友人は自力で選びますので

mios

文字の大きさ
上 下
1 / 13

婚約者からのお願い

しおりを挟む
「君に頼みがあるんだ。」
いつもそっけない婚約者からの突然の頼みに、嫌な予感を覚えるのは何もミシェルに限ったことではない。

月に一度、最近では事前にキャンセルしてくる婚約者とはいえ、愛情など元から薄い相手に、会話すらままならない仲でしかない相手に、「頼み」など、面倒でない筈がない。

お断りします、と言うか迷った結果、話だけは聞いてあげようと、情けをかけた結果、ミシェルはある結論に達した。

嫌な予感がある時点で断っておけば、更なる面倒に巻き込まれなかったのに、と。

「君は……ローガン男爵令嬢を知っているか?」
「ええ、有名な方ですわね。」
それが何か?とは聞かなかった。話を促す気はない。何せ嫌な予感が的中したのだから。

「彼女と友人になって貰えないだろうか?いや、彼女は友人がいないそうで……」

話の続きを期待していたのに、そこで話は途切れてしまった。

友人がいなくて、それで何だというのか。それぐらい貴族令嬢ならば自力で何とかすべきでしょう。

「彼女は私と友人になりたいと言ったのですか?貴方とではなくて?」

婚約者はわかりやすく狼狽えると、「いや、確かに私と友人になりたいとは言われたが、友人なら同姓の方がいいだろう。私と彼女では、話も合わないし……」

まただ。話の最後を話さないのはやめてほしい。察してくれ、なんて子供じゃあるまいし。

「私なら彼女と話が合うと?」
「やはり同性同士が良いんじゃないかと思って……できれば君の友人との橋渡しもしてもらいたいんだ。」

ミシェルは友人の面々を思い出し、ため息をついた。彼女達が男爵令嬢にどう接するかわかった上での発言ではないことは分かり切っている。

「お断りいたします。」

ミシェルの言葉に面食らった様子の婚約者ダリルは、何故か少し不機嫌になって、ミシェルに突っかかってきた。

「どうして……一度、会ってみてくれないか。それから決めても遅くはないだろう。」

「どうして?貴方が理由に思い至らないことにどうして、と言いたくはなりますが。私、時間を無駄にしたくないのです。ローガン男爵令嬢とは今後関わりになることはございませんので。」

「君は……彼女の言う通り、冷たい人間なのだな。」

「それです。」
「……何だと?」
「その、私を冷たいと言ったのは、貴方が友人になってくれとお願いして来た、その男爵令嬢なのでしょう?」

何故か不機嫌になって、見当違いにも此方を責めて来たダリルは、ミシェルの発言に、漸く自らの間違いに気づいたらしい。

「そもそも、友人でもない、話をしたこともない彼女に、冷たいと言われるのは不思議です。それに、その根拠のない彼女の勝手な考えを、わざわざ婚約者である貴方に伝えたことに、私は彼女の意図を感じるのです。私の言いたいこと、お分かりですか。」

ダリルには今度こそ意味が通じただろう。というか、そうであってほしい、と期待を込める。

彼は時間を無駄にしたことを詫びて、話は有耶無耶になった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

酷い扱いを受けていたと気付いたので黙って家を出たら、家族が大変なことになったみたいです

柚木ゆず
恋愛
 ――わたしは、家族に尽くすために生まれてきた存在――。  子爵家の次女ベネディクトは幼い頃から家族にそう思い込まされていて、父と母と姉の幸せのために身を削る日々を送っていました。  ですがひょんなことからベネディクトは『思い込まれている』と気付き、こんな場所に居てはいけないとコッソリお屋敷を去りました。  それによって、ベネディクトは幸せな人生を歩み始めることになり――反対に3人は、不幸に満ちた人生を歩み始めることとなるのでした。

お久しぶりですね、元婚約者様。わたしを捨てて幸せになれましたか?

