10 / 10
鳥の名は
しおりを挟む
甥のリチャードは、目に入れても痛くないほどの愛らしさを持っている。言われて気がついたけれど、自分はどうも人を溺愛する傾向にあるらしい。
妹は大して可愛くはないが、甥は可愛い。何故だろう。ミスティアとリチャードを会わせると可愛いの渋滞が起こるだけだが、そうはしなかった。
甥にまで嫉妬しそうな自分が嫌だった。
心配しなくても、それからすぐにリチャードは来なくなった。幼馴染の女の子と遊ぶのに忙しくなったからだ。
ミスティアは残念そうにしている。子供は好きらしい。
「ドゥーラ伯爵領には孤児院がないのです。小さな子と接する機会はリーゼが大きくなってからはほぼ無かったので。たまに父の仕事についていき、訓練所の子ども達に話を聞いたりはしていたのですが。」
そうだ。ドゥーラ領には孤児院がない。孤児がいないわけではなく、彼らは皆訓練所なる場所に入れられる。要は孤児院の上位版だが、ある程度の年齢になるまで無償で教育を受けられる。一度身につけた知識は一生彼らを守ってくれる。
だから、ドゥーラ領では、軽犯罪が少ない。貧しさから犯罪に走るケースはほぼない。
勿論、施して終わりではない。働けるようになれば今までかけられた金額を収入に応じていくらか徴収している。
それも、生活を脅かすほどではない。
対して、タイロン領ではそれはできていない。孤児院は二つあるが、どれも十分な配慮すらできていないのが、現状だ。
「今度、ウチの領の孤児院に来てくれる?彼らのために何ができるか意見を教えてほしいんだ。」
「はい、楽しみにしていますわ。」
「そういえば、鳥の名前を考えているんだって?」
結婚前に聞いた時は、恥ずかしそうにしながら「まだ秘密です。」とそう言っていたのに、名前を変えてしまうのかと、聞けば、何故か顔を赤くして、頷いている。
理由は教えてくれないが、その姿は可愛らしい。
もう今の彼女を見ても誰も「氷の女神」とは言えないだろう。けれども、この姿を誰にも見せたくない、と思ってしまう狭量な自分もいる。
彼女に「笑うな」と言い放ったあの人みたいになりたくない。
彼は一生後悔して生きていくのだろう。そう思うと、不敬だが、胸がスッとする。
鳥の名前は「ルル」と決まった。リチャードが勝手につけて呼んでいたらしい。ルルと、口にすると鳥がスッと近くに来ることから、名を理解していると思われた。
可愛い響きでミスティアも気に入っている。やっぱり前の名前を教えてくれそうにはなかったけれど、照れている姿が可愛いから今はまだ良いかな。
今はまだ、あの時のように声を上げて笑うことはないけれど、ミスティアの表情筋はだんだん動くことを思い出している。
私は可愛いミスティアを愛でるだけ。それ以外の愛し方がわからない。
彼女の全ての感情を引き出せるようにどろどろに甘やかせてあげたい、というのは彼女には内緒だ。
終わり
読んでいただき、ありがとうございました! mios
妹は大して可愛くはないが、甥は可愛い。何故だろう。ミスティアとリチャードを会わせると可愛いの渋滞が起こるだけだが、そうはしなかった。
甥にまで嫉妬しそうな自分が嫌だった。
心配しなくても、それからすぐにリチャードは来なくなった。幼馴染の女の子と遊ぶのに忙しくなったからだ。
ミスティアは残念そうにしている。子供は好きらしい。
「ドゥーラ伯爵領には孤児院がないのです。小さな子と接する機会はリーゼが大きくなってからはほぼ無かったので。たまに父の仕事についていき、訓練所の子ども達に話を聞いたりはしていたのですが。」
そうだ。ドゥーラ領には孤児院がない。孤児がいないわけではなく、彼らは皆訓練所なる場所に入れられる。要は孤児院の上位版だが、ある程度の年齢になるまで無償で教育を受けられる。一度身につけた知識は一生彼らを守ってくれる。
だから、ドゥーラ領では、軽犯罪が少ない。貧しさから犯罪に走るケースはほぼない。
勿論、施して終わりではない。働けるようになれば今までかけられた金額を収入に応じていくらか徴収している。
それも、生活を脅かすほどではない。
対して、タイロン領ではそれはできていない。孤児院は二つあるが、どれも十分な配慮すらできていないのが、現状だ。
「今度、ウチの領の孤児院に来てくれる?彼らのために何ができるか意見を教えてほしいんだ。」
「はい、楽しみにしていますわ。」
「そういえば、鳥の名前を考えているんだって?」
結婚前に聞いた時は、恥ずかしそうにしながら「まだ秘密です。」とそう言っていたのに、名前を変えてしまうのかと、聞けば、何故か顔を赤くして、頷いている。
