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残念な詐欺師
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ミシェル・カノン子爵令嬢は子爵の娘ではありませんでした。彼女が思い込んでいたように私の父の娘でもありません。彼女の父親が誰かは分からずじまいです。
ミシェル嬢が私に何かと突っかかってきていたのは自分の実父が私の父だと思い込み、裕福に暮らしている私を妬んでのことだったそうです。
カノン子爵は彼女の母親を愛していましたが、詐欺で捕らえられた際に親子鑑定をするぐらいには疑いを持っておられた様でした。結局、彼女は子爵家の乗っ取りを企んだ罪人として、詐欺の余罪も含め、罰せられることになりました。彼女の母親は、一応貴族令嬢ではありましたが、屋敷に出入りしていた商人に騙され付け込まれて、傷物になってしまった可哀想な人でした。
彼女を騙した商人ではありませんが、見た目の優しげな父に懸想した彼女が、どこかの馬の骨との間の子を父との間の子に脳内変換するしかなかったことはある意味仕方なかったのかもしれません。
私の父はその見た目から、貴族令嬢に言い寄られることは多かったようですが、今も昔も母一筋で、私以外に知らない兄弟姉妹はいません。
平民でありながら裕福で恵まれた生活の私を、貴族令嬢ではあってもギリギリの生活をなさる彼女(それも元はといえば彼女の所為です。)が羨むのも仕方ない事なのでしょう。
カノン子爵はご自身が騙された被害者であっても、平民となられて誠実に働いています。彼はその人の良い性格につけ込まれて貧乏くじを引いただけでした。
因みにミシェル嬢の母親もミシェル嬢と同じく罪人となりましたが、今は修道院に入っています。夫と娘の親子鑑定を見た直後から、彼女の心は壊れていました。どうやらトラウマを思い出してしまったのかもしれません。
不幸な両親の姿を見てもミシェル嬢の憎しみは私にありました。全てを私の所為になさるのはただの八つ当たりです。貴族の間のことなど、平民がどうする事もできる訳がないではないですか。
彼女は束の間の夢を楽しみました。自分が父の娘となった夢は無惨にも砕かれてしまいました。だけどこれからは、自分の実父が平民や子爵より身分のある人かも知れないと夢を見ることができるのです。
私は憎しみを向けてこられる彼女にある提案をします。ずっと人を恨むことは疲れますから彼女にとっても、いい行いだと信じているのですけど、どう思われますか?
「貴女、本当に良い性格をしてるわ。」
マリアンヌ様には褒められました。
だって、実父が誰かなんて誰にもわかりませんもの。
結局勝つのは、実家の権力だと、マリアンヌ様は仰いました。それには同意しかありません。ただ、私はそれに思い込みの強さを追加したいのです。
だって、いまだにミシェル嬢は生きています。私が彼女に夢を与えてから、彼女はいつか自分の実父が助けに来てくれる、と信じて元気に過ごしているのですから。
ただ残念なことに、彼女は自分が行った罪について反省することはありませんでした。彼女の中では理不尽な罰を受けさせられた不遇な自分を実父が助け出し、それまで自分を虐げていた人への報復をする、というところまでがお約束なようです。
物語の中では割とよくある話ですが、あれは物語であって現実ではありません。彼女はいつか気づくのでしょうか。私が彼女の実父を探してなどいなかったことに。ええ、私は彼女に罪を償わせたくて、嘘をついたのです。
「貴女の父君はきっと貴女を助けにきてくださるわ。今はすぐに動くことのできない身分でも愛する貴女の為に、どうにか都合をつけて会いに来てくださる筈よ。」
彼女の目は輝いて、私はこの嘘が彼女に受け入れられたことを知りました。
私は彼女の実父を知りません。貴族令嬢を騙して捕らえられた平民の男が彼女によく似た顔をしていたことしか知りません。確か彼はずっと前に処刑されています。貴族令嬢を害しておいて、何のお咎めもない筈はありません。
