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これからのこと

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「ま、正直な話、もうあの国のことは、残った人達に任せて、今後のことを考えたいわ。」

あと四日程で目的地に着くらしく、少しだけ船酔いしていた内臓も少し落ち着きを取り戻した。アリーチェはこれまでも船の移動はあったらしく元気だったが、ローゼリアとベアトリスには少々ハードで、この旅路が終われば当分、船での移動はご遠慮したかった。

陸路から海路への移動方法は、国から国へ移るには当然ながら事前に通達が必要なため、何度も使えないようで、一度船に乗ったのなら、このまま海路で移動するのが一番だと言われた。

船酔いが楽になれば、アリーチェらと話をして時間を過ごす。アリーチェはこれからのことを具体的に考えていて、行動力もさることながら、流石によく働く、と感心する。ローゼリアも最初はただ戸惑っているように見えたのに、一人で考えることも多かったらしく、もう一度深く勉強したいことがあると言う。こうしてみると、三者三様なれどいつかは妃になるのだから、と諦めていたことは多く、存在するのだと思う。

逆にあの馬鹿王子は今になって、ようやく我慢を強いられているのだと想像して、少し溜飲が下がった。それでも、私達の長年の苦悩や犠牲には足元にも及ばないのだろうけれど。

さて、真実の愛はどうなるかしら。どうなろうと、もう関係ないけれど。



「とりあえず着いたらまずは言葉の勉強からね。それから本をたくさん読んで、できる仕事を探そうかしら。」

ベアトリスは王妃教育により周辺六ヵ国の日常会話程度は習得済みであるが、やはりこれから一生を過ごそうとすると、知らないことばかりだ。幸い、勉強は嫌いではない。新しいことを知るのは楽しいし、そこには今までのように、ノルマやプレッシャーは生じない。それでも今まで好きに過ごせなかった分、急に好きにしていい、と言われると困ってしまう。

ベアトリスの好きなことは、忙しい日々の中、どんどん埋もれていってしまった。

それでも好きだったことを考えてみる。

以前、王妃様の体調が優れない時に、薬草を調合してみた時は楽しかったかもしれない。でも、あれは薬草園を案内して下さった方の手腕が良かったんだわ。毒について詳しく勉強するきっかけになったのも、彼のおかげだったし。あの時の彼は、今もまだあの場所にいるのかしら。


あと、そのあとに、紅茶のブレンドなんかにも興味を持ってやってみたこともあるわね。あの時のお茶は割と好評だったわ。着いたらまた作ってみようかな。それとも、独自の新しい茶葉などがあるかもしれないわ。


それでも、それを仕事にするまでに持って行くには技術が足りないわね。後でアリーチェとも相談してみましょう。





「そういえば、もう考えているの?あの方と会えたら何を話そうかなって。」

ローゼリアに、少し揶揄うような表情で、問われたことを思い出す。

そう、ベアトリスはずっと蓋をして気にしないようにしていた現実に向き合わなければならない。

その昔、初恋に似た感情を抱いた元婚約者の義叔父にあたる人のことを。

前王妃様の子ではない、それだけで王位継承権はないものの、資質なら国王陛下に一番相応しいだろう、あの方に、本当に久しぶりにお目にかかる。

ベアトリスは今でも強烈に思い出せる。一瞬のことだったにも関わらず、初めて会った時の彼の笑顔を。

例えばあの方の婚約者になれたなら……私は一生逃げ出すことなどなかった。彼は今はどう過ごしているのだろう。それに私のことを覚えているだろうか。義理の甥の婚約者候補なんて、覚えている方がおかしいのに、覚えていないかもしれない、とそう考えるだけで胸が苦しくなるのだから、勝手なことだ。

お会いしてから、かなりの年数が経っている。あの魅力的な彼が独り身な訳がなく、きっと、見る影もないおじさんになっている筈だと、自ら言い聞かせる。後で不用意に傷つかないように予防線をはろうとするが、それでもまだ期待が勝ってしまう。

今の私を彼はどう思うだろう。今まで、あの馬鹿王子にどう思われようとどうでも良かったのに。がっかりされたらどうしよう、なんて思春期の子供みたい。

彼に御目通り叶って、話ができるかしら。胸がいっぱいになって、言葉が出ない、とかになりそう。それでも、初恋に決着をつけに行く、ぐらいに思っていたらいいのかもしれない。

何度目かのため息を飲み込んでいたベアトリスをローゼリアが興味深い様子で見ていたことすら知らずにいるほど、ベアトリスは自分のことでいっぱいいっぱいになっていた。

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