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とりあえず合流しましょう
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国境沿い周辺までは、馬車での移動だったが、途中から馬での移動に切り替えた。目的地まで海路を使うのが最短距離だが、追手のことを考え、陸路の後、海路に切り替える予定だ。
普通、貴族のご令嬢は馬に一人で乗ることはできない。だが、三人は家の教育上、乗馬は得意だった。三人とも自分の馬を連れてきたかったのだが、それは叶わず、それぞれ信頼のおける人に託して来た。
環境の変化についていけず、衰弱するよりは慣れた土地で伸び伸び育てた方が良い。わかってはいても、小さい頃から一緒に育った相棒を失うのは辛かった。
アルフレッドは、ご令嬢が馬に乗ることができるのを特段驚いた様子はない。自身も颯爽と馬を乗りこなしていた。
ある程度進み、隣国に入り少しした頃、彼が周りを見渡しながら言うには、
「そろそろあの方から、遣いの者が来る筈なんですが、来ませんね……」
咄嗟に辺りを見るも、何もなく、道が続くばかり。
「今のうちにステインの事情について話しておこうと思ったんですが。」
ローゼリアが不思議そうに尋ねる。
「何か気にしておかないと、いけないことでも?」
「ステイン公国の王家が、と言う話ではないので、その辺りは心配いりません。既に粛清は済んでおりますし、婚約や婚姻目的でこちらに近づく者はおりません。それでも、お一人だけ気をつけていただく必要が生じまして。」
歯切れ悪く、どう言えばいいか、考えあぐねているようで、言葉が弱々しくなる。
三人とも、彼の言葉を待った。
「キルステア公爵家のミア様と言う方ですが、粛清前の王家において、王太子殿下の婚約者でした。今は公爵家にて、静養なされておいでです。」
「公爵家のご令嬢?何がそんなに要注意なの?」
「要注意と言いますか、お立場としては変わらないのですが、あの方は、王太子殿下との間に愛情がおありでしたので。」
「まだ立ち直られていらっしゃらない、と?」
「ええ。こちら側の事情をわざわざ話すこともないとは思いますが……」
「配慮しろ、と言うことね。大丈夫よ。自慢することでもないし。今みたいにペラペラ話したりはしないわ。私達のこと、何だと思ってるの?」
アリーチェがアルフレッドを非難すれば、ベアトリスとローゼリアが顔を見合わせて、ホッとしている。
「ねえ、彼女と、第三王女様は仲が良いの?」
「……まあ、表面上は、ですね。」
ローゼリアが思い出したことに、アルフレッドが、真面目な顔で頷く。
アリーチェとベアトリスがローゼリアとアルフレッドを見比べて、不思議そうにしているが、こんなところで大きな声で話す内容でもないと、二人に向き合った。
「とりあえずこれから先は遣いの方が来られてからにしましょう。他国の王族の話を大声でするのは、リスクが高いわ。」
「確かにね、もう少し行けば街があるみたいだから、そこで遣いの方を待つのも良いわね。」
国境を超えてから、そういえば休憩を挟んでいなかったことに驚く。普通の貴族令嬢とは大きく乖離しているらしい。
「街に着いたら彼も休ませないと。」
アリーチェは乗っている馬を見て、目を細める。残して来た馬と同じ黒毛の馬は機嫌が良さそうに見える。
「とりあえず合流を最優先にしますが、出来たらこの国は早めに通過したいのです。追手がくるとしたら、きっと隣国までで諦める気がするので。」
諦めるかどうかはわからないが、隣国を隅々まで探すとなると、時間は稼げるだろう。
ローゼリアの調べたことが正しければ、ステイン公国は、少し前に王家の横暴に耐えかねた貴族からのクーデターがあり、粛清が行われている。国内は、今はもうそれほど荒れていない。寧ろ、圧政が緩和され、平和で豊かな国に徐々に変わっていっている。
他の王族は全て粛清されたものの、第三王女だけがその能力から生き残り、次代の女王とされた。
粛清された王太子とは仲が良くもなく、その婚約者ともあまり交流はなかったようだ。王太子の罪が明らかになる前に、彼女は婚約破棄を告げられ、粛清の憂き目に遭わずに済んだ。
そのタイミングがピッタリすぎて、王女は、公爵令嬢が兄を嵌めたのだと思っているらしかった。
公爵令嬢からしたら、突如湧きあがった婚約破棄の話は自分を守るための茶番だったのではないか、と毎日考えていることだろう。
街はある程度大きく、活気に溢れていた。遣いの者が来るまで少しの間待つことにしたが、一両日中に来ない場合は、先を急ぐことにして、宿を取る。
ご令嬢の各家からの護衛がいるため、彼らの指示に従い、彼女達を守る。
ご令嬢達は、馬に餌をやりながら、彼らの仕事を見守り、少しだけ息をつく。
どれだけ変装をしていても、近くに寄ると女性だとバレてしまうし、余計な争いに巻き込まれたくない。必然的に話さなくなる。
アリーチェだけ、どこから声を出しているのか少年のような声で、馬に話しかけている。話はできないものの、馬のブラッシングをしたり、餌を手付からあげて交流するローゼリアと、ベアトリス。
私達の周りに近づく者はいなかった。
だが、アルフレッドには何かしら反応があったようで、明日の朝には出発する旨を伝えて来た。
部屋は三人が同じ部屋だった。何故だかアルフレッドが恐縮していたけれど、これはこれで楽しい。貴族令嬢ならはしたない、と言われる作法も随分都合良く忘れてしまっている。
