睡魔さんには抗えない

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妹に何があったのか②

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男はこんな顔だっただろうか。目覚めたクレアには先程まで笑いあっていた不細工な彼が、まるで美男子のように見える。倒れた時に打ったのか全身が痛みを訴えていたけれど、夢見心地でクレアが思ったのはこの見た目なら姉じゃなくて自分の夫にしてやっても良い、ということだった。

「ねえ、お前……さっきの侍女の女は遊びなのよね?最初は姉と結婚してもらおうと思っていたのだけど、この際私と結婚するっていうのはどうかしら。貴方は姉を誑かして「真実の愛」で姉をこの家に縛り付けて欲しいの。実際には勿論しなくていいのよ。だけど、あの潔癖で清廉潔白みたいな顔をしている姉に「禁断」を覚えさせるの。面白そうじゃない?」
 
男はクレアの案に乗って来た。侍女の女とは今日が初めてで、正直あまり美味しくなかったからもういいらしい。女を味わうほど遊んでいるのが、クレアには少し気にはなったものの、これからどのようにも躾すればいいと、クレアは笑みを浮かべた。

「姉には私と婚約するまでに一度告白しておいてね。姉がその気になったら、一度相手をしてあげても良いわね。」

姉が絶望する時ってどんな状況なのかしら。クレアはあの打たれ強い姉が絶望に染まる瞬間を想像する。その顔が見れるならどんな辛いことでもやってのける。クレアはその時が来るいつかを心待ちにした。




妹が一度倒れてから、譫言のように繰り返す言葉から、リゼルが関係しているのは分かり切ったことだが。妹が姉にどんなことを企み、実行に移したかったかを聞くと、少しだけ残っていた自分の良心すら霧散して消えてしまった。

「長年生きて来たが、歴代の愚者の中でもあの女は群を抜いて悪意だけを育てて来ているな。人間にしておくには惜しいぐらいだ。」

あの妹クレアは本人の知らぬところで本物の「魔」に褒められる程の愚物に成り果てたのだと思うと、複雑な気分になった。両親は妹とは違い目覚めることはまだない。リゼルに聞いた訳でもないし、聞いても答えてくれるかはわからないが、セリーヌが思うに、リゼルは両親よりもクレアに興味があるようだ。

それは勿論好意ではない。寧ろその逆で、嫌がらせみたいなものだと、思う。

ライアスから借りた本によると、夢魔が好む愚者と、睡魔が好む愚者には傾向に違いがあるらしい。睡魔は狙い定めた者以外には容赦ない。今回で言うなら私以外の者ということになり、私に当たりの一番強かった妹に、ということになるのかな?

もしセリーヌが何の疑問も持たずに王女殿下に会いに行かず、ライアスにも会えていなかったら、今の妹みたいな状況に自分がなっていたかもしれない。

だとして、自分ならどんな夢を見るのかと少し見たい気持ちもあって、やっぱり複雑な気持ちになった。

セリーヌはあまり誰かに危害を加えたい、という妹みたいな気持ちがない。あれだけ我儘に振る舞われても妹や両親に対して、やり返したい、と言うのもない。自分でもそう言うところが自分勝手な人達につけ込まれるところだとは思うのだが、性分としか言いようがないのだ。

性格的なところは家族の誰にも似ていなくても、セリーヌはこの家の娘で間違いない。人知れず調べたことはあるが、残念ながら、血の繋がった家族が別にいたりはしなかった。

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