笑わない妻を娶りました

mios

文字の大きさ
上 下
5 / 10

鳥の正体は  ミスティア視点

しおりを挟む
「お前、変な笑い声だな。」

幼い頃、王宮の庭でかくれんぼをして遊んでいた私達姉妹にやたらと突っかかってきた金髪の少年は、初対面から失礼だった。

「黙っていたら美人なのに、笑うと気味が悪い。悪魔みたいだな。」

人には誰しも、苦手なことがある。妹のリーゼは、感情を隠すのが、何より苦手。淑女教育を共に受けたのに、腹芸ができないほど手に取るように感情が解られてしまう。

私は一見完璧なので、早い内から、王太子殿下との婚約話が勧められてきた。だけど、王太子殿下が、私の笑い声を悪魔みたいだと称したことから、不仲を噂され、私も嫌なことを言う人には、好意を持てなかったため、婚約には至らなかった。

ある日、王太子殿下に贈り物をいただいた。多分誕生日のプレゼントだったように思う。その頃はまだ辛うじて彼の婚約者候補に名を連ねていたこともあり、プレゼントは受け取った。

が、それは生きていた。当時の自分の背丈よりも大きな鳥は、ただひたすらに怖かった。

「南国に棲む鳥なのだが、鳴き声がお前にそっくりだと思ってな。これでお前がいくら声を上げて笑っても、こやつらのせいにしてしまえるぞ。」


リーゼはこの話に怒っていた。どこまでも失礼な奴だと、他の人が聞いたら不敬だと注意されそうなぐらいには、憤っていた。

「ギャアー、ギャアー」
羽を大きく広げ、全身で主張するような鳴き声を聞いていると、何だか可笑しくなって、一緒に笑ってしまった。

私の笑い声は、鳥の声に似ていなかったし、全く別の鳥と間違えられるほどには、違ったけれど、笑い声をあげられることは、少しずつ溜まったストレスを発散するにはちょうど良い時間だった。



タイロン伯爵家との縁談は、王家とのしがらみのない出世欲のあまりない新興貴族、という振り分けに引っかかった為だ。次期当主であるスタン様は、これまで目立った悪癖はなく、女性関係も問題ない。王太子殿下の婚約者候補だった私を政治利用しようと目論む様子もない。

何より年が離れていることが、穏やかな大人であることが、私は嬉しかった。

話してみると真面目で人の良い性格であることがわかる。リーゼは二人きりになるのを阻止するために、悉く邪魔をしていたが、それは私を思うあまりの行動だとはわかっている。

私はリーゼのように可愛らしく笑えない。悪魔のような笑い声を彼に聞かせることもできない。それでも穏やかに笑って話すスタン様を私はお慕いしている。

試すようで申し訳ないけれど、悪魔の笑い声でも大丈夫と私が胸を張って言えるまでは、彼には秘密。

あの時の鳥の正体を知られるワケにはいかない。彼に変な笑い声、と思われるのは、多分耐えられないから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私だけが赤の他人

有沢真尋
恋愛
 私は母の不倫により、愛人との間に生まれた不義の子だ。  この家で、私だけが赤の他人。そんな私に、家族は優しくしてくれるけれど……。 (他サイトにも公開しています)

【完結】巻き戻りを望みましたが、それでもあなたは遠い人

白雨 音
恋愛
14歳のリリアーヌは、淡い恋をしていた。相手は家同士付き合いのある、幼馴染みのレーニエ。 だが、その年、彼はリリアーヌを庇い酷い傷を負ってしまった。その所為で、二人の運命は狂い始める。 罪悪感に苛まれるリリアーヌは、時が戻れば良いと切に願うのだった。 そして、それは現実になったのだが…短編、全6話。 切ないですが、最後はハッピーエンドです☆《完結しました》

【完結】転生?いいえ違うわ……なぜなら…

紫宛
恋愛
※全5話※ 転生? わたし空は、車に轢かれて死にました。 でも、気がつくと銀色の綺麗な髪をした女性の体に入っていました。 ゲームの世界? 小説の世界? ラノベ的な展開? ……と期待していた部分は確かにありました。 けれど、そんな甘いものは無かったのです。 ※素人作品、ご都合主義、ゆるふわ設定※

玉砕するつもりで、憧れの公爵令息さまに告白したところ、承諾どころかそのまま求婚されてしまいました。

石河 翠
恋愛
人一倍真面目でありながら、片付け下手で悩んでいるノーマ。彼女は思い出のあるものを捨てることができない性格だ。 ある時彼女は、寮の部屋の抜き打ち検査に訪れた公爵令息に、散らかり放題の自室を見られてしまう。恥ずかしさのあまり焦った彼女は、ながれで告白することに。 ところが公爵令息はノーマからの告白を受け入れたばかりか、求婚してくる始末。実は物への執着が乏しい彼には、物を捨てられない彼女こそ人間らしく思えていて……。 生真面目なくせになぜかダメ人間一歩手前なヒロインと、そんなヒロインを溺愛するようになる変わり者ヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID3944887)をお借りしております。

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

もう悪役令嬢じゃないんで、婚約破棄してください!

ふゆ
恋愛
 目が覚めたら、冷酷無情の悪役令嬢だった。    しかも舞台は、主人公が異世界から来た少女って設定の乙女ゲーム。彼女は、この国の王太子殿下と結ばれてハッピーエンドになるはず。  て、ことは。  このままじゃ……現在婚約者のアタシは、破棄されて国外追放になる、ということ。  普通なら焦るし、困るだろう。  けど、アタシには願ったり叶ったりだった。  だって、そもそも……好きな人は、王太子殿下じゃないもの。

悪役令嬢に転生しましたがモブが好き放題やっていたので私の仕事はありませんでした

蔵崎とら
恋愛
権力と知識を持ったモブは、たちが悪い。そんなお話。

「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です

朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。 ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。 「私がお助けしましょう!」 レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)

処理中です...