親が決めた婚約者ですから

mios

文字の大きさ
上 下
16 / 22

当事者④

しおりを挟む
あの時、というのはいつのことだ?リチャードはそんなことを考えながら夢の中にいた。リチャードを取り囲む人の中には多分あのアーサーがおり、忙しく人に何かを告げている。リチャードは高いところにいて、そのことを聞いていた。

はて?自分の身体はそこにあるというのに、これはどういう現象だろう。

悩んでいる間にも場面は変わる。アーサーの声が頭に響くように聞こえるようになって、気がつけば自分の意識は身体に戻っていた。

「目が覚めましたか。」

リチャードを覗き込んでいたのはアーサー殿ではなく、アルマ嬢だった。

「アルマ嬢。今アーサー殿が……」

何を話すつもりで口を開けたのかさっぱりわからない。だが、意図を汲み取りアルマ嬢は経緯を話してくれた。

突然倒れたリチャードを運んでくれたのはアーサー殿でアルマ嬢が来るまで付き添ってくれたのも彼らしい。

彼が倒れ方を見ていて、とても心配していたとアルマ嬢は言った。

「大丈夫ですか?持病とかありました?一応医師は呼んでいるので診て貰いましょう。」

入ってきた医師は初対面だと言うのに、何故か既視感があって、その所為なのかまた気持ち悪くなり、診察は早々に切り上げてもらった。促されるままに目を瞑れば、すぐに寝入ってしまう。リチャードの意識はまたもや自分の身体を離れふわふわと浮き上がった。

次にリチャードが気がついたのは、近くでアルマ嬢が話している声。やはりその場にはアーサー殿がいて、あとは聞いたことのない男性の渋い声がする。アルマ嬢の口調から親しみが感じられ、リチャードは不思議な感覚に囚われた。

『やっぱり何か後遺症があるんだわ。今までにない状況だもの。』
『いや、決めつけるのはまだ早い。何らかの攻撃によるものかも知れないだろ。』
『でも、これまでにはこんなことなかった。』
『だって、これまでとはそもそも全てが違うだろう。心配を誤認の原因にしてはいけない。』

アルマ嬢が何か思い詰めたような口調で、それを宥める謎の声。アーサー殿は冷静に二人の話に耳を傾け、話す様子で三人はリチャードが入れる間もないほどシリアスな様子で話を続けていた。

リチャードはそれを高いところからまた見て、聞いている。先程と違うのは、それからずっと彼らを見続けていたが、一向に身体に戻ることはなかったことと、三人とは別の空間に投げ出されたことを本能的に当然だと自分が理解していることだ。

リチャードは何が現実で、何が夢で何が今行われているか、を深いところではちゃんとわかっているのに、何も考えられなくなっているような状態になっていた。

まるで誰かの意思によって、頭の中を制限されているかのような感覚に、それこそが気持ち悪さの原因なのではないか、とリチャードは考え始めていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王子と令嬢の別れ話

朱音ゆうひ
恋愛
「婚約破棄しようと思うのです」 そんなありきたりなテンプレ台詞から、王子と令嬢の会話は始まった。 なろう版:https://ncode.syosetu.com/n8666iz/

嫌われ王女の婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある王都に、美しく聡明な王女がおりました。 王女は汚職にまみれた王宮の上層部の総入れ替え、異論を唱える者を次々に切り捨てる……そんな強引な方法は人々の反感を買い、気がつけば[嫌われ王女]と呼ばれるようになりました。 そんな王女の元へ異世界から、聖女が召喚されました。 これは嫌われ王女が思い悩みながらも、婚約破棄をするお話です。

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

婚約解消? 私、王女なんですけど良いのですか?

マルローネ
恋愛
ファリス・カリストロは王女殿下であり、西方地方を管理する公爵家の子息と婚約していた。 しかし、公爵令息は隣国の幼馴染と結婚する為に、王女との婚約解消を申し出たのだ。 ファリスは悲しんだが、隣国との関係強化は重要だということで、認められた。 しかし、元婚約者の公爵令息は隣国の幼馴染に騙されており……。 関係強化どころか自国に被害を出しかねない公爵令息は王家に助けを求めるも、逆に制裁を下されることになる。 ファリスについても、他国の幼馴染王子と再会し、関係性を強化していく。皮肉なことに公爵令息とは違って幸せを掴んでいくのだった。

金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。

銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」  私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。 「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」  とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。  なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。  え?どのくらいあるかって?  ──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。  とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。  しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。  将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。  どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。  私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?  あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 需要が有れば続きます。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

処理中です...