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うっかり

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エリオスは問答無用で送り返すことになった。クリスが送り届けることになり、彼に任せたら安心だと太鼓判を押されて、ベアトリスは落ち着いた。

「クリスの能力は、リディアにはない物だから、現れただけで大きな脅しになるよ。ヘンドリックには書簡で知らせておくから、ビーは気にしなくて良い。あの調子なら反省しないようだし、廃嫡かもしれないね。」

ハインツはベアトリスの手を取り、安心させるように、目を合わせる。

「ビーが責任を感じる必要はないんだよ。王妃様からもそう言葉をいただいてるし。」

手渡された手紙はいつ届いたのか王妃様からのもので、ベアトリスに向けられたものだった。

長年の王妃候補として力を勝手に渡していたこと、エリオスの面倒を押し付けていたこと、公務を丸投げしていたことなど、様様な謝罪が書かれてあり、今後の身柄としては、ステインにお世話になるなり、戻るなり好きにしていい、とあった。こちらから送った魔道具があれば、妃が複数必要でもなくなるのでちゃんとした後継者を選ぶことができる、と感謝していた。

「自分の息子の教育に失敗した自覚はあったみたい。」

苦笑しながら話すハインツは、自分を追い出した兄の妻に何も思うことはないらしい。

「正直、ビーが取り戻されないなら何でも良いなと思ったんだ。ビーがどんな生き方を選ぼうが、応援するけれど、できればこの国にいてくれたら、と思って、ね。」

「私、この国に来た時から、勝手にここで暮らす日を考えて楽しかったです。リディアでは窮屈な日常でしたから。だから、こちらこそ、この国に置いていただけたら、と。」

「やりたいことは見つかりそう?」
「ええ、少なくとも一つは見つかりました。」
ハインツ様に取られた手に力を込めて、握り直すと、ハインツ様が明らかに躊躇う素振りを見せる。

あれ、この感じ?

自らを兄と言い、距離を感じたハインツの様子を見て、ベアトリスは少なからずショックを受けていたのだが。

「ハインツ様?私のこと、本当に妹だと思ってますか?」

「……」

これ?

「ごめん、思っていない。」

「私のこと好きですか?」

アリーチェや、ローゼリアがこの場にいたら確実に揶揄われるセリフを真っ赤になりながら、ベアトリスは告げる。

「好きだよ。」

ハインツは観念したのか苦しそうに呻く。ベアトリスは苦しくはないものの、恥ずかしくて仕方がない。

「あー、カッコ悪い。女の子に先に言われるなんて。」

ベアトリスが大胆にも言い当てたのには訳がある。ベアトリスはわざとではなくて、ハインツに会うまでの時間にアリーチェに同じことを言われていたからだ。

「ハインツ様とベアトリス様は似た者同士よね。多分妹なんて、向こうは全く思っていないから、鎌をかけてみたらどうかしら。ベアトリス様だってハインツ様を兄だとは思っていないでしょ?」

「失敗したら、話を聞いてくれる?」

「いいけど。なるべくかわいらしく誘惑するのよ。プライドを捨て去って。」

いつのまにかローゼリアも参加して、何故かハインツ様を誘惑する方に話が進んでしまった。

こうなったら、あの王子の再登場も、無駄ではなかったかもしれない。
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