったが、ケイティにはそれがわからないようだった。
彼女を攫うようにして、隣国へ帰る。セシリアはケイティの思惑通りにケイティの侍女になった。
毎日毎日、仲を見せつけるように接するも、大してダメージはないように見えるセシリア。
ケイティは痩せ我慢だと言うがとてもそうには見えない。心底、どうでも良さそうなセシリアに、多分ルーカスに対する愛情が皆無だと思い知らされる。
告白していないうちに振られた、みたいな状況に怒っていいのか、何とも言えない雰囲気になった。
隣国に乗り込んだ時にはゆうに五年が経っていた。それは全て、ケイティの妃教育が進まなかったせいだ。今もセシリアが予備として教育を受けているからケイティとの婚約が叶っただけで、ケイティ自身の教育の成果ではなかった。
侯爵夫人のフレアは中身が違うからか、ちゃんとロバートによく似た息子を産んだらしい。
もしかしたら、あの中身がセシリアなのでは?と思うも、それははっきりしなかった。
ルーカスは昔の自分の顔を見る。同じ顔なのに、どうして前の自分よりも男前に見えるのだろう。
恋愛結婚の妻と仲良さげな自分自身を見て猛烈な嫉妬と、哀しみが気分を盛り下げる。
フレアにいつ言い寄られるか楽しみにしていたと言うのに、その機会は与えられなかった。
若く美しいフレア。
「「私のものだったのに。」」
隣から同じ言葉が聞こえて、ああやっぱりと確信する。
ケイティの中にいるのは「前の妻フレア」であると。
彼女もロバートに会い、思ったに違いない。あれは私のものだ、と。
二人の中身がここにいるなら、フレアとロバートは誰なんだろう。
自分は単なる地方の文官で、今のロバートは、宰相補佐。頭の出来の良さも前とは違う。
「ルーカス様。彼方が仕掛けないのなら、此方から仕掛けますよ。」
そう言って醜く笑った顔は、ルーカスには馴染みの見慣れた笑顔だった。
先程見たフレアの美しい笑顔には到底及ばない。やはり、性格の醜さは顔に出るのだ。昔の自分の趣味の悪さに、ルーカスは大きな溜め息を吐いた。
ルーカスは第二王子だった。彼の知っている未来では王太子だったのに、今はしがない第二王子。中身が違う影響かと思ったら知らなかっただけで、元の道筋を歩んでいるのだという。
ルーカスの体に入っている男は、前の人生と比べて勝ち組だと喜んでいたが、これから王太子を此方に移す為に血みどろな闘いが始まるのだろうと予想して嫌な気分になった。
セシリアと恋に落ち、彼女の為に彼女の元家族に復讐をする王太子ルーカス。今更セシリアに欲情することはないとして、彼は出来ればセシリアよりも公爵令嬢とやらに相手をお願いしたいとまで思っていた。
その公爵令嬢は、公爵子息と婚約中だったが、突然子息側の不貞が発覚し、修道院に入ることになったという。
驚くことには、修道院に向かう前に彼女から手紙が一通届いたことだ。出会ったこともない公爵令嬢から、裏切りのお誘いが届いた時、男はその手に縋った。
「ルーカス様を王太子にして差し上げる代わりに、セシリアではなく、私と結婚しませんか。」
ルーカスの名前を知っていることは勿論、セシリアの名前が出た時に、男は彼女が何もかも自分と同じ立場の人間だと気がついた。
頭の中に、ある女の顔が思い浮かぶ。
自分の身の破滅は元はと言えばその女が原因だ。だが、ルーカスはついている。この身体とこの地位なら、前のような悲惨な結末にはなるまい。
一度は愛し合った仲なのだから、きっと今度こそうまく行くはずだと、ルーカスはほくそ笑んだ。
ルーカスが第一王子を蹴散らしたのは、ケイティのおかげではない。単に向こうが勝手に失脚し、勝手に行方不明になったからだ。
騎士の言うことには、「たった一人で生き延びているなんてことはないでしょう」と、悲壮感溢れた表情で落ち込んでいる。
第一王子、第二王子と呼ばれていながら、彼はルーカスの兄ではなかった。
そのあたりはルーカスにはよくわからない。どちらが尊い血かと言われると、圧倒的に向こうでも、ルーカスの方が味方は多かった。
ルーカスは、ケイティが敢えて自ら国外追放になった経緯を知っている。そうしないと、セシリアには一生会えないからだ。だと言うのに、セシリアは話の内容を勝手に変えた。
ケイティは、セシリアの中身がもしかして変わっているのかもしれない、と言っていたが、それもそのはず。ルーカスの中身も、何ならケイティの中身も別人なのだから、あり得る話だ。
だけど直接話した感じ、セシリアはちゃんとセシリアだったと、ケイティは言っていた。ルーカスはそれに違和感を覚える。
セシリアはセシリアではない。ルーカスがわかったのは、偶然の産物だったが、ケイティにはそれがわからないようだった。
彼女を攫うようにして、隣国へ帰る。セシリアはケイティの思惑通りにケイティの侍女になった。
毎日毎日、仲を見せつけるように接するも、大してダメージはないように見えるセシリア。
ケイティは痩せ我慢だと言うがとてもそうには見えない。心底、どうでも良さそうなセシリアに、多分ルーカスに対する愛情が皆無だと思い知らされる。
告白していないうちに振られた、みたいな状況に怒っていいのか、何とも言えない雰囲気になった。
隣国に乗り込んだ時にはゆうに五年が経っていた。それは全て、ケイティの妃教育が進まなかったせいだ。今もセシリアが予備として教育を受けているからケイティとの婚約が叶っただけで、ケイティ自身の教育の成果ではなかった。
侯爵夫人のフレアは中身が違うからか、ちゃんとロバートによく似た息子を産んだらしい。
もしかしたら、あの中身がセシリアなのでは?と思うも、それははっきりしなかった。
ルーカスは昔の自分の顔を見る。同じ顔なのに、どうして前の自分よりも男前に見えるのだろう。
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フレアにいつ言い寄られるか楽しみにしていたと言うのに、その機会は与えられなかった。
若く美しいフレア。
「「私のものだったのに。」」
隣から同じ言葉が聞こえて、ああやっぱりと確信する。
ケイティの中にいるのは「前の妻フレア」であると。
彼女もロバートに会い、思ったに違いない。あれは私のものだ、と。
二人の中身がここにいるなら、フレアとロバートは誰なんだろう。
自分は単なる地方の文官で、今のロバートは、宰相補佐。頭の出来の良さも前とは違う。
「ルーカス様。彼方が仕掛けないのなら、此方から仕掛けますよ。」
そう言って醜く笑った顔は、ルーカスには馴染みの見慣れた笑顔だった。
先程見たフレアの美しい笑顔には到底及ばない。やはり、性格の醜さは顔に出るのだ。昔の自分の趣味の悪さに、ルーカスは大きな溜め息を吐いた。
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