親が決めた婚約者ですから

mios

文字の大きさ
上 下
13 / 22

当事者① アルマ視点

しおりを挟む
「アルマ、聞けた?」
コンコンコン、と扉が叩かれ、返事を返していない内に開かれた先には、オーブリーの顔があった。

「王女様、返事を待ってから扉を開けないと。」
アルマの小言を聞き逃して、王女様は早く早く、と急かす。

アルマはその姿に特訓の成果が何一つ身になっていないと苦笑した。

「もう!いいじゃない。偽装なんだから。」
大きな声で喚く王女にハラハラしながらも、一応周りを見渡し、知らない者がいないことに安堵する。

「王女様!声が大きいです!」

「……ごめんなさい。って、貴女の婚約者様は此方に来られないでしょう?バレたところであの様子じゃ、理解できないわよ。」

アルマはこの傍若無人とも取れるオーブリーの天真爛漫さにこの配役を押し付けたのだけど、早まったかな、と些か後悔していた。

オーブリーは隣国の王女となっているが、実際には平民だ。いや、本当ならもう少し早いタイミングで王女を名乗る庶子が現れる筈だった。だけど、待てども待てども王女が出てこない。

これがないと、話が始まらないと言うのに。困ったアルマは、本物が出てくるまでの間、王女様のフリをしてくれる代役を用意することにした。

王女様の名前も境遇も、名乗り出た状況もましてや今後彼女が辿る人生もアルマは知っている。役者の卵に声をかけて、見つかったのがミリーという、若い役者だった。

王女様のフリをしても、あまりにも顔が違えば違和感が勝ってしまう。だから、本来のオーブリーに似た顔立ちの彼女を選んだ。

ミリーは日に日にオーブリーになっていった。簡単な礼儀作法はアルマが教えて、覚えの早い彼女はあっという間に元平民の王女様になっていた。

誤算というと、本来の話ではオーブリーは一方的に好きになり乗り込んだ辺境伯家で、アーサーという子息に嫌われてしまうのだが、ミリーの持ち前の明るさと、人懐こさに、嫌われるどころか好かれてしまったところぐらいか。

しかも、アーサーは、アルマが知る限り、考えるよりもまず動いてしまうタイプの脳筋タイプだったのに、現実には真逆の、厄介な男であった。

ニコニコしながら、アルマとオーブリーがやろうとしていることを見破り、脅迫までするのだから、タチが悪い。

「君たちに巻き込まれたからには、私だって危ない橋を渡ることになるんだ。当事者は守られているのにおかしいね。」

アルマの婚約者が当事者になるかもしれないことをどこかからの情報で知ると、リチャードを呼び寄せる。

リチャードは呼び寄せられたことすら、気づかずにノコノコと現れ、アルマはアーサーの恐ろしさに気づいた。

アルマの知識には元があるが、アーサーの知識には元がない。ただ今の状況を的確に理解する能力に優れている。本来なら辺境伯の次男に収まっているような男ではないのだが、本人がこのままで満足しているようなので、アルマはどうすることもできないでいた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

王子と令嬢の別れ話

朱音ゆうひ
恋愛
「婚約破棄しようと思うのです」 そんなありきたりなテンプレ台詞から、王子と令嬢の会話は始まった。 なろう版:https://ncode.syosetu.com/n8666iz/

嫌われ王女の婚約破棄

あみにあ
恋愛
とある王都に、美しく聡明な王女がおりました。 王女は汚職にまみれた王宮の上層部の総入れ替え、異論を唱える者を次々に切り捨てる……そんな強引な方法は人々の反感を買い、気がつけば[嫌われ王女]と呼ばれるようになりました。 そんな王女の元へ異世界から、聖女が召喚されました。 これは嫌われ王女が思い悩みながらも、婚約破棄をするお話です。

私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?

山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。

婚約解消? 私、王女なんですけど良いのですか?

マルローネ
恋愛
ファリス・カリストロは王女殿下であり、西方地方を管理する公爵家の子息と婚約していた。 しかし、公爵令息は隣国の幼馴染と結婚する為に、王女との婚約解消を申し出たのだ。 ファリスは悲しんだが、隣国との関係強化は重要だということで、認められた。 しかし、元婚約者の公爵令息は隣国の幼馴染に騙されており……。 関係強化どころか自国に被害を出しかねない公爵令息は王家に助けを求めるも、逆に制裁を下されることになる。 ファリスについても、他国の幼馴染王子と再会し、関係性を強化していく。皮肉なことに公爵令息とは違って幸せを掴んでいくのだった。

金の亡者は出て行けって、良いですけど私の物は全部持っていきますよ?え?国の財産がなくなる?それ元々私の物なんですが。

銀杏鹿
恋愛
「出て行けスミス!お前のような金のことにしか興味のない女はもううんざりだ!」  私、エヴァ・スミスはある日突然婚約者のモーケンにそう言い渡された。 「貴女のような金の亡者はこの国の恥です!」  とかいう清廉な聖女サマが新しいお相手なら、まあ仕方ないので出ていくことにしました。  なので、私の財産を全て持っていこうと思うのです。  え?どのくらいあるかって?  ──この国の全てです。この国の破綻した財政は全て私の個人資産で賄っていたので、彼らの着てる服、王宮のものも、教会のものも、所有権は私にあります。貸していただけです。  とまあ、資産を持ってさっさと国を出て海を渡ると、なんと結婚相手を探している五人の王子から求婚されてしまいました。  しきたりで、いち早く相応しい花嫁を捕まえたものが皇帝になるそうで。それで、私に。  将来のリスクと今後のキャリアを考えても、帝国の王宮は魅力的……なのですが。  どうやら五人のお相手は女性を殆ど相手したことないらしく……一体どう出てくるのか、全く予想がつきません。  私自身経験豊富というわけでもないのですが、まあ、お手並み拝見といきましょうか?  あ、なんか元いた王国は大変なことなってるらしいです、頑張って下さい。 ◆◆◆◆◆◆◆◆ 需要が有れば続きます。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

処理中です...