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賭けは結局うやむやになってしまった。ローゼリアの婚姻は三人の中で一番早かったが、ハインツとベアトリスの間に漂う空気も前とは異なり、何かあったと容易に推察できた。
ローゼリアの相手のケイシーは意外と手が早く、電光石火で婚約し、婚姻までをトントン拍子に話は進んだ。
あんなに奥手だったハインツもいつからかベアトリスを文字通り溺愛するようになってしまって、同じ空間にいるだけで、見ているこちらが気まずくなるようになってしまった。
「どうして、私達あんなに長い間、蔑ろにされることに我慢していたのかしらね。」
「それは何となく分かるわ。もし今彼等に同じようにされたら、我慢できないと思うのよね。だから、要はそう言うことよ。あの王子を愛してた訳じゃないから、平気だったのよ。」
我慢していたわけではなく、愛していなかったから、耐えられた。
「でも、彼には感謝しているのよ。私達を愛することがなかったから、あのような結果になったんだし。彼に愛されていたとしたら、それこそ最悪だったわよ。」
「愛されるのが、最悪って面白いわね。」
「だって、彼に愛された人、不幸になっちゃってるでしょ?」
ローゼリアの発言に記憶の奥底に沈み込んでいる人の顔を思いだそうとするが、思い出せない。
「待って、もう忘れてしまったんだけど。」
「わりと肉感的だった気がする。」
「ごめんなさい。記憶力が、ないわ。」
平和ボケか、必要がなくなったからなのか、私達は、記憶力やら、何やらがすっかり人並みに戻ってしまった。
「加護の力って偉大だったのね。」
「もういらないけれどね。」
「超人的な力よりも、相談しながら一緒に考えてくれる人がいた方が良いもの。」
「それに、今さらあの馬鹿と話したくないわ。」
「同感。頭が痛くなるのよね。」
「彼の言葉を脳内で変換して話していたのだから、疲れても仕方ないわよ。」
祖国では毎日通って、一心不乱に仕事をこなしていた執務室も、こちらに来てからはたまにしか入ることはない。
前に比べると明らかに幸せでふくよかになっていく自身に安堵さえしている。ストレスで胃を痛くすることもなければ、緊張で眠れない夜を過ごすこともない。医師に診てもらわずに、鎮痛剤を飲まなくても良い。
「最高ね。」
好きな人と好きなことをして、自由に過ごせる毎日が何ものにも変えられない貴重なものだと、私達は理解している。
それより何より、彼の隣に私しかいないことが幸せ。
「どんな乗り物であっても、定員は決まってるの。ましてや結婚なんて、先着で二名って決まってるんだから。」
「たくさん乗ったら沈むだけ。」
「縁起でもないこと言わないで!」
ベアトリスとハインツの結婚式は、来月船上で大々的に行われる。港で、別の船に乗り換えてそのまま新婚旅行に旅立つ手筈だ。
「酔い止めは持った?」
「お土産待ってるわね!」
「気をつけて行ってくるわ。」
ベアトリスは微笑んだ。いつまでも三人一緒の自分達が、ようやく個別の新しい記憶を作っていく。
終わり
短編とは?という……すみません。長くなりましたが、取り敢えず一旦終了です。書ききれなかったところは、番外編入れようかな、と思います。
読んでいただき、有難うございました。
mios
ローゼリアの相手のケイシーは意外と手が早く、電光石火で婚約し、婚姻までをトントン拍子に話は進んだ。
あんなに奥手だったハインツもいつからかベアトリスを文字通り溺愛するようになってしまって、同じ空間にいるだけで、見ているこちらが気まずくなるようになってしまった。
「どうして、私達あんなに長い間、蔑ろにされることに我慢していたのかしらね。」
「それは何となく分かるわ。もし今彼等に同じようにされたら、我慢できないと思うのよね。だから、要はそう言うことよ。あの王子を愛してた訳じゃないから、平気だったのよ。」
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「でも、彼には感謝しているのよ。私達を愛することがなかったから、あのような結果になったんだし。彼に愛されていたとしたら、それこそ最悪だったわよ。」
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「だって、彼に愛された人、不幸になっちゃってるでしょ?」
ローゼリアの発言に記憶の奥底に沈み込んでいる人の顔を思いだそうとするが、思い出せない。
「待って、もう忘れてしまったんだけど。」
「わりと肉感的だった気がする。」
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平和ボケか、必要がなくなったからなのか、私達は、記憶力やら、何やらがすっかり人並みに戻ってしまった。
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祖国では毎日通って、一心不乱に仕事をこなしていた執務室も、こちらに来てからはたまにしか入ることはない。
前に比べると明らかに幸せでふくよかになっていく自身に安堵さえしている。ストレスで胃を痛くすることもなければ、緊張で眠れない夜を過ごすこともない。医師に診てもらわずに、鎮痛剤を飲まなくても良い。
「最高ね。」
好きな人と好きなことをして、自由に過ごせる毎日が何ものにも変えられない貴重なものだと、私達は理解している。
それより何より、彼の隣に私しかいないことが幸せ。
「どんな乗り物であっても、定員は決まってるの。ましてや結婚なんて、先着で二名って決まってるんだから。」
「たくさん乗ったら沈むだけ。」
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ベアトリスとハインツの結婚式は、来月船上で大々的に行われる。港で、別の船に乗り換えてそのまま新婚旅行に旅立つ手筈だ。
「酔い止めは持った?」
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「気をつけて行ってくるわ。」
ベアトリスは微笑んだ。いつまでも三人一緒の自分達が、ようやく個別の新しい記憶を作っていく。
終わり
短編とは?という……すみません。長くなりましたが、取り敢えず一旦終了です。書ききれなかったところは、番外編入れようかな、と思います。
読んでいただき、有難うございました。
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