14 / 42
馬鹿で良かった
しおりを挟む
「王妃に力があるのはわかったけれど、王が傀儡になるのは、いつなの?即位した時?それとも王太子になった時?それか、元々?」
エリオスだって昔は神童と言われていたのに、ある日を境に努力をしなくなった。それには何かきっかけはあるはずで、それを私達は知らなかった。だけど、問答無用でそうなると、決められていたのなら、彼だけを責められない。彼だってある意味被害者なんじゃない?
「検証をしてないから不確かではあるけれど、代々長子である第一王子が継いでいることから、第一王子にその特徴が現れるんだと思う。実際第二王子はまだ幼いのもあるが、兄とは似ていないし。王弟を見ていたら、ある程度わかるんじゃないか。彼らも彼らの息子達も愚かではないだろう。」
「確かに、ヘンドリック様も、研究者としては、優れた人だものね。ただ、性格なんかが、ちょっとアレなだけだから。」
「ヘンドリック様の性格について、なんだけど、多分何か勘違いが生じていると思うんだ。」
最初は理解してくれた筈のアルフレッドが、首を傾げながら、こちらを向く。いや、この前話したでしょう。彼の態度に反論しようとしたところで、横槍が入る。アリーチェだ。
「私は、聞いた話だけで本人に出会ってないのだけど、彼はベアトリスに麻薬を打とうとしたのよ?危険極まりないし、こちらの敵で認識は合っているんじゃないの?」
もぐもぐとクッキーを頬張りながら話を聞いていたクリスが、驚いて噴き出している。汚い。
「ヘンドリックが?あり得ないよ。」
口の中に物が入ってる状態で喋るんじゃありません。中身はどうあれ、見た目が少年なので、注意したくなってくる。しないけど。
「だって、そんなことして何になるのさ。そもそも彼は王位につきたくないんだよ。彼女達に何かあれば、王子が廃嫡されてしまう危険だってあるんだから。」
「でも、以前ご紹介いただいて、一緒に事件を解決したのですわ。その際にちゃんと彼を確認しております。」
「それは誰に紹介された訳?」
「え、ですから、エリオス様に。」
「王妃は経由していないんだね。」
「ええ。王妃様はその時、別の公務で……」
暫しの沈黙の末に。
「まさか?」アリーチェとローゼリアが信じられない顔で、ベアトリスの方を見ている。
「あの馬鹿王子、従兄弟の顔すら覚えていない訳?」
「そんなことあります?」
二人の驚きはごもっとも。確かにエリオス第一王子は人の顔を覚えるとか何より苦手にしていた。だからって流石に従兄弟の名を騙った他人を王宮に招き入れ、婚約者候補に会わせるなど。
本当にあの時一緒にいてくれた護衛に感謝だ。
「ヘンドリック様を騙った偽者に、心当たりはありますか。その男が何故ヘンドリック様の名を使ったのかも含めて謎なんですが。」
「あの頃麻薬事件を扱っていたので、その関係者でしょうか。あれから私は恐怖からなるべくヘンドリック様に会わないように気をつけていましたので彼の周りにいた人達の中に紛れ込んでいたとしても、わからないのですが。」
クリスは、また頬袋いっぱいにクッキーを詰めている。可愛らしい見た目も相まってリスみたいだ。
「それにしても、ヘンドリック様も王宮に勤めていて、馬鹿王子が相手だとしても、騙ることなんて、できるのでしょうか?」
ローゼリアの疑問もよくわかる。王宮にはたくさんの使用人がいるのだから、何人かは本物の顔を知っている人がいたのではないか、と。
「多分、王子がいたから、知り合いだとでも思われたんじゃないかな。馬鹿王子は、浮気相手を堂々と連れ歩いていたんだろう。権力でモノを言わせるなんて、大好きそうだし。」まあ、それはそう。
「じゃあ、もし、馬鹿王子が彼がヘンドリック様でないと知っていたら、どうなったのかしら。」
「それは、殺されているんじゃないかしら、流石に。ヘンドリック様の名を騙ること自体がバレたら殺される可能性もあるのよ。王子の口を塞ぎに来るのは当然よね。」
「じゃあここは、王子が助かって良かったというべきよね。騙されたし、私を危険な目に遭わせたりはしたけれど。まあ、概ね良かったのよね。」
「ええ、馬鹿で良かったのよ。」
「そうね、馬鹿で良かった。」
エリオスだって昔は神童と言われていたのに、ある日を境に努力をしなくなった。それには何かきっかけはあるはずで、それを私達は知らなかった。だけど、問答無用でそうなると、決められていたのなら、彼だけを責められない。彼だってある意味被害者なんじゃない?
