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それならば、王太子は
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何も立場が決まっている人達だけが、邪魔者ではない。婚約者候補になってから、それを痛いぐらいに身を持って知っているベアトリスは、王家の行く先を悲観する。
戦友とも親友とも呼べるローゼリア、アリーチェ共々、このタイミングで離脱できたことは感謝しなくてはならない。
陛下から一旦の了承を得た三人と後一人はその足で国外に逃れたかったが、あまりにも準備が足りない為、一度身を隠すことにした。
協力者は、各家と、宰相一家。宰相の正体は、やはり別人だった。本物の宰相はギックリ腰のため、宰相の甥にあたる人物が、フリをして、身代わりを務めていた。
軽い変装を解くと、別人が現れたのだから、予想はしていても、かなり驚いた。
ペリペリと何でもないように付け髭をとり、鬘とお腹の詰め物を取ると、顔は確かに宰相に似てる気もするが、別人だ。
笑顔が胡散臭く見えるが、こちらがそう思っていることは知られている気がする。
彼は、アルフレッドと言い、自ら私達の警護をしてくれるらしい。彼は侯爵家の次男で、頭脳だけでなく、剣の才能もあるらしい。
いわば、一種の賭けだった、と彼は白状した。
「少し前に、第一王子が王太子となった際に側近になってくれないか、と打診があったんです。伯父の腰が悲鳴を上げた時に、チャンスだと身代わりを引き受けたのですが。
昔は神童などと言われていたと言うので、随分期待して行ってみれば……あの、まあ。」
その先は、言わなくてもわかります、はい。
「その、王子の残念さを思い知らされて、じゃあ、どうしてこんなに仕事がスムーズに滞りなく済んでいるのか、と見ていたところ、御三方がいらっしゃった次第で。
元々は、王妃様がお一人でされていたことを御三方で分けてらっしゃったようで、その出来の良さに驚いて、あとはもうずっと尊敬しかなく……」
「王妃様の仕事の仕方に文句を言うわけではないけれど、全てご自身でされていたからか、よくわからないことが多かったのよね。やり方が誰が見ても、わかるとかではなくて。忙しいのをわかっているのに、いちいち聞かなくてはならなくて、それが申し訳なくって。
三人で同じだけやるようになった時にシステムを変えてみたんです。誰がやっても、やり方がわかって、誰がやっても同じ結果になるように。これなら、誰かが休んでも補えるでしょう?」
最初の頃は、王妃様に叱られながら、必死にやり方を考えていた。年々大変になる王妃教育に、我儘になる王子に増えていく仕事。
楽をしたければ、今頭を使うしかない。
「貴女方がなされていることの、一つでも王子ができることはないでしょうね。」
その場にいた全員が頷く。
今頃、残してきた仕事を文官や、女官が手分けしてやってくれているのだろう。マニュアルを置いてきたから、それを見てくれていると良いのだけれど。
「第一王子が立太子することは、なくなったと思われます。今後、男爵令嬢が高位貴族の養子などになり、そこから輿入れすることがあっても、多分もうならない、と思うのです。」
「そうよね。男爵令嬢の出来が物凄く良かったとしても、仕事の仕方も分からずに遊んでばかりいる王子をそんな重要な地位に立たせるわけないもの。」
アリーチェはそう断言するが、陛下も王妃様も、わかっていて放置していたのよね。
ふと、ローゼリアが可笑しそうにベアトリスを見る。
「あら、ベアトリス様。ピンと来てないみたいよ。」
「第一王子が立太子なさらなければ、他には誰だと言うの?第二王子はまだ幼いし。陛下はまだお元気だけど、王妃殿下はもう早く引退したい筈よ。第二王子ならあと最低でも十年は、頑張って貰わないといけなくなるわ。」
第二王子を産んでから、早く疲れるようになった王妃が、あと十年も公務を行うなんて、王妃大好きな陛下が許可する筈ない。
「あら、そこまでわかっていて、まだ目星がついていないの?いるじゃない?王位継承権の順に思い浮かんだ人で、すぐにでも王になれる人。」
王位継承権の順?