平民の命は貴族より儚いのです。
ミシェル嬢が私に何かと突っかかってきていたのは自分の実父が私の父だと思い込み、裕福に暮らしている私を妬んでのことだったそうです。
カノン子爵は彼女の母親を愛していましたが、詐欺で捕らえられた際に親子鑑定をするぐらいには疑いを持っておられた様でした。結局、彼女は子爵家の乗っ取りを企んだ罪人として、詐欺の余罪も含め、罰せられることになりました。彼女の母親は、一応貴族令嬢ではありましたが、屋敷に出入りしていた商人に騙され付け込まれて、傷物になってしまった可哀想な人でした。
彼女を騙した商人ではありませんが、見た目の優しげな父に懸想した彼女が、どこかの馬の骨との間の子を父との間の子に脳内変換するしかなかったことはある意味仕方なかったのかもしれません。
私の父はその見た目から、貴族令嬢に言い寄られることは多かったようですが、今も昔も母一筋で、私以外に知らない兄弟姉妹はいません。
平民でありながら裕福で恵まれた生活の私を、貴族令嬢ではあってもギリギリの生活をなさる彼女(それも元はといえば彼女の所為です。)が羨むのも仕方ない事なのでしょう。
カノン子爵はご自身が騙された被害者であっても、平民となられて誠実に働いています。彼はその人の良い性格につけ込まれて貧乏くじを引いただけでした。
因みにミシェル嬢の母親もミシェル嬢と同じく罪人となりましたが、今は修道院に入っています。夫と娘の親子鑑定を見た直後から、彼女の心は壊れていました。どうやらトラウマを思い出してしまったのかもしれません。
不幸な両親の姿を見てもミシェル嬢の憎しみは私にありました。全てを私の所為になさるのはただの八つ当たりです。貴族の間のことなど、平民がどうする事もできる訳がないではないですか。
彼女は束の間の夢を楽しみました。自分が父の娘となった夢は無惨にも砕かれてしまいました。だけどこれからは、自分の実父が平民や子爵より身分のある人かも知れないと夢を見ることができるのです。
私は憎しみを向けてこられる彼女にある提案をします。ずっと人を恨むことは疲れますから彼女にとっても、いい行いだと信じているのですけど、どう思われますか?
「貴女、本当に良い性格をしてるわ。」
マリアンヌ様には褒められました。
だって、実父が誰かなんて誰にもわかりませんもの。
結局勝つのは、実家の権力だと、マリアンヌ様は仰いました。それには同意しかありません。ただ、私はそれに思い込みの強さを追加したいのです。
だって、いまだにミシェル嬢は生きています。私が彼女に夢を与えてから、彼女はいつか自分の実父が助けに来てくれる、と信じて元気に過ごしているのですから。
ただ残念なことに、彼女は自分が行った罪について反省することはありませんでした。彼女の中では理不尽な罰を受けさせられた不遇な自分を実父が助け出し、それまで自分を虐げていた人への報復をする、というところまでがお約束なようです。
物語の中では割とよくある話ですが、あれは物語であって現実ではありません。彼女はいつか気づくのでしょうか。私が彼女の実父を探してなどいなかったことに。ええ、私は彼女に罪を償わせたくて、嘘をついたのです。
「貴女の父君はきっと貴女を助けにきてくださるわ。今はすぐに動くことのできない身分でも愛する貴女の為に、どうにか都合をつけて会いに来てくださる筈よ。」
彼女の目は輝いて、私はこの嘘が彼女に受け入れられたことを知りました。
私は彼女の実父を知りません。貴族令嬢を騙して捕らえられた平民の男が彼女によく似た顔をしていたことしか知りません。確か彼はずっと前に処刑されています。貴族令嬢を害しておいて、何のお咎めもない筈はありません。
平民の命は貴族より儚いのです。
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