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馬鹿で良かった

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「王妃に力があるのはわかったけれど、王が傀儡になるのは、いつなの?即位した時?それとも王太子になった時?それか、元々?」

エリオスだって昔は神童と言われていたのに、ある日を境に努力をしなくなった。それには何かきっかけはあるはずで、それを私達は知らなかった。だけど、問答無用でそうなると、決められていたのなら、彼だけを責められない。彼だってある意味被害者なんじゃない?

「検証をしてないから不確かではあるけれど、代々長子である第一王子が継いでいることから、第一王子にその特徴が現れるんだと思う。実際第二王子はまだ幼いのもあるが、兄とは似ていないし。王弟を見ていたら、ある程度わかるんじゃないか。彼らも彼らの息子達も愚かではないだろう。」

「確かに、ヘンドリック様も、研究者としては、優れた人だものね。ただ、性格なんかが、ちょっとアレなだけだから。」

「ヘンドリック様の性格について、なんだけど、多分何か勘違いが生じていると思うんだ。」

最初は理解してくれた筈のアルフレッドが、首を傾げながら、こちらを向く。いや、この前話したでしょう。彼の態度に反論しようとしたところで、横槍が入る。アリーチェだ。

「私は、聞いた話だけで本人に出会ってないのだけど、彼はベアトリスに麻薬を打とうとしたのよ?危険極まりないし、こちらの敵で認識は合っているんじゃないの?」

もぐもぐとクッキーを頬張りながら話を聞いていたクリスが、驚いて噴き出している。汚い。

「ヘンドリックが?あり得ないよ。」
口の中に物が入ってる状態で喋るんじゃありません。中身はどうあれ、見た目が少年なので、注意したくなってくる。しないけど。

「だって、そんなことして何になるのさ。そもそも彼は王位につきたくないんだよ。彼女達に何かあれば、王子が廃嫡されてしまう危険だってあるんだから。」

「でも、以前ご紹介いただいて、一緒に事件を解決したのですわ。その際にちゃんと彼を確認しております。」

「それは誰に紹介された訳?」
「え、ですから、エリオス様に。」
「王妃は経由していないんだね。」
「ええ。王妃様はその時、別の公務で……」

暫しの沈黙の末に。

「まさか?」アリーチェとローゼリアが信じられない顔で、ベアトリスの方を見ている。

「あの馬鹿王子、従兄弟の顔すら覚えていない訳?」

「そんなことあります?」

二人の驚きはごもっとも。確かにエリオス第一王子は人の顔を覚えるとか何より苦手にしていた。だからって流石に従兄弟の名を騙った他人を王宮に招き入れ、婚約者候補に会わせるなど。

本当にあの時一緒にいてくれた護衛に感謝だ。

「ヘンドリック様を騙った偽者に、心当たりはありますか。その男が何故ヘンドリック様の名を使ったのかも含めて謎なんですが。」

「あの頃麻薬事件を扱っていたので、その関係者でしょうか。あれから私は恐怖からなるべくヘンドリック様に会わないように気をつけていましたので彼の周りにいた人達の中に紛れ込んでいたとしても、わからないのですが。」

クリスは、また頬袋いっぱいにクッキーを詰めている。可愛らしい見た目も相まってリスみたいだ。

「それにしても、ヘンドリック様も王宮に勤めていて、馬鹿王子が相手だとしても、騙ることなんて、できるのでしょうか?」

ローゼリアの疑問もよくわかる。王宮にはたくさんの使用人がいるのだから、何人かは本物の顔を知っている人がいたのではないか、と。

「多分、王子がいたから、知り合いだとでも思われたんじゃないかな。馬鹿王子は、浮気相手を堂々と連れ歩いていたんだろう。権力でモノを言わせるなんて、大好きそうだし。」まあ、それはそう。

「じゃあ、もし、馬鹿王子が彼がヘンドリック様でないと知っていたら、どうなったのかしら。」

「それは、殺されているんじゃないかしら、流石に。ヘンドリック様の名を騙ること自体がバレたら殺される可能性もあるのよ。王子の口を塞ぎに来るのは当然よね。」

「じゃあここは、王子が助かって良かったというべきよね。騙されたし、私を危険な目に遭わせたりはしたけれど。まあ、概ね良かったのよね。」

「ええ、馬鹿で良かったのよ。」

「そうね、馬鹿で良かった。」

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