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嫌な瞳に映る物
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ベアトリスの了承を得るとすぐさま動けるように手配したのはアリーチェだ。本来側妃などで収まる器ではない。知り合う前までは単に活発なご令嬢だと思い込んでいた。第一王子の婚約者候補になってから得られたものは何もない、と思っていたが、それは大きな間違いだ。
神様は、私達に彼女達との友情を与えてくれたのだと思うようになっていた。
ベアトリスの恋する乙女のような状態を羨ましくも、自分がそのような状況に陥ることはまずない、とローゼリアは思う。
今まで素敵だと思う人もいなければ、忘れられない人もいない。貴族に生まれた以上結婚自体に夢を見ることもない。
それについこの間まで、人生の筋道は決まっていた。ベアトリス様を支えながら、国を守る為に。
思えば、それだけだった。ローゼリアには、何もない。
アリーチェには才があり、ベアトリスには愛がある。身分的に間に挟まれただけの、自分。ローゼリアは自分の性格の癖に気がつくと、頭を振る。そしてゆっくりと深呼吸をする。ベアトリスとアリーチェの側にいる間は、あまり意識しないのだが、本来のローゼリアの性格は、神経質で内向的。自分にあまり自信がないタイプ。
王宮内ではそれでも、助けてくれる仲間がいたものだが、国外に出るとなると、これからは個人の資質が物を言う。
どうしても、ベアトリスやアリーチェと比べて、己を小さく感じてしまう。そんなことをしても意味はないと言うのに。
婚約者候補である第一王子は、卑小な存在で、彼を支える、と言うよりは、この人より自分はマシである、と思いたかったのかもしれない。
第一王子が自分に一途になってくれない、と嘆く前に自分だって、彼を下に見ていたのだから、お互い様だ。
侯爵家からの護衛と合流する。見知った顔を見ると肩の力が抜けた。
「ローゼリアお嬢様。よくぞご無事で。」
小さい頃から、ずっと変わらない護衛の安心した顔に、少し申し訳なく思うのは、彼に祖国を捨てさせてしまったこと。
「貴方にも苦労をかけてしまうわね。」
「何を仰っているんですか。置いていかれたら、それこそ悲しいですよ!私は生涯、お嬢様をお守りするために生きているのですから。」
ガハガハと、豪快に笑いながら、ローゼリアに近づいてくる彼は、兄と乳兄弟で、私にとっては実の兄より優しく、実の兄より身近な存在だった。
彼の母親は母の専属侍女であったため、私達は家族のような距離感で、のびのびと育った。だけど、片や使用人の息子で、片や侯爵家の嫡男という身分差から、少しずつ家族と言う枠組みからははみ出すようになっていた。
ローゼリアが第一王子の側妃候補に選ばれた時、表立って反対したのは、母だけで、父も兄も特に騒ぎ立てはしなかった。
だから、ローゼリアとしては、この度の候補辞退を勝手に決めたことを叱責されると思っていた。
実際には、使用人含め、彼含め、家族全員が喜んでくれた。
王家からの打診を勝手に断ったと言うのに、親としては甘いのではないか、と少し心配になる。
後で母に聞いたところ、最初に、王家主催のお茶会に行くまで、私達三人の元には縁談が入らないように王家から制限がかかっていたそうだ。
おおよそ、最初から決まっていたようだ。
ベアトリスが、ヘンドリック様の話をした際に顔色を悪くしたのに、ローゼリアも思うことはあった。
ヘンドリック様に初めてお会いしたのは、ベアトリスよりも先だった。公爵家主催の夜会において、当時独身だったヘンドリック様の弟ファラード様の元に殺到するご令嬢の波ができていた。
次男でありながら、公爵位を継ぐファラード様に相手にされず、変わり者で有名なヘンドリック様に向かうご令嬢がいた。
見た目は美しく整った顔立ちに騙される令嬢も中には、いた。
華やかな見た目にはそぐわない、冷たい瞳に、寒気を覚えた。ただ彼には意中の人がいるように見えた。
冷たい感情のない瞳に一瞬、熱が灯った瞬間を見たからだ。ローゼリアはその時は呑気に、彼も人の子なのね、としか思っていなかった。
そのご令嬢は、その後、馬車の事故で亡くなられたと聞いた。
彼女と、ヘンドリック様の間にどんなことがあったかはわからないが、さぞや悲しんでいらっしゃるのだろうと思っていたが、確認する機会もない。彼女とも特に話したこともなかったので、それ以来忘れていたのだが。
今思うと、そのご令嬢はベアトリス様によく似ていた。顔ではなく、全体の雰囲気が近い印象を受ける。
過去には一度だけ、王妃殿下の仕事をベアトリスが手伝った時に捜査協力を願った時のこと。何故だか王妃は、ヘンドリック様に会う仕事を全てベアトリス様に任せていた。
それにより、ベアトリスからは完全に気味悪がられてしまうのだが、ローゼリアはあの時ヘンドリック様から何らかの要請があったのではないか、と勘繰っている。