理由は教えてくれないが、その姿は可愛らしい。
もう今の彼女を見ても誰も「氷の女神」とは言えないだろう。けれども、この姿を誰にも見せたくない、と思ってしまう狭量な自分もいる。
彼女に「笑うな」と言い放ったあの人みたいになりたくない。
彼は一生後悔して生きていくのだろう。そう思うと、不敬だが、胸がスッとする。
鳥の名前は「ルル」と決まった。リチャードが勝手につけて呼んでいたらしい。ルルと、口にすると鳥がスッと近くに来ることから、名を理解していると思われた。
可愛い響きでミスティアも気に入っている。やっぱり前の名前を教えてくれそうにはなかったけれど、照れている姿が可愛いから今はまだ良いかな。
今はまだ、あの時のように声を上げて笑うことはないけれど、ミスティアの表情筋はだんだん動くことを思い出している。
私は可愛いミスティアを愛でるだけ。それ以外の愛し方がわからない。
彼女の全ての感情を引き出せるようにどろどろに甘やかせてあげたい、というのは彼女には内緒だ。
終わり
読んでいただき、ありがとうございました! mios
34
お気に入りに追加
325
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
あなたに忘れられない人がいても――公爵家のご令息と契約結婚する運びとなりました!――
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
※1/1アメリアとシャーロックの長女ルイーズの恋物語「【R18】犬猿の仲の幼馴染は嘘の婚約者」が完結しましたので、ルイーズ誕生のエピソードを追加しています。
※R18版はムーンライトノベルス様にございます。本作品は、同名作品からR18箇所をR15表現に抑え、加筆修正したものになります。R15に※、ムーンライト様にはR18後日談2話あり。
元は令嬢だったが、現在はお針子として働くアメリア。彼女はある日突然、公爵家の三男シャーロックに求婚される。ナイトの称号を持つ元軍人の彼は、社交界で浮名を流す有名な人物だ。
破産寸前だった父は、彼の申し出を二つ返事で受け入れてしまい、アメリアはシャーロックと婚約することに。
だが、シャーロック本人からは、愛があって求婚したわけではないと言われてしまう。とは言え、なんだかんだで優しくて溺愛してくる彼に、だんだんと心惹かれていくアメリア。
初夜以外では手をつけられずに悩んでいたある時、自分とよく似た女性マーガレットとシャーロックが仲睦まじく映る写真を見つけてしまい――?
「私は彼女の代わりなの――? それとも――」
昔失くした恋人を忘れられない青年と、元気と健康が取り柄の元令嬢が、契約結婚を通して愛を育んでいく物語。
※全13話(1話を2〜4分割して投稿)
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
【完結】転生?いいえ違うわ……なぜなら…
紫宛
恋愛
※全5話※
転生?
わたし空は、車に轢かれて死にました。
でも、気がつくと銀色の綺麗な髪をした女性の体に入っていました。
ゲームの世界?
小説の世界?
ラノベ的な展開?
……と期待していた部分は確かにありました。
けれど、そんな甘いものは無かったのです。
※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定※
婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)
彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
旦那様の秘密 ~人も羨む溺愛結婚、の筈がその実態は白い結婚!?なのにやっぱり甘々って意味不明です~
夏笆(なつは)
恋愛
溺愛と言われ、自分もそう感じながらハロルドと結婚したシャロンだが、その婚姻式の夜『今日は、疲れただろう。ゆっくり休むといい』と言われ、それ以降も夫婦で寝室を共にしたことは無い。
それでも、休日は一緒に過ごすし、朝も夜も食事は共に摂る。しかも、熱量のある瞳でハロルドはシャロンを見つめている。
浮気をするにしても、そのような時間があると思えず、むしろ誰よりも愛されているのでは、と感じる時間が多く、悩んだシャロンは、ハロルドに直接問うてみることに決めた。
そして知った、ハロルドの秘密とは・・・。
小説家になろうにも掲載しています。
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる