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誰が誰の婚約者?

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ダリルの姿を見つけたミシェルは一瞬、声をかけるか見て見ぬフリをしようか迷った。結局、答えが出るより前にダリルが他の人に呼ばれて、姿が見えなくなったのだけれど。

久しぶりに見た婚約者は最後にあった時よりも眉間の皺を深くしていた。

もしかして、自分に会いに来たのか、とも思えたが、きっと気のせいだ。

ミシェルは先程まで屋敷にて父と話していたお客様の後姿を見送った。二人は平民に見える出立ではあったが、所謂訳ありの元貴族だろうと思われた。

父は彼らを子爵家が融資するある店で匿っている。平民の男女のうち、男性の養父が、その昔父を助けてくれたことがあったのだという。助けた見返りに、息子が将来困っていたら助けて欲しい、と言われ、その約束を守った結果らしい。

男性の顔を見てミシェルは父に直接尋ねることはしなかったものの、何となく彼の身の上に起こったことが分かった。

グレイという名前のその男性は確かにどこかルッツ侯爵を思い起こさせる見た目をしていた。

「お父様、彼の方はもしかして……」
「ミシェル、気がついたこと全てを口に出してはいけないよ。気づいた時には手遅れになる程には、巻き込まれているんだ。私達、下位の貴族には領分というものがあるからね。」

彼の奥様は、身重の身であるらしい。初めての子だと、念願の子だと、はにかむ様子にミシェルの目尻も自然と下がる。

一緒に訪れた女性も、明るくハキハキした女性ではあったが、ニコニコしてはいても、ミシェルとの間には強い拒絶を感じる壁があって、世間話にもどこか緊張感でいっぱいになった。

彼女は彼女でやはり貴族だったのだろうか。ミシェルよりもいくつか年上であろうと思われるも、そんなに前の貴族達の情報なんて知る訳もなく。

その女性とは似ても似つかないのに、ミシェルの心にはラナーリアがどこかから忍び寄って来てミシェルはある事実に気づくことが出来た。

どこかに貴族感があったのは彼女が何故かラナーリアに見えたからだ。

とはいえ、見た目は全く似ていない二人。ミシェルはラナーリアの前にも、侯爵家の嫁として認められた女性がいたことを思い出した。

そう、ルッツ侯爵家において、妹のサンドバッグであり、おもちゃでもあり、駒でもある存在は、ラナーリアの前にもいたのである。

彼女は確か……嫡男を捨てて、次男と駆け落ちした、とかしないとか。実家はそれから間をおかず、没落したと思う。

彼女の名前はリリーシア・クルス子爵令嬢だったか。妖精のように美しく可憐でそれだけで侯爵家の嫁として歓迎されたご令嬢。

ん?でもそれならグレイさんの奥様がリリーシア嬢?

ミシェルは閉じかけた頭から締め出された思考と共に、じわじわと奈落へ落ちていった。
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