「検証をしてないから不確かではあるけれど、代々長子である第一王子が継いでいることから、第一王子にその特徴が現れるんだと思う。実際第二王子はまだ幼いのもあるが、兄とは似ていないし。王弟を見ていたら、ある程度わかるんじゃないか。彼らも彼らの息子達も愚かではないだろう。」
「確かに、ヘンドリック様も、研究者としては、優れた人だものね。ただ、性格なんかが、ちょっとアレなだけだから。」
「ヘンドリック様の性格について、なんだけど、多分何か勘違いが生じていると思うんだ。」
最初は理解してくれた筈のアルフレッドが、首を傾げながら、こちらを向く。いや、この前話したでしょう。彼の態度に反論しようとしたところで、横槍が入る。アリーチェだ。
「私は、聞いた話だけで本人に出会ってないのだけど、彼はベアトリスに麻薬を打とうとしたのよ?危険極まりないし、こちらの敵で認識は合っているんじゃないの?」
もぐもぐとクッキーを頬張りながら話を聞いていたクリスが、驚いて噴き出している。汚い。
「ヘンドリックが?あり得ないよ。」
口の中に物が入ってる状態で喋るんじゃありません。中身はどうあれ、見た目が少年なので、注意したくなってくる。しないけど。
「だって、そんなことして何になるのさ。そもそも彼は王位につきたくないんだよ。彼女達に何かあれば、王子が廃嫡されてしまう危険だってあるんだから。」
「でも、以前ご紹介いただいて、一緒に事件を解決したのですわ。その際にちゃんと彼を確認しております。」
「それは誰に紹介された訳?」
「え、ですから、エリオス様に。」
「王妃は経由していないんだね。」
「ええ。王妃様はその時、別の公務で……」
暫しの沈黙の末に。
「まさか?」アリーチェとローゼリアが信じられない顔で、ベアトリスの方を見ている。
「あの馬鹿王子、従兄弟の顔すら覚えていない訳?」
「そんなことあります?」
二人の驚きはごもっとも。確かにエリオス第一王子は人の顔を覚えるとか何より苦手にしていた。だからって流石に従兄弟の名を騙った他人を王宮に招き入れ、婚約者候補に会わせるなど。
本当にあの時一緒にいてくれた護衛に感謝だ。
「ヘンドリック様を騙った偽者に、心当たりはありますか。その男が何故ヘンドリック様の名を使ったのかも含めて謎なんですが。」
「あの頃麻薬事件を扱っていたので、その関係者でしょうか。あれから私は恐怖からなるべくヘンドリック様に会わないように気をつけていましたので彼の周りにいた人達の中に紛れ込んでいたとしても、わからないのですが。」
クリスは、また頬袋いっぱいにクッキーを詰めている。可愛らしい見た目も相まってリスみたいだ。
「それにしても、ヘンドリック様も王宮に勤めていて、馬鹿王子が相手だとしても、騙ることなんて、できるのでしょうか?」
ローゼリアの疑問もよくわかる。王宮にはたくさんの使用人がいるのだから、何人かは本物の顔を知っている人がいたのではないか、と。
「多分、王子がいたから、知り合いだとでも思われたんじゃないかな。馬鹿王子は、浮気相手を堂々と連れ歩いていたんだろう。権力でモノを言わせるなんて、大好きそうだし。」まあ、それはそう。
「じゃあ、もし、馬鹿王子が彼がヘンドリック様でないと知っていたら、どうなったのかしら。」
「それは、殺されているんじゃないかしら、流石に。ヘンドリック様の名を騙ること自体がバレたら殺される可能性もあるのよ。王子の口を塞ぎに来るのは当然よね。」
「じゃあここは、王子が助かって良かったというべきよね。騙されたし、私を危険な目に遭わせたりはしたけれど。まあ、概ね良かったのよね。」
「ええ、馬鹿で良かったのよ。」
「そうね、馬鹿で良かった。」
46
お気に入りに追加
416
あなたにおすすめの小説
【完結】『お姉様に似合うから譲るわ。』そう言う妹は、私に婚約者まで譲ってくれました。
まりぃべる
恋愛
妹は、私にいつもいろいろな物を譲ってくれる。
私に絶対似合うから、と言って。
…て、え?婚約者まで!?
