親が決めた婚約者ですから

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頭のおかしな少女

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「私、貴方と将来結婚するわ。」

母に連れられて来た茶会で、声をかけてきた少女はちょっと頭のおかしな子だった。

公爵子息であるリチャードに、これまでも纏わりつくご令嬢は多かった。幼少期は天使のような風貌をしていた為に、その辺のご令嬢よりも美しいと自覚していたリチャードは彼女を見て、「またか。」と思った。

その台詞は聞き慣れていたし、貴族の婚姻に政略は付き物だし、そもそも彼女に興味もなく、リチャードは特に話をするでもなく、彼女を無視した。

彼女のような人は一定数存在した。此方が何も言わないことを良いことに、茶会などで勝手に近くに陣取って、友人になったかのようなアピールをする者達。香水瓶を振り掛けたような凄い匂いをリチャードの服につけようとして、親密さをアピールしようとする者。鼻がおかしくなるし、迷惑だから、あまりにひどい場合には抗議をして貰ったりしていたが、今回もそんな類の令嬢だろうと。

「彼女は、特徴があまりなかったんだ。普通なら自分を好きになって貰いたいから自慢の髪だとか、目だとか、見てほしいところをアピールするだろう?でも……彼女は全くそんな感じはしなくて、ただリチャードと結婚した自分の話をしては不吉な予言までしていた。」

彼女を気持ち悪いと感じたのは、彼女が女神とやらを持ち出してからだ。

この世界に神はいるが、リチャードの知る神は男性だけ。女神という言葉は、あるにはあるが、信仰の対象などではなく、妻や恋人を表す言葉として存在しているだけだ。

「私は女神様に言われて、この世界をよくする為に遣わされた聖女だと、急に言い始めたんだ。言ってしまえば異教徒だ。神殿に睨まれるのはいくら公爵家でも御免だから、彼女とは距離を置こうと決めたよ。

彼女の言う女神によると、私は、近い将来、女性に騙されて地位を失ってしまうらしい。

そうならないように、自分が婚約者となってあげる、と言っていた。

そう言われてみれば、伯爵家のご令嬢として挨拶を受けたことはなかったな。彼女は自らを聖女と言い、自分を公爵家に意見を述べられる存在だと思い込んでいた。」

「それは随分と、特殊な経験をされましたね。」

アルマ嬢が聞き出したいものとはズレたのかもしれないが、リチャードは比較的上手に記憶をさらえたと満足していた。

「彼女は私と結婚すると言いながら他の子息にも声をかけていた。私はそもそも彼女と婚約する気もないのだからあまり気にしていなかったが、あんなにたくさんの男性に声をかけて、こちら側が本気になっていたら、今頃修羅場どころの騒ぎではない。」

どうやらリチャードが彼女に靡かなかったことについて、疑問を抱いているようで、面と向かって変な呪文を唱えられたこともあった。

その言葉は聞き慣れなくて、理解できなかったが、「マク」だったか「バル」だったか。そんな感じの単語だった。


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