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賭けにならない

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「ベアトリス様は、貴女のお相手をご存知なかったらしいわよ。」

そうローゼリア様に言われて、顎が外れるほど大笑いをした後、笑いすぎて咽せるアリーチェがいた。

「あの方は他のことは出来るのに、恋愛関連だけはダメよね。ローゼリア様も、彼女に遠慮してたら、あっという間に売れ残りになってしまうから、先に唾を付けておいた方が良いと思う。」

「そうよね。まさかのハインツ様もベアトリス様と同じおっとり系だったみたいだし。先になるように頑張るわ。」

二人が笑い合っている隣にベアトリスが不貞腐れた状態で座っている。

アリーチェの相手とやらを知らなかったのが、あまりにも驚かれていてずっと揶揄われ続けている。

「だって、エリオス様の側妃候補に決まる前の一連の縁談の流れを知らなかったのでしょう?」

「だって教えてくださらなかったわ、誰も。」

「公爵家としては、大切な娘と同時に縁続きになる筈だった家のご令嬢まで取られてしまったのだからそれは怒りますよね。」

アリーチェの実家の伯爵家の持つ商会には後継者がいる。後継から外れた次男坊で、元は騎士団に入っていたベアトリスの兄だ。彼は商売をしたがっていたが、立場上難しかったのだが、国を離れた途端、タガが外れてしまった。

その兄の浮かれ様を間近で見ていた妹は、ただ兄が自由の身になったことだけで、こうなってしまったのだと、思い込んでいた。

「おかしいとは思ったのよ。ステインに来て以来、妹のところには全然顔を見せないのに、アリーチェのところには頻繁に顔を出していたみたいだから。」

「商会の報告って言う大義名分があったからよ。」

アリーチェだって、公爵家の次男が商会を継いでくれて、幸せに暮らす未来と、王子の側妃になり、ベアトリスやローゼリアと楽しく暮らす未来を天秤にかけた時、前者の方が楽しそうだとは思っていた。

後者しか選べない状況にいても、一応どちらに転んでもベアトリスもいるのだから、楽しめると思っていた。

王家よりも先に伯爵家に婚約を申し込んだのは有名な公爵家。その手を伸ばすことはできずともアリーチェの中では、止まった時計が再び動き出したように思えていた。

とは言え、二人の間に甘い雰囲気はない。二人揃うと、似た者同士なのか好奇心の赴くままに流されてしまうからだ。

相手のまだいないローゼリアからすると、ベアトリスもアリーチェも自分に見合った人を選んだ気がする。そう思えば思うほど、エリオスとの婚約は黒歴史だったとしかいいようはない。妃の数だけ、王子に魅力がなければ、うまくいく筈はない。

「これから楽しみだわ。私はね、ベアトリス様とハインツ様が初キスをするより、ローゼリアさまの結婚が早いと思うわ。」

「アリーチェのその言い方は、確実に私をばかにしているわね。」

ムスッとしながら、口を挟むと、アリーチェは心外だと言い張った。

「私達実は賭けをしてるの。皆ローゼリアの方にかけたから勝負にならなかったけれど。これから先は女性から仕掛けてみても良いのよ。ハインツ様に仕掛けることができたら、もう金輪際バカにしないわ。」

ベアトリスは二人に乗せられている感は否めないが、決意した。待ってばかりじゃ手に入れられないものもある、と理解していたから。
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