柚木ゆず
恋愛
 こんなことがあるなんて、予想外でした。  わたしが伯爵令嬢ミント・ロヴィックという名前と立場を失う原因となった、8年前の婚約破棄。当時わたしを裏切った人と、偶然出会いました。  元婚約者のレオナルド様。貴方様は『お前がいると不幸になる』と言い出し、理不尽な形でわたしとの関係を絶ちましたよね?  あのあと。貴方様はわたしを捨てて、幸せになれましたか?

無実の罪で聖女を追放した、王太子と国民のその後

柚木ゆず
恋愛
 ※6月30日本編完結いたしました。7月1日より番外編を投稿させていただきます。  聖女の祈りによって1000年以上豊作が続き、豊穣の国と呼ばれているザネラスエアル。そんなザネラスエアルは突如不作に襲われ、王太子グスターヴや国民たちは現聖女ビアンカが祈りを怠けたせいだと憤慨します。  ビアンカは否定したものの訴えが聞き入れられることはなく、聖女の資格剥奪と国外への追放が決定。彼女はまるで見世物のように大勢の前で連行され、国民から沢山の暴言と石をぶつけられながら、隣国に追放されてしまいました。  そうしてその後ザネラスエアルでは新たな聖女が誕生し、グスターヴや国民たちは『これで豊作が戻ってくる!』と喜んでいました。  ですが、これからやって来るのはそういったものではなく――

5年ぶりに故郷に戻ったら、かつて私を捨てた元婚約者が助けを求めてきました

柚木ゆず
恋愛
 かつての婚約者によって全てを失い、最愛の人に救われてから5年。わたしは今は亡きおばあ様に結婚の報告をするため、久しぶりに故郷に戻りました。  お墓にご挨拶をして、おばあ様との思い出の場所を巡って。懐かしい時間を過ごしていた、そんな時でした。突然わたしの前に大嫌いな元婚約者が現れ、わたしだと気付かずこのようなことを叫んだのでした。 「お願いしますっ、たすけてください!!」  ※体調不良の影響でお返事を行えないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただいております。

お父様お母様、お久しぶりです。あの時わたしを捨ててくださりありがとうございます

柚木ゆず
恋愛
 ヤニックお父様、ジネットお母様。お久しぶりです。  わたしはアヴァザール伯爵家の長女エマとして生まれ、6歳のころ貴方がたによって隣国に捨てられてしまいましたよね?  当時のわたしにとってお二人は大事な家族で、だからとても辛かった。寂しくて悲しくて、捨てられたわたしは絶望のどん底に落ちていました。  でも。  今は、捨てられてよかったと思っています。  だって、その出来事によってわたしは――。大切な人達と出会い、大好きな人と出逢うことができたのですから。

もうすぐ婚約破棄を宣告できるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ。そう書かれた手紙が、婚約者から届きました

柚木ゆず
恋愛
《もうすぐアンナに婚約の破棄を宣告できるようになる。そうしたらいつでも会えるようになるから、あと少しだけ辛抱しておくれ》  最近お忙しく、めっきり会えなくなってしまった婚約者のロマニ様。そんなロマニ様から届いた私アンナへのお手紙には、そういった内容が記されていました。  そのため、詳しいお話を伺うべくレルザー侯爵邸に――ロマニ様のもとへ向かおうとしていた、そんな時でした。ロマニ様の双子の弟であるダヴィッド様が突然ご来訪され、予想だにしなかったことを仰られ始めたのでした。

どうやらこのパーティーは、婚約を破棄された私を嘲笑うために開かれたようです。でも私は破棄されて幸せなので、気にせず楽しませてもらいますね

柚木ゆず
恋愛
 ※今後は不定期という形ではありますが、番外編を投稿させていただきます。  あらゆる手を使われて参加を余儀なくされた、侯爵令嬢ヴァイオレット様主催のパーティー。この会には、先日婚約を破棄された私を嗤う目的があるみたいです。  けれど実は元婚約者様への好意はまったくなく、私は婚約破棄を心から喜んでいました。  そのため何を言われてもダメージはなくて、しかもこのパーティーは侯爵邸で行われる豪華なもの。高級ビュッフェなど男爵令嬢の私が普段体験できないことが沢山あるので、今夜はパーティーを楽しみたいと思います。

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

処理中です...