上 下
30 / 42

黒幕という程でもない

しおりを挟む
「結論から言うと、そこはもう虫の息なんだよね。いわば、最後の悪あがきと言ったところだ。」

第二王子はどこからか現れて、そんなことをいう。ハインツ様にリディアに帰り、王を討つ気がないことから、寝言は寝て言え状態な訳で、第二王子曰く、そんなことを信じているのは、黒幕然としている侯爵付近しかいない、とのこと。

少なくとも、他の貴族は第二王子のこれまでの凶行に巻き込まれてはなるものか、とひっそりと息を潜めているらしく、王子はどちらにせよ、これが粛正としては最後にしたい、と疲れていた。

くだんのアルフレッドも騙したわけではないが、アリーチェから信頼を失い、ステインでの商売については、彼抜きで話を進めることになりそうである。

ハインツは、従者の件で、王宮に呼ばれたものの、彼がしたことに薄々勘付いていたらしく、第二王子に処分を任せていた。

ハインツは、ベアトリスらに頭を下げて謝罪した。


「トドメを刺す権利を私達に譲ってくださるのなら結構ですわよ?」

アリーチェの考えるトドメって何だろう?ベアトリスは、令嬢でありながら、商人であるアリーチェの底力について、誰よりも知っているようで大して知らない自分について考えていた。

彼女は味方にするならとんでもなく強くて、安心できる相手なんだけど、敵にするとなぁ……悪巧みをするも、すぐに全て丸裸にされてしまった侯爵が、彼女に敵うのか疑問が湧く。

亡命したからには、リディアに帰るなんて考えていないことは明らかだ。ハインツ様に余計なことをしようと企むなんて。

見たことのない侯爵に少し同情する。と同時にあの令嬢も同じ気持ちだったのかと、推測する。彼女自身も、ひょんなことから祖国を追われてやってきたこの国で、生きるのに必死になっているのかも。

そう思うと、中身がどうあれ、少しばかり、同情的になるのは、仕方ない。

「彼女の一番嫌なことは何かしら。」
「終の住処を奪われること、なんじゃない?」

「それはいいわね。でも、一人にだけ、ってわけじゃないわ。せっかくだから、家族全員連帯責任なんて、どう?侯爵家の人達皆と、一緒にしてあげたいわ。」

「せっかくだから、ね。」

亡命してから最近、私達には刺激が足りなかったみたいだ。急にイキイキし出した私達を、一瞥し苦笑いを浮かべたハインツ様に近寄ると、アリーチェは、何かを囁いた。

驚いた顔のハインツ様に、振り向いたアリーチェの顔が並ぶ。ベアトリスは嫌な予感に包まれた。案の定、ハインツ様は何故か顔を真っ赤にされ、俯いていらっしゃるし、アリーチェは悪戯がバレた子供の様にこちらを向いて笑っている。

ベアトリスは、どう言う態度を取れば良いかわからずにいるが、そんなことはどうでも良いことだったようだ。

港付近の警備担当から早馬で、どこぞの王子が港で暴れていると報告があった。

特徴を聞いて頭を抱えたのは、ハインツとベアトリスだけ。

アリーチェも、ローゼリアも、第二王子も皆一様に悪い笑顔を浮かべている。

「絶好のチャンスね。」

ベアトリスは、王子の行く末を神に祈った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。

まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。 私に絶対似合うから、と言って。 …て、え?婚約者まで!? いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。 私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら? ☆★ ごくごく普通の、お話です☆ まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。 ☆★☆★ 全21話です。 出来上がっておりますので、随時更新していきます。

私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果

柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。  姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。  ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。ありがとうございます。

黒田悠月
恋愛
結婚式の夜、夫が別の女性と駆け落ちをしました。 とっても嬉しいです。ありがとうございます!

私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです

天宮有
恋愛
 子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。  数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。  そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。  どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。  家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。

【完結】婚約破棄はしたいけれど傍にいてほしいなんて言われましても、私は貴方の母親ではありません

すだもみぢ
恋愛
「彼女は私のことを好きなんだって。だから君とは婚約解消しようと思う」 他の女性に言い寄られて舞い上がり、10年続いた婚約を一方的に解消してきた王太子。 今まで婚約者だと思うからこそ、彼のフォローもアドバイスもしていたけれど、まだそれを当たり前のように求めてくる彼に驚けば。 「君とは結婚しないけれど、ずっと私の側にいて助けてくれるんだろう?」 貴方は私を母親だとでも思っているのでしょうか。正直気持ち悪いんですけれど。 王妃様も「あの子のためを思って我慢して」としか言わないし。 あんな男となんてもう結婚したくないから我慢するのも嫌だし、非難されるのもイヤ。なんとかうまいこと立ち回って幸せになるんだから!

振られたから諦めるつもりだったのに…

しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。 自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。 その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。 一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…   婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。

【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。

まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。 この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。 ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。 え?口うるさい?婚約破棄!? そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。 ☆ あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。 ☆★ 全21話です。 出来上がってますので随時更新していきます。 途中、区切れず長い話もあってすみません。 読んで下さるとうれしいです。

処理中です...