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睡魔さんとの付き合い方
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図書館はいくら広いとは言え、他の利用者もいるので邪魔にならないよう、彼の研究室で話を聞くことになった。
研究室には専門家と自称するに値する「魔」に関する書籍がたくさんあり、図書館に比べても遜色ないほどの内容量に見える。
ただ手に取ると、そのどれもにライアスの名前が書いてあり、著書であることがわかった。
そのうちのいくつかを開いて、彼はまず「睡魔」について、説明を始めた。
「魔を使役するのは初めて、と言う前提で話をすると、初めてが「睡魔」だと言うのはある意味正しいことだと言える。初心者にも扱いやすい魔が睡魔であることは紛れもない事実だからね。ただ君が心配しているように彼らを使役するには対価が必要で、それは契約者以外に知らされることはない。今回なら王家だが、それを開示されることはない。なぜなら国家機密に繋がる事項として処理されているからだ。」
ここで、機密に触れないぐらいのことを暴露するなら、その手の制約には大きく二つの種類がある、とライアスは言った。
一つは、対価と定めたものに対して睡魔に権利があるもの。例えば、対価として出されたものが何らかの事情で対価になれなかった場合、どれだけ魔が裁量を与えられているか。
「差し出された誰か以外を魔が勝手に選ぶと言うことだな。その加減を制約として与えているかどうか。」
「対価をどこまで引き延ばして考えるか、と言うことですか?」
今はまだ両親と妹からしか奪っていない何らかの力を他の人、例えば使用人やセリーヌ自身に求める、ということができるのかできないのか。これは、王女殿下の性格上、ない、と思う。使用人はどうかわからなくても、セリーヌに被害が及ぶものを本人には渡さないだろうし。
いや、もしかしたらいつのまにか王女殿下に疎まれていて、こちらを亡き者にする為に、という可能性もあるのかもしれないけれど。
それでも、クリスティナはそんなことを考える人ではない。本当に善意から力を貸してくれている。セリーヌはその辺りの自分の直感には自信があった。
「そして二つ目は、対価に使役者を含むか否か。これは今回では君自身ということになる。これは今回の件ではなり得ないと言えるが、ここで重要なのは、その制約は魔を縛るものにはならないということだ。」
ライアスはここで言葉を切り、真顔でセリーヌをじっと見つめた。
「君は、やはり睡魔を使役しているせいか彼から何らかの蕾のようなものを植え付けられているように感じるね。使役しているうちに君を錯覚させて、制約の穴を突こうと彼に囚われ始めている。
最近、考え方やら行動が少し非道になったりしていないか?それか妙に楽観的になったり、難しいことを考えなくなったり。それは多分魔の影響を受けている証拠だな。」
セリーヌは驚いた。彼の言うことに心当たりがあった。
「睡魔は最終的に私をどうしたいのでしょうか。」
「魔の最終目標は何であれ、人間を喰らうことになるのではないかと思う。どんなに協力的で親切に見えても彼は魔であるからね。ではこれから魔の特性を挙げて説明していくことにしよう。
君は睡魔以外の魔について、知っているかい?この際、使役のことは横に置いておこう。そうだな……君は睡魔によく似た夢魔を知っているかい?彼らはどちらも夢に関連した特性があるのだが、彼らにははっきりとした違いがあるのだよ。」
歴史書によると、「夢魔」は「睡魔」より早く人間に使役されていた過去があった。但し、その使役は言うなれば全て失敗であった。彼らに正しく制約を課すことができなかったからだ。
「夢魔は、夢を食べ尽くす。良い夢も悪い夢も際限なく食べてしまうんだ。悪い夢だけ食べて、と願っても本人に善悪の判断がつかないから制約にならない。睡魔はその点、悪意や絶望は美味しく、それ以外は美味しくない、という彼らの味覚というセンサーがある為に制約をつけることができた。」
「睡魔は、美味しくないものを食べたくないから、美味しいものを選んで制約を掻い潜ろうとしている、と?」
「いや、彼らは美味しいものを食べる為なら不味いものでも口にできるんだ。だから、油断ならない。」
今リゼルがセリーヌに協力的に振る舞うのは、来るべき時にセリーヌを美味しく喰らう為ではないか。
