王妃様は悪役令嬢の味方です

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第五部

サバエリエの庶子問題②

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ジェイミー・サバエリエはれっきとした男性である。連れてこられた当初は身体検査もされるし、性別はごまかせない。だけど、今サバエリエ家にいるジェイミーは別人だった。ジェイミーはどこに行ったのか。そして、今サバエリエにいるジェイミーは誰なのか。

シュナイダーがそれを知らないはずはない。だけど必死に隠している。

「誰に知られてはならないんだ?」

「本当ならお前に知られた時点でアウトだ。隣国の言いなりになっている時点で、王太子失格なのだから。」

「本物のジェイミーは、隣国にいるのか。」

「ああ、アレックスとして、潜入捜査中だ。」

「待てよ。アレックスなら公爵に殺された筈だろ。」

「ああ、殺されてる。だが、ジェイミーはアレックスに似ている。多分母親が姉妹同士なことも関係しているだろう。父が庶子を全て受け入れたのはその全てか一部が隣国に繋がっていると踏んだからだ。実際にはアレックスだけしか尻尾を出さなかったが。潜入捜査を願い出たのはジェイミーの方だ。彼は、父を父だと認識していない。迷惑をかけている、とわかった上で、母親の目論見を潰したいと考えていた。その為、ジェイミーは自身にとっていちばん大切な者を人質としてサバエリエに置いた。彼女はジェイミーの妹だ。」

「その話が本当ならお前こそ、王太子に相応しいだろ。隣国の企みを暴くなど、早々できる訳もない。」

アレックスが死に、それで話が終わったと思い込んでいた自分は何も見えていなかった。尚且つ、彼とジェイミーの仲を疑って、変な妄想まで……ルイスは己の早合点にため息をついた。

デズモンド家だからといって無条件で有能なのではない。父や叔母にはまだ遠く及ばない。

「シュナイダー、何の慰めにもならないと思うが、私が知ったということは、既に父の耳に入っている可能性が高い。当主も事情通なら当主同士での話し合いになると思うが、公爵はご存知なのか。」

「ああ、元より父の意向だ。ジェイミーを逃さない為に妹を差し出させ、私の下につけたのも、敢えて人質を女性にしたのも、全て父の采配だ。多分、デズモンド家は容認してくれるだろう、と思っているが。失敗したなら、コチラの責任で、私ごと王位継承権ごとなくなるのだからな。」

この件をうまくすすめないと、確かに失脚の要因になる。だが、あの公爵が下手を打つような真似をするだろうか。最悪、何もかも失い、デズモンドに屈することになるのに。

「ご当主は何か隠していることでもあるのか。デズモンド家に対抗できる何か。」

「それは私よりもお前の方が探しやすいのではないか。デズモンドの弱味など、私が知った暁には、どうなるかなど目に見えている。」

サバエリエの庶子について話していた内容はいつのまにか、デズモンド家の弱点の話に変わってしまった。

今の段階でデズモンド家の弱点を挙げるなら、王妃……か?叔母上のやりたいことの多くはすでに進行中で、今は調整段階に入っている。彼女のやりたい、辿り着きたい結果は、デズモンド家の欲する成果とは全く同じということもないのだろう。

「隣国を巡る環境は以前とは全く変わっている。一番顕著なのはニコラス第三王子を取り巻く環境だ。

ルーナ・ウォルトの動向然り、彼がウォルト公爵家ではなく、オルヴィス公爵家に、ご執心である証拠も既にある。彼はサンドラ嬢を欲しているらしい。婚約者のルーナ嬢を差し置いて、サンドラ嬢を求める背景には、王妃様の計画が元になっているという。」

王妃の計画について、知らないことが多すぎる。それは二人に共通して言える明らかな弱点である。

「やっぱり王妃様との対決は、不可避なのか。」

デズモンド家と王妃様は、どちらも独自の調査網がある。どちらがより優秀からはわからないが、どちらにも言えるのは、忠誠を誓う相手によって、掴み取る情報も様変わりする。

エドワードを出し抜くのならば、ルイス自身で探した情報網を確立する必要がある。そうして作り上げた自分の組織はまだ当主のソレには到底敵わない。

出し抜くのは父だけではなく、ルイスの周囲の人物全てをだし抜かなければならない。そんなことは可能なのか。その答えは図らずも出会った一人の女性によって覆されることになる。



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