いいのかしら。このままいくと私があの美丈夫と言われている方と結婚となってしまいますよ。
私がその方と結婚するとしたら、妹は無事に誰かと結婚出来るのかしら?
☆★
ごくごく普通の、お話です☆
まりぃべるの世界観ですので、理解して読んで頂けると幸いです。
☆★☆★
全21話です。
出来上がっておりますので、随時更新していきます。
私の宝物を奪っていく妹に、全部あげてみた結果
柚木ゆず
恋愛
※4月27日、本編完結いたしました。明日28日より、番外編を投稿させていただきます。
姉マリエットの宝物を奪うことを悦びにしている、妹のミレーヌ。2人の両親はミレーヌを溺愛しているため咎められることはなく、マリエットはいつもそんなミレーヌに怯えていました。
ですが、ある日。とある出来事によってマリエットがミレーヌに宝物を全てあげると決めたことにより、2人の人生は大きく変わってゆくのでした。
お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?
柚木ゆず
恋愛
こんなことがあるなんて、予想外でした。
わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。
元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?
あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?
私を追い出した結果、飼っていた聖獣は誰にも懐かないようです
天宮有
恋愛
子供の頃、男爵令嬢の私アミリア・ファグトは助けた小犬が聖獣と判明して、飼うことが決まる。
数年後――成長した聖獣は家を守ってくれて、私に一番懐いていた。
そんな私を妬んだ姉ラミダは「聖獣は私が拾って一番懐いている」と吹聴していたようで、姉は侯爵令息ケドスの婚約者になる。
どうやらラミダは聖獣が一番懐いていた私が邪魔なようで、追い出そうと目論んでいたようだ。
家族とゲドスはラミダの嘘を信じて、私を蔑み追い出そうとしていた。
振られたから諦めるつもりだったのに…
しゃーりん
恋愛
伯爵令嬢ヴィッテは公爵令息ディートに告白して振られた。
自分の意に沿わない婚約を結ぶ前のダメ元での告白だった。
その後、相手しか得のない婚約を結ぶことになった。
一方、ディートは告白からヴィッテを目で追うようになって…
婚約を解消したいヴィッテとヴィッテが気になりだしたディートのお話です。
【完結】身分に見合う振る舞いをしていただけですが…ではもう止めますからどうか平穏に暮らさせて下さい。
まりぃべる
恋愛
私は公爵令嬢。
この国の高位貴族であるのだから身分に相応しい振る舞いをしないとね。
ちゃんと立場を理解できていない人には、私が教えて差し上げませんと。
え?口うるさい?婚約破棄!?
そうですか…では私は修道院に行って皆様から離れますからどうぞお幸せに。
☆
あくまでもまりぃべるの世界観です。王道のお話がお好みの方は、合わないかと思われますので、そこのところ理解いただき読んでいただけると幸いです。
☆★
全21話です。
出来上がってますので随時更新していきます。
途中、区切れず長い話もあってすみません。
読んで下さるとうれしいです。
【完結】義母が来てからの虐げられた生活から抜け出したいけれど…
まりぃべる
恋愛
私はエミーリエ。
お母様が四歳の頃に亡くなって、それまでは幸せでしたのに、人生が酷くつまらなくなりました。
なぜって?
お母様が亡くなってすぐに、お父様は再婚したのです。それは仕方のないことと分かります。けれど、義理の母や妹が、私に事ある毎に嫌味を言いにくるのですもの。
どんな方法でもいいから、こんな生活から抜け出したいと思うのですが、どうすればいいのか分かりません。
でも…。
☆★
全16話です。
書き終わっておりますので、随時更新していきます。
読んで下さると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる