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私に何があったのか①
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「結婚、ですか?」
バスキ侯爵家では、末娘のカトレアが困惑していた。自分の結婚する相手と認識していた男が王女殿下の指示で、伯爵令嬢と結婚した、と教えられたからだ。
カトレアと、その男は婚約者ではない。何度か家を通して打診したものの、丁重にお断りされている。それでも社交界の常識として、カトレアと彼の仲は婚約者と同等の扱いであった。
バスキ侯爵家に盾突けると言うと、公爵家と王家ぐらいのもの。
それに適齢期はカトレアと、ライアス・リグドーその人ぐらいだったから、大して牽制などもしていなかった。
なのに。どこの馬の骨かと調べてみると、没落寸前の伯爵家ですって?
結婚しても何の旨味もない相手。ってことはつまり?
「王女殿下が間に入っているのは多少気になりますが、これは……裏切りではなくて余興なのでは?」
「は?」
カトレアの発言に周りは困惑している。
「あら、だって、彼は私を焦らそうとしているんでしょう?早く結婚しないと自分が他のご令嬢と結婚してしまうってそう伝えたいのよ。でしょう?」
カトレアの侍女は、いつものカトレアの発言については肯定しか返していないが、今は上手にそうは言えなかった。
「お嬢様、それは違うと思いますよ。」
侍女の代わりに伝えたのは、彼女の護衛。彼は自分の主人におかしいことはおかしいと伝えられる唯一の人。カトレアも彼に言われたことならば、自然と素直に聞く、いわば護衛というよりは歳の離れた兄のような存在だった。
「私の調べたところ、リグドー公爵令息のご研究を通じてお知り合いになられ、愛を育まれたとか。王女殿下は橋渡しをしただけの、恋愛結婚ですね。」
「ええ?私との婚約がありながら?王女殿下は何を考えているのかしら。」
「お嬢様、あちらとの婚約はまだ成立しておりませんので、そのような発言は……」
「あら、どうして?政略結婚と恋愛結婚よ?貴族ならどちらが重要かわかるでしょう?彼方だって没落伯爵家より筆頭侯爵家と手を組む方が絶対にいいでしょうに。」
政略結婚といいながら、随分と私情の入った物言いに、護衛はため息をついた。カトレアとの婚約を先方が断ったのは、そこに旨味どころか、悪い方に影響があるから受けなかったのだと、誰でもわかるというのに。リグドー公爵家は公爵家の中でも一線を画す。嫡男は優秀だが、次男のライアスも、魔の研究者としてとても優秀で、だからこそ王家に対抗できる家なのだが、その上バスキ侯爵家などと縁を結んだ日には謀反を疑われかねないので、丁重にお断りされた次第である。
カトレアが末娘であることと、国内にもう釣り合う相手がいないことで、侯爵が縁談を後回しにしていたことで、カトレアの中では断られたにも関わらず、ライアスとの間は婚約間近だと思い込んでしまった。
「政略結婚と言うなら、お嬢様と、彼の方の婚約はありえません。お嬢様だってお分かりのはずです。何度も説明されましたよね?」
公爵家の丁重な断り文句に納得のいかなかった侯爵が呟いた余計な一言は、誰よりもカトレア自身に深く突き刺さっていた。
「でも、お父様は仰ってたわ。政略結婚ではなく、恋愛結婚でカトレアが気に入られたら、って。」
「だから、それで伯爵令嬢が気に入られたのです。」
カトレアは「そんなはず無いわ!」と声を荒げる。その様子に護衛は面倒ごとに巻き込まれそうな気配を感じ、目を瞑った。
バスキ侯爵家では、末娘のカトレアが困惑していた。自分の結婚する相手と認識していた男が王女殿下の指示で、伯爵令嬢と結婚した、と教えられたからだ。
カトレアと、その男は婚約者ではない。何度か家を通して打診したものの、丁重にお断りされている。それでも社交界の常識として、カトレアと彼の仲は婚約者と同等の扱いであった。
バスキ侯爵家に盾突けると言うと、公爵家と王家ぐらいのもの。
それに適齢期はカトレアと、ライアス・リグドーその人ぐらいだったから、大して牽制などもしていなかった。
なのに。どこの馬の骨かと調べてみると、没落寸前の伯爵家ですって?
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「王女殿下が間に入っているのは多少気になりますが、これは……裏切りではなくて余興なのでは?」
「は?」
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「あら、だって、彼は私を焦らそうとしているんでしょう?早く結婚しないと自分が他のご令嬢と結婚してしまうってそう伝えたいのよ。でしょう?」
カトレアの侍女は、いつものカトレアの発言については肯定しか返していないが、今は上手にそうは言えなかった。
「お嬢様、それは違うと思いますよ。」
侍女の代わりに伝えたのは、彼女の護衛。彼は自分の主人におかしいことはおかしいと伝えられる唯一の人。カトレアも彼に言われたことならば、自然と素直に聞く、いわば護衛というよりは歳の離れた兄のような存在だった。
「私の調べたところ、リグドー公爵令息のご研究を通じてお知り合いになられ、愛を育まれたとか。王女殿下は橋渡しをしただけの、恋愛結婚ですね。」
「ええ?私との婚約がありながら?王女殿下は何を考えているのかしら。」
「お嬢様、あちらとの婚約はまだ成立しておりませんので、そのような発言は……」
「あら、どうして?政略結婚と恋愛結婚よ?貴族ならどちらが重要かわかるでしょう?彼方だって没落伯爵家より筆頭侯爵家と手を組む方が絶対にいいでしょうに。」
政略結婚といいながら、随分と私情の入った物言いに、護衛はため息をついた。カトレアとの婚約を先方が断ったのは、そこに旨味どころか、悪い方に影響があるから受けなかったのだと、誰でもわかるというのに。リグドー公爵家は公爵家の中でも一線を画す。嫡男は優秀だが、次男のライアスも、魔の研究者としてとても優秀で、だからこそ王家に対抗できる家なのだが、その上バスキ侯爵家などと縁を結んだ日には謀反を疑われかねないので、丁重にお断りされた次第である。
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「政略結婚と言うなら、お嬢様と、彼の方の婚約はありえません。お嬢様だってお分かりのはずです。何度も説明されましたよね?」
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「でも、お父様は仰ってたわ。政略結婚ではなく、恋愛結婚でカトレアが気に入られたら、って。」
「だから、それで伯爵令嬢が気に入られたのです。」
カトレアは「そんなはず無いわ!」と声を荒げる。その様子に護衛は面倒ごとに巻き込まれそうな気配を感じ、目を瞑った。
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