新しい国での生活に、不安が少しはあるが、大きな期待を込めて、三人でいつまでも話していたかったが、やはり疲れていたのかいつのまにか寝てしまった。
普通、貴族のご令嬢は馬に一人で乗ることはできない。だが、三人は家の教育上、乗馬は得意だった。三人とも自分の馬を連れてきたかったのだが、それは叶わず、それぞれ信頼のおける人に託して来た。
環境の変化についていけず、衰弱するよりは慣れた土地で伸び伸び育てた方が良い。わかってはいても、小さい頃から一緒に育った相棒を失うのは辛かった。
アルフレッドは、ご令嬢が馬に乗ることができるのを特段驚いた様子はない。自身も颯爽と馬を乗りこなしていた。
ある程度進み、隣国に入り少しした頃、彼が周りを見渡しながら言うには、
「そろそろあの方から、遣いの者が来る筈なんですが、来ませんね……」
咄嗟に辺りを見るも、何もなく、道が続くばかり。
「今のうちにステインの事情について話しておこうと思ったんですが。」
ローゼリアが不思議そうに尋ねる。
「何か気にしておかないと、いけないことでも?」
「ステイン公国の王家が、と言う話ではないので、その辺りは心配いりません。既に粛清は済んでおりますし、婚約や婚姻目的でこちらに近づく者はおりません。それでも、お一人だけ気をつけていただく必要が生じまして。」
歯切れ悪く、どう言えばいいか、考えあぐねているようで、言葉が弱々しくなる。
三人とも、彼の言葉を待った。
「キルステア公爵家のミア様と言う方ですが、粛清前の王家において、王太子殿下の婚約者でした。今は公爵家にて、静養なされておいでです。」
「公爵家のご令嬢?何がそんなに要注意なの?」
「要注意と言いますか、お立場としては変わらないのですが、あの方は、王太子殿下との間に愛情がおありでしたので。」
「まだ立ち直られていらっしゃらない、と?」
「ええ。こちら側の事情をわざわざ話すこともないとは思いますが……」
「配慮しろ、と言うことね。大丈夫よ。自慢することでもないし。今みたいにペラペラ話したりはしないわ。私達のこと、何だと思ってるの?」
アリーチェがアルフレッドを非難すれば、ベアトリスとローゼリアが顔を見合わせて、ホッとしている。
「ねえ、彼女と、第三王女様は仲が良いの?」
「……まあ、表面上は、ですね。」
ローゼリアが思い出したことに、アルフレッドが、真面目な顔で頷く。
アリーチェとベアトリスがローゼリアとアルフレッドを見比べて、不思議そうにしているが、こんなところで大きな声で話す内容でもないと、二人に向き合った。
「とりあえずこれから先は遣いの方が来られてからにしましょう。他国の王族の話を大声でするのは、リスクが高いわ。」
「確かにね、もう少し行けば街があるみたいだから、そこで遣いの方を待つのも良いわね。」
国境を超えてから、そういえば休憩を挟んでいなかったことに驚く。普通の貴族令嬢とは大きく乖離しているらしい。
「街に着いたら彼も休ませないと。」
アリーチェは乗っている馬を見て、目を細める。残して来た馬と同じ黒毛の馬は機嫌が良さそうに見える。
「とりあえず合流を最優先にしますが、出来たらこの国は早めに通過したいのです。追手がくるとしたら、きっと隣国までで諦める気がするので。」
諦めるかどうかはわからないが、隣国を隅々まで探すとなると、時間は稼げるだろう。
ローゼリアの調べたことが正しければ、ステイン公国は、少し前に王家の横暴に耐えかねた貴族からのクーデターがあり、粛清が行われている。国内は、今はもうそれほど荒れていない。寧ろ、圧政が緩和され、平和で豊かな国に徐々に変わっていっている。
他の王族は全て粛清されたものの、第三王女だけがその能力から生き残り、次代の女王とされた。
粛清された王太子とは仲が良くもなく、その婚約者ともあまり交流はなかったようだ。王太子の罪が明らかになる前に、彼女は婚約破棄を告げられ、粛清の憂き目に遭わずに済んだ。
そのタイミングがピッタリすぎて、王女は、公爵令嬢が兄を嵌めたのだと思っているらしかった。
公爵令嬢からしたら、突如湧きあがった婚約破棄の話は自分を守るための茶番だったのではないか、と毎日考えていることだろう。
街はある程度大きく、活気に溢れていた。遣いの者が来るまで少しの間待つことにしたが、一両日中に来ない場合は、先を急ぐことにして、宿を取る。
ご令嬢の各家からの護衛がいるため、彼らの指示に従い、彼女達を守る。
ご令嬢達は、馬に餌をやりながら、彼らの仕事を見守り、少しだけ息をつく。
どれだけ変装をしていても、近くに寄ると女性だとバレてしまうし、余計な争いに巻き込まれたくない。必然的に話さなくなる。
アリーチェだけ、どこから声を出しているのか少年のような声で、馬に話しかけている。話はできないものの、馬のブラッシングをしたり、餌を手付からあげて交流するローゼリアと、ベアトリス。
私達の周りに近づく者はいなかった。
だが、アルフレッドには何かしら反応があったようで、明日の朝には出発する旨を伝えて来た。
部屋は三人が同じ部屋だった。何故だかアルフレッドが恐縮していたけれど、これはこれで楽しい。貴族令嬢ならはしたない、と言われる作法も随分都合良く忘れてしまっている。
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