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綻びは小さくても
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側妃候補者の中で王妃教育が始まってもいない人物は二人いる。新参の男爵令嬢とは別に二年の間、病弱だと、言い続け義務から目を逸らし続けた伯爵令嬢オーブリー。
彼女が実際には病気でないことは周知されている。何故だか、王子エリオスと、オーブリーは、病弱設定を信じ切っているが。
いつも動かないから歩いた時には立ちくらみが起こり、いつも動かないから動いたあと、体が怠くなる。ただの運動不足でしかない現象を都合よく理解して、病気だと言い張るので、馬鹿らしいと思いながら、面倒で大目に見ていたに過ぎない。
彼女は、身分に弱く、ベアトリスやローゼリアの言うことには表面上聞くふりをするが、アリーチェには対等だと思っているのか、反抗的だった。
オーブリーは、ベアトリスら三人が婚約者候補を外れることを嬉しく思った。口うるさい三人がいなくなれば、自分が我慢することが減り、しかも後釜は自分よりも身分の低い男爵令嬢。王妃の座は勝手にやればいいが、自らは唯一の側妃になれる。
「公務をするか、子を成すか、貴女は何が出来るのかしら。」
初めて王妃様に御目通りした際に言われた言葉。
「勿論、どちらも身体が丈夫になれば可能です。」
その時、王妃様はそれ以上何も言わなかった。王子は、ゆっくり体を治すことを一番に考えて、と言ってくれた。
けれど、既に公務なら三人に任せておけば、いいのでは?
何なら、王子だって、何もしない方が良いレベルだ。
王妃教育が始まっても、先の三人と比べられる。あんな才女と、落ちこぼれを比べないでほしい。
何より、そもそも生まれてこの方、努力なんてしたことがない。はじめてのお茶会で失敗し、兄に疎まれて、領地に閉じ込められてからは、年頃になっても夜会にさえ出して貰えず、華やかなドレスもアクセサリーも買って貰えず、虐げられてきた。
王子が偶々訪れた先で知り合い、側妃として攫って来てくれたから、今この場所にいる。
王子は私にとって、救世主だから、王子が例え真実の愛を見つけたとしても、私は王子に言われるまでは側にいるつもりだ。
しかも、三人もいなくなるなら、後宮の予算はその分、一人に使える金額が増えるのでは?最近は特に口うるさく無駄遣いを嗜められていたせいで、王子が何も与えてくれなくて困っていた。
オーブリーは、閉じ込められていた間、ずっと兄の機嫌を取るように顔色を窺っていた。兄だけでなく、使用人からも虐げられていた。閉じ込められて、監視された生活から一変、好きなようにしていいと、豪華な生活が始まったのだから、この生活を手放すことなんて、考えなかった。
兄の時は失敗した。王妃様も気になるが、一番はやはり王子様よね。彼の顔色さえ気をつけていれば、楽に過ごせるのだから、嫌われないようにしよう。
王子は兄とは違い、単純だ。甘えて、頼って、縋ればまだこちらを見てくれる。難しいことは男爵令嬢に任せておけば良いと、開き直ることにした。
オーブリーの生家は、代替わりがあって、オーブリーの兄が伯爵家を継いでいた。
彼は、妹のオーブリーを嫌ってはいないが、哀れには思っていた。生まれる家を選ぶことはできない。環境だって、人がどうにか出来ることと、出来ないこととがある。
だから、妹の初めての茶会の前に、伯爵領が水害に見舞われて、困窮したことで、彼女の為のドレスやアクセサリーを揃えてあげられなかったり、彼女の望みを聞く余裕がなかったことも、仕方なかったことだ。