ヘンドリック様のベアトリス様を見る目に既視感があった。
獲物を見つけた瞳とはよく言ったものだ。彼が動き出す前に一日も早くベアトリス様を国外に出すべきだ。
そうして、当初の予定よりも早く、国の外に出ることになった。
神様は、私達に彼女達との友情を与えてくれたのだと思うようになっていた。
ベアトリスの恋する乙女のような状態を羨ましくも、自分がそのような状況に陥ることはまずない、とローゼリアは思う。
今まで素敵だと思う人もいなければ、忘れられない人もいない。貴族に生まれた以上結婚自体に夢を見ることもない。
それについこの間まで、人生の筋道は決まっていた。ベアトリス様を支えながら、国を守る為に。
思えば、それだけだった。ローゼリアには、何もない。
アリーチェには才があり、ベアトリスには愛がある。身分的に間に挟まれただけの、自分。ローゼリアは自分の性格の癖に気がつくと、頭を振る。そしてゆっくりと深呼吸をする。ベアトリスとアリーチェの側にいる間は、あまり意識しないのだが、本来のローゼリアの性格は、神経質で内向的。自分にあまり自信がないタイプ。
王宮内ではそれでも、助けてくれる仲間がいたものだが、国外に出るとなると、これからは個人の資質が物を言う。
どうしても、ベアトリスやアリーチェと比べて、己を小さく感じてしまう。そんなことをしても意味はないと言うのに。
婚約者候補である第一王子は、卑小な存在で、彼を支える、と言うよりは、この人より自分はマシである、と思いたかったのかもしれない。
第一王子が自分に一途になってくれない、と嘆く前に自分だって、彼を下に見ていたのだから、お互い様だ。
侯爵家からの護衛と合流する。見知った顔を見ると肩の力が抜けた。
「ローゼリアお嬢様。よくぞご無事で。」
小さい頃から、ずっと変わらない護衛の安心した顔に、少し申し訳なく思うのは、彼に祖国を捨てさせてしまったこと。
「貴方にも苦労をかけてしまうわね。」
「何を仰っているんですか。置いていかれたら、それこそ悲しいですよ!私は生涯、お嬢様をお守りするために生きているのですから。」
ガハガハと、豪快に笑いながら、ローゼリアに近づいてくる彼は、兄と乳兄弟で、私にとっては実の兄より優しく、実の兄より身近な存在だった。
彼の母親は母の専属侍女であったため、私達は家族のような距離感で、のびのびと育った。だけど、片や使用人の息子で、片や侯爵家の嫡男という身分差から、少しずつ家族と言う枠組みからははみ出すようになっていた。
ローゼリアが第一王子の側妃候補に選ばれた時、表立って反対したのは、母だけで、父も兄も特に騒ぎ立てはしなかった。
だから、ローゼリアとしては、この度の候補辞退を勝手に決めたことを叱責されると思っていた。
実際には、使用人含め、彼含め、家族全員が喜んでくれた。
王家からの打診を勝手に断ったと言うのに、親としては甘いのではないか、と少し心配になる。
後で母に聞いたところ、最初に、王家主催のお茶会に行くまで、私達三人の元には縁談が入らないように王家から制限がかかっていたそうだ。
おおよそ、最初から決まっていたようだ。
ベアトリスが、ヘンドリック様の話をした際に顔色を悪くしたのに、ローゼリアも思うことはあった。
ヘンドリック様に初めてお会いしたのは、ベアトリスよりも先だった。公爵家主催の夜会において、当時独身だったヘンドリック様の弟ファラード様の元に殺到するご令嬢の波ができていた。
次男でありながら、公爵位を継ぐファラード様に相手にされず、変わり者で有名なヘンドリック様に向かうご令嬢がいた。
見た目は美しく整った顔立ちに騙される令嬢も中には、いた。
華やかな見た目にはそぐわない、冷たい瞳に、寒気を覚えた。ただ彼には意中の人がいるように見えた。
冷たい感情のない瞳に一瞬、熱が灯った瞬間を見たからだ。ローゼリアはその時は呑気に、彼も人の子なのね、としか思っていなかった。
そのご令嬢は、その後、馬車の事故で亡くなられたと聞いた。
彼女と、ヘンドリック様の間にどんなことがあったかはわからないが、さぞや悲しんでいらっしゃるのだろうと思っていたが、確認する機会もない。彼女とも特に話したこともなかったので、それ以来忘れていたのだが。
今思うと、そのご令嬢はベアトリス様によく似ていた。顔ではなく、全体の雰囲気が近い印象を受ける。
過去には一度だけ、王妃殿下の仕事をベアトリスが手伝った時に捜査協力を願った時のこと。何故だか王妃は、ヘンドリック様に会う仕事を全てベアトリス様に任せていた。
それにより、ベアトリスからは完全に気味悪がられてしまうのだが、ローゼリアはあの時ヘンドリック様から何らかの要請があったのではないか、と勘繰っている。
ヘンドリック様のベアトリス様を見る目に既視感があった。
獲物を見つけた瞳とはよく言ったものだ。彼が動き出す前に一日も早くベアトリス様を国外に出すべきだ。
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