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睡魔さんの専門家
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セリーヌの態度がぎこちなくなって、リゼルは彼女が何かに気づき始めていることを理解した。頭の良い女は嫌いではない。出し抜けた時の絶望感は愚者のそれとは比にならないほど美味だからだ。リゼルは対価にはならないセリーヌのことをそれでも大層気に入っていた。何なら彼女に半永久的に自分を所有して貰いたい、と思うほどに。
セリーヌは周りの悪意に影響されないただ一人の人だ。
純粋培養された貴族令嬢ではないのも、セリーヌを気に入った理由だ。セリーヌの妹を見ているとよくわかる。妹は姉を陥れることばかり考えているからか自分では何の力も持たないのに、それすらを理解していない。馬鹿を騙すのは簡単だが、楽しくはない。睡魔は前の持ち主の愛人のように狂わせるのではなく、別の結末を彼女には用意した。
妹が狂った末にお気に入りが亡くなってしまうのは困るのだ。そんなことになればまた指輪ごと王家に返され、日の目を見ることはなくなる。しかもあの憎たらしい小娘にまた制限をかけられるに違いない。自分達とは違いすぐに死んでしまう人間を守るなんて狂気の沙汰だが、リゼルが自由になるにはセリーヌだけは守り切る必要があった。
リゼルは使用人として伯爵家を歩く。当主夫妻と妹がおとなしくなったからなのか使用人達は生き生きと仕事をしているようで何よりだ。
もう随分前から仕事をしない当主の代わりに働く長女のことを支えてきた使用人達は、特に偉そうにするだけの夫妻と妹を忌々しく思っていたし、妹付きの、彼女を甘やかす侍女達は、リゼルが全て潰しておいた。彼女達は体調不良を理由に各々の実家に送り返されている。
セリーヌは彼女達の願いで紹介状を渡したものの、嘘偽りない働きを書いた為に体調が戻ったとしても他の貴族家では働けるかどうかは微妙なところだ。
リゼルは他の使用人達からは平凡なただの侍従に見えるようで、わざわざ言い寄ってくる者はいない。リゼルは何とか懐柔できないかと、セリーヌの前では素顔を晒しているが、色仕掛けは効いている試しがない。
王宮の図書館で「魔」について調べているだろうセリーヌのことは、今のところ見守りに徹するだけだ。
彼女に詳しく説明できない状況を逆手に取り、まんまと王宮に彼女を差し出してしまった自分をとても悔しがっていると、思わぬところから突然声をかけられた。見るとそこには最近夫人付きから当主付きになった侍女がいる。彼女はリゼルが良く知るタイプの野心のある女で、男を見ると全ての男が自分に夢中になると思うらしい。
リゼルはセリーヌ付きの侍従だから、物珍しいのか、リゼルが一人でいるタイミングで声をかけられることが増えていた。セリーヌには会わせたことはないはずだが、女はどこからか彼女を見ることはあるらしい。
たかだかお飾りの当主のお手つきになったぐらいですっかり夫人に代わり女主人気取りの女。味見をしてみたが、酷い味だ。妹と大差ない、酷い味に、顔を顰めながら、ちゃんと最後までいただく。
女のおかげでリゼルは生き永らえ、セリーヌがちゃんと眠れるのだ。文句を言ってはいけない。睡魔は来るべき時に備えて不味い飯を食らう。
「メインディッシュはいつになるやら。」
セリーヌの絶望をいただく日を指折り数えて、睡魔はさっさと仕事に戻った。
「魔について、調べる人なんて、私以外にいるんだな。」
セリーヌは王宮図書館にて、知らない人に絡まれていた。
第一王女殿下に許可証を発行してもらったと言っても、王宮内で働いているわけもなく、しがない伯爵令嬢であるセリーヌは声をかけてきた男が誰かもわからないぐらいで、ただ王宮にいると言うことは然るべき地位にいる人物だと予想して、王族に接するように最大級の敬意でカーテシーを行った。
相手は当たらずとも遠からず。ある研究棟を管理している公爵家に所縁のあるものすごく偉い方。
何故そんな人がこの場にいるかと言うと、それも王女殿下に頼まれたものだった。
「ライアス・リグドーだ。魔の専門家として王女殿下に派遣された。君に教えを授けるように言われたのだが、何が知りたいんだ?」
リゼルを見慣れているセリーヌでも、彼の美しさに見惚れないようにするのは至難の業だった。リゼルはある意味美しいけれど、それは人間を騙すためのもの、そう割り切ってしまえばどうにかなるが、彼はそう言う美しさではなかった。所謂硬派な美しさ。セリーヌは一目惚れなんて生まれてからずっとしたことはなかったが、少しだけぐらついてしまうぐらいには彼にボーっとしてしまっていた。
「あ、ごめんなさい。ボーっとしてしまいました。」
素直に謝ると、調べたいことを書いたメモを渡す。
いくら許可されていても何度も通うには気が引けて、一度に済ます為に疑問をまとめていたのである。
ライアスは、そのメモを眺めると、疑問点がわかりやすいと褒めてくれた。