だが、妹がした事は、そういった事情とはまた別の、してはいけないことだった。
実はその時、その騒動を知らず、収めてくれたご令嬢がいるのだが、それが紛れもないベアトリス嬢で、その頃からオーブリーの兄は、彼女に頭が上がらない。
ただ一方で、返す宛のない恩ばかりが積み上がることに焦っていたのも事実。だからこそ、今回こうして頼ってきて貰えたことは今までの恩を返す足掛かりとしては最適だった。
ベアトリスの口から、計画を聞いた時は言葉を無くした。しかし、同時に納得するものがあり、協力を申し出た。
今の王子が王太子に相応しいとは思えない。あんな横暴が罷り通るなら、若くて美しい女性は皆彼の女になってしまう。
そもそも今の状態を王妃はどう思っているのかわからない。
今まではベアトリスらに妹のことを任せっきりになっていたが、妹の性分からして、自力で生きていこうとはしないだろう。となれば、娘を売り込んでくみしやすい王子を傀儡として動かそうとする不届き者も出てくる筈。
今でこそ、その男爵令嬢が、その可能性に満ちている。蚊帳の外からの方が自由に動ける時もある。
「妹さんの様子を見に行ってあげて。貴方が来るとなると、少し精神的に負荷がかかると思うのよ。彼女の悪い癖が再発するきっかけになるんじゃないかしら。」
ベアトリスらの手によって、少し前から、オーブリーにこれ以上豪華な贈り物は届かないようになっている。
オーブリーは実兄が苦手だし、前も同じような状況で手癖の悪さを露見したのだから、真実の愛の妨げに悪役令嬢になってもらおう。
既に仕込みは済んでいる。綻びは最初は小さくても、最後には驚くほど大きくなっているもの。
ベアトリスはアリーチェの為にもオーブリーにも責任を取って貰いたかった。
一人だけ無事だとは思わないことね。
ベアトリスは久々に気分が高揚した。候補を辞めてからずっと楽しい。自分は思っていた以上に性格が悪いということに気づけたのもまあ、良かったと思うことにした。
それにしても、側妃や愛妾だけなら所詮は貴族令嬢でしかないのだから可愛いもの。王宮内にいて、一番の敵が誰だか分かっていないお嬢様に何ができるのか。王子が使えると思っているなら、残念でしかないわ。
ベアトリスは頬が緩むのを抑えきれないでいた。
彼女が実際には病気でないことは周知されている。何故だか、王子エリオスと、オーブリーは、病弱設定を信じ切っているが。
いつも動かないから歩いた時には立ちくらみが起こり、いつも動かないから動いたあと、体が怠くなる。ただの運動不足でしかない現象を都合よく理解して、病気だと言い張るので、馬鹿らしいと思いながら、面倒で大目に見ていたに過ぎない。
彼女は、身分に弱く、ベアトリスやローゼリアの言うことには表面上聞くふりをするが、アリーチェには対等だと思っているのか、反抗的だった。
オーブリーは、ベアトリスら三人が婚約者候補を外れることを嬉しく思った。口うるさい三人がいなくなれば、自分が我慢することが減り、しかも後釜は自分よりも身分の低い男爵令嬢。王妃の座は勝手にやればいいが、自らは唯一の側妃になれる。
「公務をするか、子を成すか、貴女は何が出来るのかしら。」
初めて王妃様に御目通りした際に言われた言葉。
「勿論、どちらも身体が丈夫になれば可能です。」
その時、王妃様はそれ以上何も言わなかった。王子は、ゆっくり体を治すことを一番に考えて、と言ってくれた。
けれど、既に公務なら三人に任せておけば、いいのでは?
