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王妃様の体調
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王宮に戻ってきたエリオスは荒れていた。せっかく出向いたトーチには誰もいないどころか、伯爵家の使用人に騙されたのだと、笑われ、馬鹿にされたからだ。
しかも戻ってきた自分に対して文官達は冷たい顔をして、王妃の体調が戻らない上に、ベアトリスらが居ない今、公務がすすまない、と文句を言い、疲れた身の自分に押し付けてくる。
「オーブリーや、ジョセフィーヌにやらせれば良いだろう。」
「彼女達は王妃教育が終わっていませんので、公務を任せるわけには参りません。」
「オーブリーはともかく、ジョセフィーヌはできる筈だ。学園の成績だって、ベアトリスらに次いで四位の成績だっただろう。」
文官は心の中で、学園の勉強と公務は別だと、悪態をついた。しかも上位三人は僅差だったのに対し、四位以降はかなり差が空いている。そもそも王子は圏外だ。
文官は王子を見るたび、ため息が出る。彼を神童だと、褒めそやしたのは、間違いであったと今ならいえる。
代々、この国は女神の恩恵のせいで、妃となった者に、女神の加護が付与される。それはまさしく内助の功、と言うには大き過ぎる力で、本来なら一人に負担させる力ではない。そのことは、きちんと王太子教育で、教えられる筈なのだが、今の国王は、王妃以外の妃を娶らなかった。一途な王は、王宮の外では歓迎されるが、王宮の中からは、印象は最悪だ。王が今まで、賢王とされたのは全て王妃のおかげだ。
王妃が一人でこの力を背負うなら、この国は早く終わりを迎える。王妃は苦肉の策として、王子の婚約者候補に目をつけた。力を分散させれば、自分の命も守られて、次代も安心だと。ところが四等分で受けられていた力のうち、三つが、向かう場所を失い、再び一つの器に収まった。
今の王妃の体調不良は、力が分散されない苦しみから生じた物だ。
力の受け渡しは、王妃教育の中で段階を経て覚えていくものだ。なので、王妃教育を終えていないオーブリーや、ジョセフィーヌには到底できない。また愛妾については、そもそも公務をやる義務も、権利もない。
だからこそ、急ピッチでオーブリーや、ジョセフィーヌの教育を進めようとしているのだが、中々上手くいっていない。
王妃の負担を減らすため、力の受け渡しに絞ってはいるのだが、オーブリーは元々の体の弱さも相まってうまくいかないし、ジョセフィーヌに関しては、女神の加護を弾いてしまう。
これは由々しき問題だ。オーブリーはともかく女神の加護を弾く者と言うのが初めてで、王宮は混乱した。
いつもなら、新しく側妃にあがるものなら、王妃との面談があり、そこで力に馴染めるかどうか判断される。それがジョセフィーヌにはなかった。その時すでに、三人が、女神の加護の器としての機能を果たしていなかったからだ。
王族や、彼らに近い高位貴族なら誰もが知っている女神の加護のことを、第一王子にも関わらず、エリオスは知らなかった。何度となく、教えられた筈だが、覚えていなかった。
彼が知っていたのは、公務を行うのは、王ではなく、妃だと言うことと、妃は多ければ多い程良いということ。
彼は欲に溺れるあまり、一番肝心なことを忘れてしまっていた。単に、自分は公務をしなくていいのだと、勘違いしていた。
女神の加護を受けるにはある条件がある。ズバリ、王族以外と契りを交わしていないことだ。即ち、王族以外の誰とも男女の仲になっていないことが挙げられる。
なので、それを弾いたとなると、予測できるのはこの部分。
男爵令嬢は王子以外と、そう言う仲になったことがある、と言う意味だ。
王族に嫁ぐ予定の貴族令嬢については王家から厳しく審査されている。そして、次代の王子についても、同じことが言える。
加護を受けた王妃なり側妃の子が、次期王太子になることは周知の事実である。その方が、女神が喜んで力を足してくれるそうだ。
ジョセフィーヌは、側妃として、成り立たないことが判明した。愛妾の二人については、関係を持った男は、王族であったため、セーフだが、彼女だけは違ったからだ。しかし、加護の力を弾いたことも、既に妃候補から脱落していることを彼女は知らずにいた。
ヘンドリックは、大きなネズミを捕まえた。それは以前捕まえ損ねた、彼に変装したネズミだ。ヘンドリックは、公爵を継がないことで、実父と約束をしていた。王妃様にかかる女神の加護を、負担をかけないようにする、と言う約束だ。
元はと言えば、王子の婚約者に目をつけたのは彼だった。妃になることが条件とは言え、未だ候補でしかなかった彼女達に力を譲渡することはできない。
ただ、王妃を媒体として、王妃から力を授けるのは難しくないと、月に一度、忙しい合間を縫って、お茶会を開催していた。
妃候補の交流会とは建前で、本当は三人に王妃の力を分け与えていたにすぎない。
ベアトリスらがお茶会の後に、必要以上に疲れていたのは、そんな理由からだった。とは言え、逃げられるとは、思わなかった。
