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黒幕という程でもない

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「結論から言うと、そこはもう虫の息なんだよね。いわば、最後の悪あがきと言ったところだ。」

第二王子はどこからか現れて、そんなことをいう。ハインツ様にリディアに帰り、王を討つ気がないことから、寝言は寝て言え状態な訳で、第二王子曰く、そんなことを信じているのは、黒幕然としている侯爵付近しかいない、とのこと。

少なくとも、他の貴族は第二王子のこれまでの凶行に巻き込まれてはなるものか、とひっそりと息を潜めているらしく、王子はどちらにせよ、これが粛正としては最後にしたい、と疲れていた。

くだんのアルフレッドも騙したわけではないが、アリーチェから信頼を失い、ステインでの商売については、彼抜きで話を進めることになりそうである。

ハインツは、従者の件で、王宮に呼ばれたものの、彼がしたことに薄々勘付いていたらしく、第二王子に処分を任せていた。

ハインツは、ベアトリスらに頭を下げて謝罪した。


「トドメを刺す権利を私達に譲ってくださるのなら結構ですわよ?」

アリーチェの考えるトドメって何だろう?ベアトリスは、令嬢でありながら、商人であるアリーチェの底力について、誰よりも知っているようで大して知らない自分について考えていた。

彼女は味方にするならとんでもなく強くて、安心できる相手なんだけど、敵にするとなぁ……悪巧みをするも、すぐに全て丸裸にされてしまった侯爵が、彼女に敵うのか疑問が湧く。

亡命したからには、リディアに帰るなんて考えていないことは明らかだ。ハインツ様に余計なことをしようと企むなんて。

見たことのない侯爵に少し同情する。と同時にあの令嬢も同じ気持ちだったのかと、推測する。彼女自身も、ひょんなことから祖国を追われてやってきたこの国で、生きるのに必死になっているのかも。

そう思うと、中身がどうあれ、少しばかり、同情的になるのは、仕方ない。

「彼女の一番嫌なことは何かしら。」
「終の住処を奪われること、なんじゃない?」

「それはいいわね。でも、一人にだけ、ってわけじゃないわ。せっかくだから、家族全員連帯責任なんて、どう?侯爵家の人達皆と、一緒にしてあげたいわ。」

「せっかくだから、ね。」

亡命してから最近、私達には刺激が足りなかったみたいだ。急にイキイキし出した私達を、一瞥し苦笑いを浮かべたハインツ様に近寄ると、アリーチェは、何かを囁いた。

驚いた顔のハインツ様に、振り向いたアリーチェの顔が並ぶ。ベアトリスは嫌な予感に包まれた。案の定、ハインツ様は何故か顔を真っ赤にされ、俯いていらっしゃるし、アリーチェは悪戯がバレた子供の様にこちらを向いて笑っている。

ベアトリスは、どう言う態度を取れば良いかわからずにいるが、そんなことはどうでも良いことだったようだ。

港付近の警備担当から早馬で、どこぞの王子が港で暴れていると報告があった。

特徴を聞いて頭を抱えたのは、ハインツとベアトリスだけ。

アリーチェも、ローゼリアも、第二王子も皆一様に悪い笑顔を浮かべている。

「絶好のチャンスね。」

ベアトリスは、王子の行く末を神に祈った。
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