「…………」
「ベアトリス様って、たまに頭が働かなくなる時、あるわよね。」
ローゼリアが、ポツリと呟く。確かに、考えるのが面倒な時はそうですね。
「もしかして、ヘンドリック様のことを言ってる?」
「例えば、第二王子が成人するまでの少しの間だけ、王位を継ぐのならば、一番可能性があるのではないかしら。」
ローゼリアもアリーチェも、平然としているが、よく考えてみたら、彼は、彼だけは駄目だ。
ヘンドリック・ブラウアーと言う人は、王弟殿下の息子で、長男ではあるが爵位を継いでいない。公爵位は、次男のファラード様が継ぐ。長男でありながら、公爵位を継がなかった理由は、研究者として人生を全うしたいと言うただの我儘だった。
研究者として、医学、薬草学、薬学に精通しており、王宮で研究ばかりしている。
以前、辺境の伯爵領内で、新しい麻薬が蔓延りそうになった際に、調査を手伝ってもらったことがあり、彼ならば、国王となっても、公務の面では、不便はないように感じた。
「ご本人は公爵位すら、邪魔だと蹴ったのよ。それよりも大変な王位なんて、受けるかしら。」
ベアトリスは研究を嬉々として行う彼の姿を思い出す。
「あの陛下に頼まれたら、断われると思う?」
まあ、確かに無理だろうな。
はあ、とため息をついて、頭を振る。
「でも、あの方は……色々危ないじゃない。私なら、彼が国王になるなら、二度と帰らないわ。」
戦友とも親友とも呼べるローゼリア、アリーチェ共々、このタイミングで離脱できたことは感謝しなくてはならない。
陛下から一旦の了承を得た三人と後一人はその足で国外に逃れたかったが、あまりにも準備が足りない為、一度身を隠すことにした。
協力者は、各家と、宰相一家。宰相の正体は、やはり別人だった。本物の宰相はギックリ腰のため、宰相の甥にあたる人物が、フリをして、身代わりを務めていた。
軽い変装を解くと、別人が現れたのだから、予想はしていても、かなり驚いた。
ペリペリと何でもないように付け髭をとり、鬘とお腹の詰め物を取ると、顔は確かに宰相に似てる気もするが、別人だ。
笑顔が胡散臭く見えるが、こちらがそう思っていることは知られている気がする。
彼は、アルフレッドと言い、自ら私達の警護をしてくれるらしい。彼は侯爵家の次男で、頭脳だけでなく、剣の才能もあるらしい。
いわば、一種の賭けだった、と彼は白状した。
「少し前に、第一王子が王太子となった際に側近になってくれないか、と打診があったんです。伯父の腰が悲鳴を上げた時に、チャンスだと身代わりを引き受けたのですが。
昔は神童などと言われていたと言うので、随分期待して行ってみれば……あの、まあ。」
その先は、言わなくてもわかります、はい。
「その、王子の残念さを思い知らされて、じゃあ、どうしてこんなに仕事がスムーズに滞りなく済んでいるのか、と見ていたところ、御三方がいらっしゃった次第で。
元々は、王妃様がお一人でされていたことを御三方で分けてらっしゃったようで、その出来の良さに驚いて、あとはもうずっと尊敬しかなく……」
「王妃様の仕事の仕方に文句を言うわけではないけれど、全てご自身でされていたからか、よくわからないことが多かったのよね。やり方が誰が見ても、わかるとかではなくて。忙しいのをわかっているのに、いちいち聞かなくてはならなくて、それが申し訳なくって。
三人で同じだけやるようになった時にシステムを変えてみたんです。誰がやっても、やり方がわかって、誰がやっても同じ結果になるように。これなら、誰かが休んでも補えるでしょう?」
最初の頃は、王妃様に叱られながら、必死にやり方を考えていた。年々大変になる王妃教育に、我儘になる王子に増えていく仕事。
楽をしたければ、今頭を使うしかない。
「貴女方がなされていることの、一つでも王子ができることはないでしょうね。」
その場にいた全員が頷く。
今頃、残してきた仕事を文官や、女官が手分けしてやってくれているのだろう。マニュアルを置いてきたから、それを見てくれていると良いのだけれど。
「第一王子が立太子することは、なくなったと思われます。今後、男爵令嬢が高位貴族の養子などになり、そこから輿入れすることがあっても、多分もうならない、と思うのです。」
「そうよね。男爵令嬢の出来が物凄く良かったとしても、仕事の仕方も分からずに遊んでばかりいる王子をそんな重要な地位に立たせるわけないもの。」
アリーチェはそう断言するが、陛下も王妃様も、わかっていて放置していたのよね。
ふと、ローゼリアが可笑しそうにベアトリスを見る。
「あら、ベアトリス様。ピンと来てないみたいよ。」
「第一王子が立太子なさらなければ、他には誰だと言うの?第二王子はまだ幼いし。陛下はまだお元気だけど、王妃殿下はもう早く引退したい筈よ。第二王子ならあと最低でも十年は、頑張って貰わないといけなくなるわ。」
第二王子を産んでから、早く疲れるようになった王妃が、あと十年も公務を行うなんて、王妃大好きな陛下が許可する筈ない。
「あら、そこまでわかっていて、まだ目星がついていないの?いるじゃない?王位継承権の順に思い浮かんだ人で、すぐにでも王になれる人。」
王位継承権の順?
「…………」
「ベアトリス様って、たまに頭が働かなくなる時、あるわよね。」
ローゼリアが、ポツリと呟く。確かに、考えるのが面倒な時はそうですね。
「もしかして、ヘンドリック様のことを言ってる?」
「例えば、第二王子が成人するまでの少しの間だけ、王位を継ぐのならば、一番可能性があるのではないかしら。」
ローゼリアもアリーチェも、平然としているが、よく考えてみたら、彼は、彼だけは駄目だ。
ヘンドリック・ブラウアーと言う人は、王弟殿下の息子で、長男ではあるが爵位を継いでいない。公爵位は、次男のファラード様が継ぐ。長男でありながら、公爵位を継がなかった理由は、研究者として人生を全うしたいと言うただの我儘だった。
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以前、辺境の伯爵領内で、新しい麻薬が蔓延りそうになった際に、調査を手伝ってもらったことがあり、彼ならば、国王となっても、公務の面では、不便はないように感じた。
「ご本人は公爵位すら、邪魔だと蹴ったのよ。それよりも大変な王位なんて、受けるかしら。」
ベアトリスは研究を嬉々として行う彼の姿を思い出す。
「あの陛下に頼まれたら、断われると思う?」
まあ、確かに無理だろうな。
はあ、とため息をついて、頭を振る。
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