彼はとても偉い人であるのに、ただの伯爵令嬢にも丁寧にわかりやすく説明してくれた。
その上で睡魔を使役することには難色を示し、その問題点を口にする。
「彼らは他の魔よりも遥かに気が長い。見た目は親切に見えても、多分碌でもないことを考えているし、やり方も狡猾だ。決して気を許してはいけないよ。」
セリーヌは周りの悪意に影響されないただ一人の人だ。
純粋培養された貴族令嬢ではないのも、セリーヌを気に入った理由だ。セリーヌの妹を見ているとよくわかる。妹は姉を陥れることばかり考えているからか自分では何の力も持たないのに、それすらを理解していない。馬鹿を騙すのは簡単だが、楽しくはない。睡魔は前の持ち主の愛人のように狂わせるのではなく、別の結末を彼女には用意した。
妹が狂った末にお気に入りが亡くなってしまうのは困るのだ。そんなことになればまた指輪ごと王家に返され、日の目を見ることはなくなる。しかもあの憎たらしい小娘にまた制限をかけられるに違いない。自分達とは違いすぐに死んでしまう人間を守るなんて狂気の沙汰だが、リゼルが自由になるにはセリーヌだけは守り切る必要があった。
リゼルは使用人として伯爵家を歩く。当主夫妻と妹がおとなしくなったからなのか使用人達は生き生きと仕事をしているようで何よりだ。
もう随分前から仕事をしない当主の代わりに働く長女のことを支えてきた使用人達は、特に偉そうにするだけの夫妻と妹を忌々しく思っていたし、妹付きの、彼女を甘やかす侍女達は、リゼルが全て潰しておいた。彼女達は体調不良を理由に各々の実家に送り返されている。
セリーヌは彼女達の願いで紹介状を渡したものの、嘘偽りない働きを書いた為に体調が戻ったとしても他の貴族家では働けるかどうかは微妙なところだ。
リゼルは他の使用人達からは平凡なただの侍従に見えるようで、わざわざ言い寄ってくる者はいない。リゼルは何とか懐柔できないかと、セリーヌの前では素顔を晒しているが、色仕掛けは効いている試しがない。
王宮の図書館で「魔」について調べているだろうセリーヌのことは、今のところ見守りに徹するだけだ。
彼女に詳しく説明できない状況を逆手に取り、まんまと王宮に彼女を差し出してしまった自分をとても悔しがっていると、思わぬところから突然声をかけられた。見るとそこには最近夫人付きから当主付きになった侍女がいる。彼女はリゼルが良く知るタイプの野心のある女で、男を見ると全ての男が自分に夢中になると思うらしい。
リゼルはセリーヌ付きの侍従だから、物珍しいのか、リゼルが一人でいるタイミングで声をかけられることが増えていた。セリーヌには会わせたことはないはずだが、女はどこからか彼女を見ることはあるらしい。
たかだかお飾りの当主のお手つきになったぐらいですっかり夫人に代わり女主人気取りの女。味見をしてみたが、酷い味だ。妹と大差ない、酷い味に、顔を顰めながら、ちゃんと最後までいただく。
女のおかげでリゼルは生き永らえ、セリーヌがちゃんと眠れるのだ。文句を言ってはいけない。睡魔は来るべき時に備えて不味い飯を食らう。
「メインディッシュはいつになるやら。」
セリーヌの絶望をいただく日を指折り数えて、睡魔はさっさと仕事に戻った。
「魔について、調べる人なんて、私以外にいるんだな。」
セリーヌは王宮図書館にて、知らない人に絡まれていた。
第一王女殿下に許可証を発行してもらったと言っても、王宮内で働いているわけもなく、しがない伯爵令嬢であるセリーヌは声をかけてきた男が誰かもわからないぐらいで、ただ王宮にいると言うことは然るべき地位にいる人物だと予想して、王族に接するように最大級の敬意でカーテシーを行った。
相手は当たらずとも遠からず。ある研究棟を管理している公爵家に所縁のあるものすごく偉い方。
何故そんな人がこの場にいるかと言うと、それも王女殿下に頼まれたものだった。
「ライアス・リグドーだ。魔の専門家として王女殿下に派遣された。君に教えを授けるように言われたのだが、何が知りたいんだ?」
リゼルを見慣れているセリーヌでも、彼の美しさに見惚れないようにするのは至難の業だった。リゼルはある意味美しいけれど、それは人間を騙すためのもの、そう割り切ってしまえばどうにかなるが、彼はそう言う美しさではなかった。所謂硬派な美しさ。セリーヌは一目惚れなんて生まれてからずっとしたことはなかったが、少しだけぐらついてしまうぐらいには彼にボーっとしてしまっていた。
「あ、ごめんなさい。ボーっとしてしまいました。」
素直に謝ると、調べたいことを書いたメモを渡す。
いくら許可されていても何度も通うには気が引けて、一度に済ます為に疑問をまとめていたのである。
ライアスは、そのメモを眺めると、疑問点がわかりやすいと褒めてくれた。
彼はとても偉い人であるのに、ただの伯爵令嬢にも丁寧にわかりやすく説明してくれた。
その上で睡魔を使役することには難色を示し、その問題点を口にする。
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