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男爵令嬢の日常
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噂をすれば、だなと、普段噂はされる方のルーナは少し緊張する。ルーナにとっては余計なお世話の最近よく絡んでくる男の婚約者が、ルーナの目前に現れる。
彼女自身はさておき、彼女の周りにいる友人達はルーナには天敵と言っていい人が揃っていた。
ルーナに対して何故か悪意のある噂を撒き散らしている伯爵令嬢、ラナーリア・ハルストに、第二王子の婚約者候補であるアンジェリカ・ルッツ侯爵令嬢。男爵令嬢でしかないルーナにとっては雲の上の存在と言っても過言ではない。だからこそ関わりもない筈だが、気がついた時には嫌われていた。
最初から嫌われているのだから、仲良くなりたいと思う筈もない。ただ只管にルーナは見つからないようにコソコソと、彼女達の前から姿を消した。
ルーナは学園を卒業したら、平民になりたいと思っている。だけど、男爵位といえども貴族令嬢が平民になって、食べていけるなどと楽観的な考えをしていた訳ではない。
平民になっても困らないように、勉強をしながらではあるが、少しずつ市井に慣れていく為に、放課後は市井の店で働いている。
貴族が来る店ではなく、完全なる平民向けの店なので、うっかり貴族令嬢に見つかって、新たな噂の燃料をちらつかせることもなかった。
学園の勉強は難しいが、知らないことを知ることはとても楽しい。悲しいことに、友人がいないルーナは、友人に煩わされることもなく、勉強に、仕事にと、時間を使うことが出来ていた。
困るのは試験対策やら、イベントの準備を全て自力でやらなくてはならないことだが、その昔、母も学園時代同じような境遇だったと聞くし、教師に聞きにいくことで、教師からは優等生だと思われているので、結果的に良かったのかもしれない。
テスト勉強さえ早めに終わらせれば、稼ぎ時だとばかりに仕事が待っている。職場にはルーナより年上の既婚男女が幾人か。
学園では浮いている存在のルーナでも職場では地に足をつけたしっかり者として通っていた。
「ねえ、ルーちゃんはさ、結婚願望とかないの?」
話しかけて来るのは最近地方から異動して来たエミさん。年齢は内緒、らしいが、多分ルーナとは五、六歳ほど開いている。市井での流行り物の記憶から、年齢がバレると聞いて、ルーナは実はドキドキしていたのだが、年上の先輩の話にキョトンとしていたら、若いなぁ、と笑われてしまった。
同じ平民でも、記憶に偏りがあるのは当然らしい。ホッとして、ルーナは話に講じる。こちらが話をしなくても先輩方は皆話上手で、有難い。
ルーナは学園であった嫌な出来事を忘れていることに気づいて、嬉しい気持ちになった。
誰かがわからない話には、わかるように説明をしてくれたり、話を変えたりしてわかるように配慮してくれる。
ここでは仲間はずれにされることもなく、穏やかな心でいられる。
仕事を終えると、外は暗くなりかけていた。いつもはもう少し早く帰るのだが、話が盛り上がってしまって、遅くなってしまった。
エミさんに聞かれた「結婚願望」は、答える前に別の話題に変わってしまった。
貴族令嬢として生きるのなら、結婚は政略であれ、恋愛であれ、大切なものだと思うけれど、平民になったらどうなるのだろう。ルーナは今まで考えたことがないとは言わないが、最終的な答えにまで辿り着けたことはない。
よっぽどこの人じゃなきゃ、という人がいれば別だが、そうじゃないなら、ないでしなくても良いのではないだろうか。
彼女自身はさておき、彼女の周りにいる友人達はルーナには天敵と言っていい人が揃っていた。
ルーナに対して何故か悪意のある噂を撒き散らしている伯爵令嬢、ラナーリア・ハルストに、第二王子の婚約者候補であるアンジェリカ・ルッツ侯爵令嬢。男爵令嬢でしかないルーナにとっては雲の上の存在と言っても過言ではない。だからこそ関わりもない筈だが、気がついた時には嫌われていた。
最初から嫌われているのだから、仲良くなりたいと思う筈もない。ただ只管にルーナは見つからないようにコソコソと、彼女達の前から姿を消した。
ルーナは学園を卒業したら、平民になりたいと思っている。だけど、男爵位といえども貴族令嬢が平民になって、食べていけるなどと楽観的な考えをしていた訳ではない。
平民になっても困らないように、勉強をしながらではあるが、少しずつ市井に慣れていく為に、放課後は市井の店で働いている。
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困るのは試験対策やら、イベントの準備を全て自力でやらなくてはならないことだが、その昔、母も学園時代同じような境遇だったと聞くし、教師に聞きにいくことで、教師からは優等生だと思われているので、結果的に良かったのかもしれない。
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「ねえ、ルーちゃんはさ、結婚願望とかないの?」
話しかけて来るのは最近地方から異動して来たエミさん。年齢は内緒、らしいが、多分ルーナとは五、六歳ほど開いている。市井での流行り物の記憶から、年齢がバレると聞いて、ルーナは実はドキドキしていたのだが、年上の先輩の話にキョトンとしていたら、若いなぁ、と笑われてしまった。
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