そうライアスは言う。そして、セリーヌが知らないうちにその種はすでにセリーヌの中にばら撒かれている、らしい。
研究室には専門家と自称するに値する「魔」に関する書籍がたくさんあり、図書館に比べても遜色ないほどの内容量に見える。
ただ手に取ると、そのどれもにライアスの名前が書いてあり、著書であることがわかった。
そのうちのいくつかを開いて、彼はまず「睡魔」について、説明を始めた。
「魔を使役するのは初めて、と言う前提で話をすると、初めてが「睡魔」だと言うのはある意味正しいことだと言える。初心者にも扱いやすい魔が睡魔であることは紛れもない事実だからね。ただ君が心配しているように彼らを使役するには対価が必要で、それは契約者以外に知らされることはない。今回なら王家だが、それを開示されることはない。なぜなら国家機密に繋がる事項として処理されているからだ。」
ここで、機密に触れないぐらいのことを暴露するなら、その手の制約には大きく二つの種類がある、とライアスは言った。
一つは、対価と定めたものに対して睡魔に権利があるもの。例えば、対価として出されたものが何らかの事情で対価になれなかった場合、どれだけ魔が裁量を与えられているか。
「差し出された誰か以外を魔が勝手に選ぶと言うことだな。その加減を制約として与えているかどうか。」
「対価をどこまで引き延ばして考えるか、と言うことですか?」
今はまだ両親と妹からしか奪っていない何らかの力を他の人、例えば使用人やセリーヌ自身に求める、ということができるのかできないのか。これは、王女殿下の性格上、ない、と思う。使用人はどうかわからなくても、セリーヌに被害が及ぶものを本人には渡さないだろうし。
いや、もしかしたらいつのまにか王女殿下に疎まれていて、こちらを亡き者にする為に、という可能性もあるのかもしれないけれど。
それでも、クリスティナはそんなことを考える人ではない。本当に善意から力を貸してくれている。セリーヌはその辺りの自分の直感には自信があった。
「そして二つ目は、対価に使役者を含むか否か。これは今回では君自身ということになる。これは今回の件ではなり得ないと言えるが、ここで重要なのは、その制約は魔を縛るものにはならないということだ。」
ライアスはここで言葉を切り、真顔でセリーヌをじっと見つめた。
「君は、やはり睡魔を使役しているせいか彼から何らかの蕾のようなものを植え付けられているように感じるね。使役しているうちに君を錯覚させて、制約の穴を突こうと彼に囚われ始めている。
最近、考え方やら行動が少し非道になったりしていないか?それか妙に楽観的になったり、難しいことを考えなくなったり。それは多分魔の影響を受けている証拠だな。」
セリーヌは驚いた。彼の言うことに心当たりがあった。
「睡魔は最終的に私をどうしたいのでしょうか。」
「魔の最終目標は何であれ、人間を喰らうことになるのではないかと思う。どんなに協力的で親切に見えても彼は魔であるからね。ではこれから魔の特性を挙げて説明していくことにしよう。
君は睡魔以外の魔について、知っているかい?この際、使役のことは横に置いておこう。そうだな……君は睡魔によく似た夢魔を知っているかい?彼らはどちらも夢に関連した特性があるのだが、彼らにははっきりとした違いがあるのだよ。」
歴史書によると、「夢魔」は「睡魔」より早く人間に使役されていた過去があった。但し、その使役は言うなれば全て失敗であった。彼らに正しく制約を課すことができなかったからだ。
「夢魔は、夢を食べ尽くす。良い夢も悪い夢も際限なく食べてしまうんだ。悪い夢だけ食べて、と願っても本人に善悪の判断がつかないから制約にならない。睡魔はその点、悪意や絶望は美味しく、それ以外は美味しくない、という彼らの味覚というセンサーがある為に制約をつけることができた。」
「睡魔は、美味しくないものを食べたくないから、美味しいものを選んで制約を掻い潜ろうとしている、と?」
「いや、彼らは美味しいものを食べる為なら不味いものでも口にできるんだ。だから、油断ならない。」
今リゼルがセリーヌに協力的に振る舞うのは、来るべき時にセリーヌを美味しく喰らう為ではないか。
そうライアスは言う。そして、セリーヌが知らないうちにその種はすでにセリーヌの中にばら撒かれている、らしい。
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