何なら、王子だって、何もしない方が良いレベルだ。
王妃教育が始まっても、先の三人と比べられる。あんな才女と、落ちこぼれを比べないでほしい。
何より、そもそも生まれてこの方、努力なんてしたことがない。はじめてのお茶会で失敗し、兄に疎まれて、領地に閉じ込められてからは、年頃になっても夜会にさえ出して貰えず、華やかなドレスもアクセサリーも買って貰えず、虐げられてきた。
王子が偶々訪れた先で知り合い、側妃として攫って来てくれたから、今この場所にいる。
王子は私にとって、救世主だから、王子が例え真実の愛を見つけたとしても、私は王子に言われるまでは側にいるつもりだ。
しかも、三人もいなくなるなら、後宮の予算はその分、一人に使える金額が増えるのでは?最近は特に口うるさく無駄遣いを嗜められていたせいで、王子が何も与えてくれなくて困っていた。
オーブリーは、閉じ込められていた間、ずっと兄の機嫌を取るように顔色を窺っていた。兄だけでなく、使用人からも虐げられていた。閉じ込められて、監視された生活から一変、好きなようにしていいと、豪華な生活が始まったのだから、この生活を手放すことなんて、考えなかった。
兄の時は失敗した。王妃様も気になるが、一番はやはり王子様よね。彼の顔色さえ気をつけていれば、楽に過ごせるのだから、嫌われないようにしよう。
王子は兄とは違い、単純だ。甘えて、頼って、縋ればまだこちらを見てくれる。難しいことは男爵令嬢に任せておけば良いと、開き直ることにした。
オーブリーの生家は、代替わりがあって、オーブリーの兄が伯爵家を継いでいた。
彼は、妹のオーブリーを嫌ってはいないが、哀れには思っていた。生まれる家を選ぶことはできない。環境だって、人がどうにか出来ることと、出来ないこととがある。
だから、妹の初めての茶会の前に、伯爵領が水害に見舞われて、困窮したことで、彼女の為のドレスやアクセサリーを揃えてあげられなかったり、彼女の望みを聞く余裕がなかったことも、仕方なかったことだ。
だが、妹がした事は、そういった事情とはまた別の、してはいけないことだった。
実はその時、その騒動を知らず、収めてくれたご令嬢がいるのだが、それが紛れもないベアトリス嬢で、その頃からオーブリーの兄は、彼女に頭が上がらない。
ただ一方で、返す宛のない恩ばかりが積み上がることに焦っていたのも事実。だからこそ、今回こうして頼ってきて貰えたことは今までの恩を返す足掛かりとしては最適だった。
ベアトリスの口から、計画を聞いた時は言葉を無くした。しかし、同時に納得するものがあり、協力を申し出た。
今の王子が王太子に相応しいとは思えない。あんな横暴が罷り通るなら、若くて美しい女性は皆彼の女になってしまう。
そもそも今の状態を王妃はどう思っているのかわからない。
今まではベアトリスらに妹のことを任せっきりになっていたが、妹の性分からして、自力で生きていこうとはしないだろう。となれば、娘を売り込んでくみしやすい王子を傀儡として動かそうとする不届き者も出てくる筈。
今でこそ、その男爵令嬢が、その可能性に満ちている。蚊帳の外からの方が自由に動ける時もある。
「妹さんの様子を見に行ってあげて。貴方が来るとなると、少し精神的に負荷がかかると思うのよ。彼女の悪い癖が再発するきっかけになるんじゃないかしら。」
ベアトリスらの手によって、少し前から、オーブリーにこれ以上豪華な贈り物は届かないようになっている。
オーブリーは実兄が苦手だし、前も同じような状況で手癖の悪さを露見したのだから、真実の愛の妨げに悪役令嬢になってもらおう。
既に仕込みは済んでいる。綻びは最初は小さくても、最後には驚くほど大きくなっているもの。
ベアトリスはアリーチェの為にもオーブリーにも責任を取って貰いたかった。
一人だけ無事だとは思わないことね。
ベアトリスは久々に気分が高揚した。候補を辞めてからずっと楽しい。自分は思っていた以上に性格が悪いということに気づけたのもまあ、良かったと思うことにした。
それにしても、側妃や愛妾だけなら所詮は貴族令嬢でしかないのだから可愛いもの。王宮内にいて、一番の敵が誰だか分かっていないお嬢様に何ができるのか。王子が使えると思っているなら、残念でしかないわ。
ベアトリスは頬が緩むのを抑えきれないでいた。
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