ジョセフィーヌがだめなら、残りはオーブリーしかいない。だが、彼女が力に耐えられないことは目に見えている。
ヘンドリックは頭をかかえた。
しかも戻ってきた自分に対して文官達は冷たい顔をして、王妃の体調が戻らない上に、ベアトリスらが居ない今、公務がすすまない、と文句を言い、疲れた身の自分に押し付けてくる。
「オーブリーや、ジョセフィーヌにやらせれば良いだろう。」
「彼女達は王妃教育が終わっていませんので、公務を任せるわけには参りません。」
「オーブリーはともかく、ジョセフィーヌはできる筈だ。学園の成績だって、ベアトリスらに次いで四位の成績だっただろう。」
文官は心の中で、学園の勉強と公務は別だと、悪態をついた。しかも上位三人は僅差だったのに対し、四位以降はかなり差が空いている。そもそも王子は圏外だ。
文官は王子を見るたび、ため息が出る。彼を神童だと、褒めそやしたのは、間違いであったと今ならいえる。
代々、この国は女神の恩恵のせいで、妃となった者に、女神の加護が付与される。それはまさしく内助の功、と言うには大き過ぎる力で、本来なら一人に負担させる力ではない。そのことは、きちんと王太子教育で、教えられる筈なのだが、今の国王は、王妃以外の妃を娶らなかった。一途な王は、王宮の外では歓迎されるが、王宮の中からは、印象は最悪だ。王が今まで、賢王とされたのは全て王妃のおかげだ。
王妃が一人でこの力を背負うなら、この国は早く終わりを迎える。王妃は苦肉の策として、王子の婚約者候補に目をつけた。力を分散させれば、自分の命も守られて、次代も安心だと。ところが四等分で受けられていた力のうち、三つが、向かう場所を失い、再び一つの器に収まった。
今の王妃の体調不良は、力が分散されない苦しみから生じた物だ。
力の受け渡しは、王妃教育の中で段階を経て覚えていくものだ。なので、王妃教育を終えていないオーブリーや、ジョセフィーヌには到底できない。また愛妾については、そもそも公務をやる義務も、権利もない。
だからこそ、急ピッチでオーブリーや、ジョセフィーヌの教育を進めようとしているのだが、中々上手くいっていない。
王妃の負担を減らすため、力の受け渡しに絞ってはいるのだが、オーブリーは元々の体の弱さも相まってうまくいかないし、ジョセフィーヌに関しては、女神の加護を弾いてしまう。
これは由々しき問題だ。オーブリーはともかく女神の加護を弾く者と言うのが初めてで、王宮は混乱した。
いつもなら、新しく側妃にあがるものなら、王妃との面談があり、そこで力に馴染めるかどうか判断される。それがジョセフィーヌにはなかった。その時すでに、三人が、女神の加護の器としての機能を果たしていなかったからだ。
王族や、彼らに近い高位貴族なら誰もが知っている女神の加護のことを、第一王子にも関わらず、エリオスは知らなかった。何度となく、教えられた筈だが、覚えていなかった。
彼が知っていたのは、公務を行うのは、王ではなく、妃だと言うことと、妃は多ければ多い程良いということ。
彼は欲に溺れるあまり、一番肝心なことを忘れてしまっていた。単に、自分は公務をしなくていいのだと、勘違いしていた。
女神の加護を受けるにはある条件がある。ズバリ、王族以外と契りを交わしていないことだ。即ち、王族以外の誰とも男女の仲になっていないことが挙げられる。
なので、それを弾いたとなると、予測できるのはこの部分。
男爵令嬢は王子以外と、そう言う仲になったことがある、と言う意味だ。
王族に嫁ぐ予定の貴族令嬢については王家から厳しく審査されている。そして、次代の王子についても、同じことが言える。
加護を受けた王妃なり側妃の子が、次期王太子になることは周知の事実である。その方が、女神が喜んで力を足してくれるそうだ。
ジョセフィーヌは、側妃として、成り立たないことが判明した。愛妾の二人については、関係を持った男は、王族であったため、セーフだが、彼女だけは違ったからだ。しかし、加護の力を弾いたことも、既に妃候補から脱落していることを彼女は知らずにいた。
ヘンドリックは、大きなネズミを捕まえた。それは以前捕まえ損ねた、彼に変装したネズミだ。ヘンドリックは、公爵を継がないことで、実父と約束をしていた。王妃様にかかる女神の加護を、負担をかけないようにする、と言う約束だ。
元はと言えば、王子の婚約者に目をつけたのは彼だった。妃になることが条件とは言え、未だ候補でしかなかった彼女達に力を譲渡することはできない。
ただ、王妃を媒体として、王妃から力を授けるのは難しくないと、月に一度、忙しい合間を縫って、お茶会を開催していた。
妃候補の交流会とは建前で、本当は三人に王妃の力を分け与えていたにすぎない。
ベアトリスらがお茶会の後に、必要以上に疲れていたのは、そんな理由からだった。とは言え、逃げられるとは、思わなかった。
ジョセフィーヌがだめなら、残りはオーブリーしかいない。だが、彼女が力に耐えられないことは目に見えている。
ヘンドリックは頭をかかえた。
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